- 著者
-
古牧 徳生
- 出版者
- 神戸市看護大学短期大学部
- 雑誌
- 紀要 (ISSN:13428209)
- 巻号頁・発行日
- vol.23, pp.101-117, 2004-03-01
本橋は現代アメリカの倫理学者ジェームズ・レイチェルズが提唱する道徳的個体主義を紹介し、その問題点と現代思想に占める位置を論じたものである。一章では、レイチェルズの議論の前提になっている進化論の人間観を説明する。レイチェルズによれば、人間は動物から進化したものであり、両者のあいだには程度の差しかない。それゆえ人間だけに特別な価値を認めるには無理があり、そのため伝統的な「人間の尊厳」も根拠の弱いものになるとする。二章では、このような人間観に対応する新しい倫理としてレイチェルズの提唱する道徳的個体主義が説明される。それは個体の扱いは(1)扱いの内容と(2)その個体の個別的性質、によって決定されるべきとするものであり、各個体は種別とは無関係に、似ている程度に応じて似た扱いを受け、異なる程度に応じて異なる扱いを受けるべきとされる。三章では、筆者の疑問が示される。筆者は進化論という大前提には賛成するが、人間と動物は、こと理性に関しては、程度の差ではなく根本的に質的に違うと思う。だから理性の能力については進化論を踏まえても人間を特別視できるのであり、従って「人間の尊厳」という概念は守られるべきであることを指摘する。だが身体に関しては、レイチェルズが言う通り、人間と動物には程度の差しかないから、もっと人間に準じた配慮が為されてもよいことを述べ、「動物の権利」を条件つきで認める。最後に、今後、我々が地球上で生存していくために必要とされる第三惑星の倫理について、その基本線を延べ、レイチェルズの提唱がそれに益すること大であることを認める。