著者
中村 恵三
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文報告集 (ISSN:09108017)
巻号頁・発行日
vol.365, pp.84-92, 1986
被引用文献数
1

本稿は,建築家J.B.フィッシヤー・フォン・エルラッハ(1656-1705)の考案したシェーンブルン城第1案(1688)の建築モチーフの考察と,その形態構成表現の柱ともなる彫像作品群の象徴表現の解釈,即ち象徴性の意味関連を考察する事(イコノロギー解釈)を目的としている。既に前稿[I]で,この計画案の要素となる各建築形態が独立的モチーフであり,合成的表現によって,統一ある運動をもつ一つの全体として表現されていることを指摘した。本論では,この構成技法との関連性を踏まえて,建築モチーフの由来及び特色を考察し,またイコノロギー的表現においては,各彫像群の寓意的解釈に図版全体の幾何学的秩序を関係付けた象徴表現の分析をしている。即ちこの計画案の意味内容に,部分と全体との間の必然的統一関連性を求め,寓意像の存在理由に新たな解釈を加えようとするものである。本論では,この図全体の4つの段階ごとの集まりの分類化,つまり城郭部分,2つの庭園テラス部分,そして主要な彫刻作品のある最下層テラスに分け,分析することで,計画案の個々の造形物の由来と特徴を明らかにしようとした。その結果,この計画案が古代ローマのフォルテューナ神殿復原図,また従来,抽象的にしか指摘されていなかったフランスのサン・ジェルマン・アン・レーの影響を,形態構成分析の考察に基づき,より実証的にその直接的影響を指摘した。また彫像作品間に存在する幾何学的構成表現が,象徴表現となっていると云う筆者の指摘は,城郭上方の皇帝像が下層の4つの彫像群を放射状に支配すると云う構成に基づくものである。これは,太陽神に姿を借りた皇帝像が「世界支配」を象徴化していると云う指摘である。それは,この調和的統合表現によって,一つの観念形態を象徴化するイデオロギー表現の存在を意図したものであろう。最後に,この計画案のイコノロギー表現に関与していたとも云われる哲学者ライプニッツの「調和の哲学概念」の関連性を述べているが,前稿[I]の考察も含めこれは彼の哲学概念の視覚上の表現であると云う従来からの観念的指摘に対する,一つの実証的解釈の試みともなっている。

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