著者
古牧 徳生 Tokuo HURUMAKI
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.19-51, 2015-03-31

古代ギリシアに発祥した哲学は「真に在るところのものは何か」を探求していくうちに,人間の認識能力の限界に行き当たり,懐疑論に陥った。この懐疑論を克服するために多くの哲学者たちは次第に神の恩寵を約束するキリスト教に改宗していったことを思想史の流れから見てみたい。
著者
古牧 徳生
出版者
神戸市看護大学短期大学部
雑誌
紀要 (ISSN:13428209)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.101-117, 2004-03-01

本橋は現代アメリカの倫理学者ジェームズ・レイチェルズが提唱する道徳的個体主義を紹介し、その問題点と現代思想に占める位置を論じたものである。一章では、レイチェルズの議論の前提になっている進化論の人間観を説明する。レイチェルズによれば、人間は動物から進化したものであり、両者のあいだには程度の差しかない。それゆえ人間だけに特別な価値を認めるには無理があり、そのため伝統的な「人間の尊厳」も根拠の弱いものになるとする。二章では、このような人間観に対応する新しい倫理としてレイチェルズの提唱する道徳的個体主義が説明される。それは個体の扱いは(1)扱いの内容と(2)その個体の個別的性質、によって決定されるべきとするものであり、各個体は種別とは無関係に、似ている程度に応じて似た扱いを受け、異なる程度に応じて異なる扱いを受けるべきとされる。三章では、筆者の疑問が示される。筆者は進化論という大前提には賛成するが、人間と動物は、こと理性に関しては、程度の差ではなく根本的に質的に違うと思う。だから理性の能力については進化論を踏まえても人間を特別視できるのであり、従って「人間の尊厳」という概念は守られるべきであることを指摘する。だが身体に関しては、レイチェルズが言う通り、人間と動物には程度の差しかないから、もっと人間に準じた配慮が為されてもよいことを述べ、「動物の権利」を条件つきで認める。最後に、今後、我々が地球上で生存していくために必要とされる第三惑星の倫理について、その基本線を延べ、レイチェルズの提唱がそれに益すること大であることを認める。
著者
古牧 徳生
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-19, 2012-03

西暦前399 年,ソクラテスは死刑を宣告された。周囲の人々は彼に脱獄を勧めたが,彼は従わなかった。なぜ彼は逃げなかったのだろうか。ギリシア思想の流れを辿ることで,この問題について考えてみたい。
著者
古牧 徳生
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 = Bulletin of Nayoro City University (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.23-61, 2018-03

医学の進歩により急速な高齢化が進む先進国では安楽死を合法化する動きが顕著になってきた。本稿は快楽主義の視点から,まず安楽死をめぐる諸事情を概観したあと,今や安楽死は単に個人の要請というだけでなく,社会としても無視することのできない要請ではないかと問うものである。 一節では安楽死が尊厳死へと変わっていく経緯とその際の議論を概観する。 二節ではオランダが世界で最初に安楽死を合法化するまでの歩みを概観する。 三節では日本国内の安楽死事件を通して, 安楽死は三種類に分類されることを確認する。 四節では日本でも学会指針という形で徐々に尊厳死法制化へ進みつつあることを述べる。 五節では安楽死容認の風潮から予想される危険について述べる。 六節では前節での問題点について筆者なりの回答を示す。Facing the rapid aging of society due to ongoing advances in medicine, many developed countries have made moves to legalize euthanasia. From the hedonistic point of view, this article argues for the necessity of euthnasia, not only as personal demand but also as social request. It consists of six sections.1.Ideological review of the transition from "euthanasia" to "death with dignity".2.Steps towards the legalization of euthanasia in the Netherlands.3.Some euthanasia incidents in Japan.4.Struggles towards passing a euthanasia bill in Japan.5.Some prospective problems arising from an increasing tolerance of euthanasia.6.The author's response to the problems posited in the previous section.
著者
古牧 徳生
出版者
神戸市看護大学短期大学部
雑誌
紀要 (ISSN:13428209)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.131-150, 2003-02-28

サルからヒトヘの進化が事実であるなら,個体間の協力行動も,サルに見られる協力関係から人間独自の道徳へと進化したと考えるのが自然であろう。内容は次の通りである。(1)オスとメスの繁殖戦略から家族が成立し黄金律が意識されるようになったこと。(2)単なる二重基準の禁止でしかない黄金律が,直接の見返りの有無を超えて集団内の個体に等しく妥当するためには,死の発見が必要であったこと。(3)死の意識から,宗教感情が芽生え,それが世代間に見かけ上は一方的に見える変則的な相互協力関係を成立せしめたこと。(4)そうした関係の深化によって無条件の道徳的行動へとつなかっかこと,などである。結論として,人間だけが持つとされる道徳や宗教などは,動物にも見られる「相互協力」から決して断絶しているわけではないことが述べられる
著者
古牧 徳生
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 = Bulletin of Nayoro City University (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.33-86, 2017-03

13世紀も後半になると神学者たちは、強まりゆく理性主義に対して、学問としての神学の確実性を示さなければならなくなった。そこで彼らの多くが採った理論は知性認識の根底においては神が働いているとする証明説であった。だがそうなると、知性認識に形象は不要ということになり、また知性は個々の事物を直接的に把握できるとする直観説になる。その結果、次第に神学は、個物のみが存在するとする唯名論に傾くことになった。だが現実の人間に認識できるのは感覚できる個物だけだから、神についてはいかなる知識も不可能ということになる。その結果、ただ信仰のみが主張されるようになり、宗教改革と教会分裂の悲劇を招くことになった。 1章ではトマスが採用した抽象説とそれが秘める困難について説明される。 2章ではヘンリクスの折衷説とそれがもたらす困難について説明される。 3章では個物こそ事物の完成であると説いたスコトゥスの学説が説明される。 4章ではスコトゥスを否定したオッカムの唯名論により神学が不可能になったことが説明される。 5章ではオッカムがもたらした敬虔主義とその破局である宗教改革そして懐疑思想の復活が説明される。In the late 13th century, facing the rise of rationalism, many theologians had to prove the certainty of theology. Consequently, they adopted the theory of divine illumination, which claims the intervention of God in human intellectual cognition. In such case, however, cognitive species come to be needless, and all theology leaned inevitably towards nominalism which admits the existence of only individual things. But human beings can only recognize things that can be sensed, so we can't acquire any knowledge about God. As a result, people relied only upon belief, which led consequently to the Reformation and the tragedy of schism. 1st chapter : The theory of abstraction in Thomism and its two difficulties. 2nd chapter : The eclectic theory of Henry of Ghent. 3rd chapter : The theory of john Duns Scotus, who taught that individual things were ultimate perfection. 4th chapter : Occam's Nominalism which, by negating Scotus' doctrine of formal univocity, brought impossibility to theology. 5th chapter : Devotionism, Reformation and revival of skepticism in the 16th century.
著者
古牧 徳生
出版者
名寄市立大学
雑誌
紀要 (ISSN:18817440)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-26, 2013-03-31

本稿はプラトンノイデア論を、彼の師であるソクラテスの思想史的位置から考察したものである。イデアは自然哲学者たちが問うたピュシス論の一形態であること、最終的にはその不可知性ゆえに提唱者のプラトン自身が懐疑的になっていたことが説明される。
著者
古牧 徳生
出版者
神戸市看護大学短期大学部
雑誌
紀要 (ISSN:13428209)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.101-115, 1999-03-04

本稿では,「自己決定」の根底にある人間の特質としての「自由」がいかなる意味を持ち,いかなる構造をしているかが考察される。ここでは「自由」はカント的に「道徳法則」による「自律」のうちに捉えられる。そしてこの「自律」が成立する構造が「選択」という観点から考察され,「自律」の成立のためには「道徳法則へ向かう選択」と共に「道徳法則へ向かわない選択」も認められねばならないことが主張される。ここから「自由」とは本来的には,「道徳法則」である「尊厳」を実現せしめるための手段であるが,そのためには「道徳法則」へ向かわない可能性も保証されていなければならないことが示される。そこでこの「本来的自由」と「非本来的自由」を区別するために,「自由」には必然的に「差別」が必要とされることが説明され,さらに「差別」の否定によってもたらされる現代の「自己決定」社会の混乱が指摘される。
著者
古牧 徳生
出版者
神戸市看護大学短期大学部
雑誌
紀要 (ISSN:13428209)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.143-160, 2005-03-01

本稿は環境倫理はいかにあるべきかについて筆者の見解を述べたものである。一章では技術者倫理と現在の環境倫理について、その輪郭を紹介する。二章からは筆者の意見である。まず現代社会の潮流としてグローバリズムをあげ、その問題点として環境破壊と社会的格差があることを指摘する。三章では「環境を守る義務」と「豊かになる権利」の兼ね合いから「公正」が問題とされること、その代表的な例としてロールズを、またその批判者としてノージックの考えをそれぞれ検討する。四章ではノージックの「自己所有権」の思想史的基礎としてロックの考え方を見る。五章では近代において産業主義の進展と共に経済学が単なる利潤と効率の追求に堕したことを批判し、「オイコス」としての地球に生きる人間にはどのような学問が必要とされるかを述べる。