- 著者
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山田 省吾
- 出版者
- 神戸市看護大学短期大学部
- 雑誌
- 紀要 (ISSN:13428209)
- 巻号頁・発行日
- vol.21, pp.157-166, 2002-03-06
ハーマン・メルヴィル(1819-91)は,人生の道半ばにして,作家から詩人と変貌をとげた。1856年から57年にかけての地中海・パレスチナ・ヨーロッパヘの長旅で,彼は,ユダヤ・キリスト教や西洋の芸術の伝統に,あらためて目を見開かされていた。それが,この転向に大きく影響しただろうことは,想像に難くない。文学の話にかぎっていえば,ギリシャ・ローマの古典から近代ロマン派にいたるまで,その伝統は,詩によって連綿とになわれてきた。小説家としては,ほとんど不遇なあつかいしか受けてこなかった彼が,王道の命脈を今なおたもっていた詩に,その後半生を賭けてみようとしたのには,こうして長い歴史を負ってきた詩的言語に磨きをかけ,詩的霊感(ポエジー)を媒体にして,世界の根軸にまでいたりたいという強い内的衝迫があったためと思われる。『戦闘詩篇と戦争の相貌』(1866)は,出版された彼の四冊の詩集のうちのひとつで,「南北戦争」(the Civil War, 1861-65)に材を取っている。黒人の奴隷解放をめぐって,同国人同士が戦火を交えざるをえなかったこの戦争では,合州国の建国の理念や,バックボーンとしてそれをささえてきたキリスト教が,大きくきしみ揺れた。ここでは,その揺れを,詩人として,どのように感受し,どのように表現しているかを,メルヴィルに特有な詩的形象や韻律をたどりながら検討してみた。詩にあっても,小説同様,構造として,繰り返し表れる「顔」に焦点をあてて。