著者
小野 展嗣
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.167-174, 1986

北陸・山陰地域の自然史科学的総合研究の一環として, 1985年5月から6月にかけて, 能登半島および石川県南部の地域で, 葉上性クモ類の採集調査を行なった。採集地点はすべて標高900m 以下の平地あるいは低山地であり, 島嶼や高山帯は対象外とした。本調査で得られた約1,000個体のクモの標本のうち, フクログモ, ワシグモおよびカニグモ類の標本291個体を分類学的に研究した結果, フタホシテオノグモ Callilepis schuszteri, ハナナガトラフカニグモ Tmarus hanrasanensis, セマルトラフカニグモ T. rimosus, チクニエビスグモ Synaema chikunii, シナカニグモ Xysticus ephippiatus ならびにチシマカニグモ X. kurilensis の6種を同地域から初めて記録した。このうちとくに興味深いハナナガトラフカニグモとチシマカニグモについては若干の注釈を加え, 生殖器を図示した。また一新種ウエノフクログモ Clubiona uenoi を記載した。 以上の記録に先人の業績を整理して加えると, 同地域からフクログモ科13種, ワシグモ科5種, カニグモ科19種が知られることになる。しかし, 少なくともこの3科に関するかぎり, 同地域は本州中南部の低山地にみられる典型的なクモ相を呈し, 地域的特異性や地史との関連は見出せない。同地域のクモ相は北海道低地から九州まで広く分布するクモを中心に成り立っていて, 亜熱帯や寒帯, 高山性の分子を欠いている。 一般に葉上性のクモは広域分布を示すものが多く, その生息域はおもに気温や生物的環境に影響されるが, 本調査地点の緯度的および高度的条件を考慮すれば, 以上この内容はむしろ当然の結果というべきかも知れない。

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こんな論文どうですか? 能登半島および石川県南部のフクログモ科, ワシグモ科ならびにカニグモ科のクモ類(小野 展嗣),1986 http://t.co/w1II85aG68

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