- 著者
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金子 隆
- 出版者
- 慶應義塾大学
- 雑誌
- 三田商学研究 (ISSN:0544571X)
- 巻号頁・発行日
- vol.37, no.1, pp.p125-147, 1994-04
企業の投資が家計の貯蓄によって最終的にファイナンスされる過程でマネーサプライが内生的に生み出されるメカニズムを,金融マクロ・モデルの構築によって明らかにする。現実のマネーサプライは内生的な内部貨幣が大半を占めているにもかかわらず,従来のマクロ・モデルでは外生的な外部貨幣を想定することが多かった。そのようなモデルで,マネーサプライと(たとえば)国民所得の関係を論ずることは,誤った帰結を導きやすく,危険である。また,金融政策論議にしばしば用いられる「金融市場の一般均衡モデル」では,実物経済活動とのリンクが遮断されているため,フローの支出ファイナンスとは無関係に,人々の資産選択行動の結果としてのみマネーサプライが増減するという奇妙な仕組みになっている。我々の金融マクロ・モデルでは,投資主体(企業部門)と貯蓄主体(家計部門)を1つに集計化せず,また,資産の需給を期末均衡の枠組みでとらえることで,こうした問題を解決している。モデルから得られるインプリケーションのなかで特に重要なのは,金融政策の中間目標選択問題に関するものである。すなわち,最終目標変数(国民所得)との間の安定的関係という基準で判断するかぎり,もっとも優れた指標はマネーサプライや金利ではなく,民間非銀行部門の債務残高であるという,クレジット・パラダイムを支持する結果が得られる。