著者
酒向 貴子 川田 伸一郎 手塚 牧人 上杉 哲郎 明仁
出版者
国立科学博物館
雑誌
Bulletin of the National Museum of Nature and Science. Series A, Zoology = 国立科学博物館研究報告. A類, 動物学 (ISSN:18819052)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.63-75, 2008-06

The distribution of latrines of the raccoon dog, Nyctereutes procyonoides, was examined from July 2006 to December 2007 in the Imperial Palace grounds, Tokyo, Japan. The raccoon dog is accustomed to defecate at fixed locations, forming holding latrines; thus the distribution of latrines is a good indicator of their abundance. The results suggest that the latrines are widely scattered in the study site, but are more dense in the Fukiage area, where an old-growth broad-leaved forest is established. The latrine sites are used more frequently from September to December, as the number of fresh feces increased in the autumnal season. To examine the seasonal food changes of the raccoon dogs, 10 pieces of feces from some latrines were collected every month and analyzed the indigestible contents in the sampled feces. The food items identified consisted of animal, plant and man-made materials, suggesting that the raccoon dogs were highly omnivorous. The animal materials found from the feces included mammals (4% of total feces), birds (37%), reptiles (2%), amphibians (3%), insects (95%), chilopods (56%), isopods (2%) and gastropods (12%). Invertebrates were the most abundand food item throughout the year. Three coleopteran families, the Carabidae, Staphylinidae and Scarabaeidae, accounted for a large proportion of the insects and they showed seasonal fluctuations. These suggest that the raccoon dogs fed on them as major animal food resources in the study site, and perhaps the seasonality is related to the temporal changes of availability of the insects. The majority of plant materials found in the feces was a variety of seeds, suggesting that the raccoon dogs fed on berries and fleshy fruits throughout the year. The occurrence of seeds decreased from March to April, which coincided with a low availability of fruits. The seeds found in feces were categorized into three types : (1) the short-term berry type including Prunus (Cerasus) spp., Moms spp., Rubus hirsutus and Machilus thunbergii, which occurred only a short term after their fruiting periods ; (2) the long-term berry type, including Celtis sinensis, Aphananthe aspera and Swida controversa, which occurred continuously for three or more months after the fruiting periods ; (3) the acorn type, including Castanopsis spp., Quercus spp. and Ginkgo biloba, which occurred in early spring (January to April) when the other fruits are scarce. The seasonal change of the three fruit types implies that the raccoon dogs consume the available fruits in relation to the successive fruiting periods. The proportion of artificial materials found in the feces was considerably lower than in previous studies carried out in the suburbs of Tokyo, suggesting that the raccoon dogs in the study site strongly depend on natural foods. Most of the natural food items were native to Japan since the past Edo period. Thus we conclude that the preservation of biodiversity in the Imperial Palace grounds was essential for the re-colonization by the raccoon dogs of the Tokyo metropolitan area after the 1970s.
著者
今泉 吉典 吉行 瑞子
出版者
国立科学博物館
雑誌
Bulletin of the National Science Museum. Series A, Zoology (ISSN:03852423)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.177-188, 1989-09
被引用文献数
1

A new species of the subgenus Lutra BRISSON, 1762,of the genus Lutra is described from Shikoku in Japan under the name of L. nippon. It is a primitive species with relatively long tail and long facial portion of cranium among the Eurasian species of the subgenus Lutra.
著者
黒沢 良彦
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.155-"160-2", 1975

従来, 屋久島からオニクワガタ Prismognathus angularis WATERHOUSE として知られた種は, 本州, 四国などの高地に産し, 北海道や樺太にも産する真のオニクワガタとは異なる別種であることを確認したので, 新種ヤクシマオニクワガタ Prismognathus tokui Y. KUROSAWA として記載した。一方宮崎県青井岳 (563m) で採集されたオニクワガタも北九州の長崎県雲仙岳, 福岡県英彦山などの高所で採れた標本や, 本州, 四国, 北海道など日本各地産の真のオニクワガタ P.angularis WATERHOUSE と見做される標本とは異り, ♂♀共にオニクワガタとヤクシマオニクワガタの中間に位する形質を具えているので, オニクワガタの新亜種 P.angularis morimotoi Y.KUROSAWA として区別命名した。前者は採集者渡辺 徳氏, 後者は標本提供者森本 桂博士にそれぞれ奉献された新名である。日本におけるこれら3型の成因について考察してみると次の様になる。洪積世の氷期に大陸から日本侵入したこれら3型の祖型と思われる種類は, 次の間氷期に北上したが, 屋久島, 種子島を含む南九州の一部は本土から隔離されたために, 本土とは異るものとなった。さらに次の時代にはこの地域から少なくとも, 現在の屋久島を含む地域は隔離された。やがて, 次の氷期の訪れと共に南九州地域は再び北九州と連結し, 北方からオニクワガタが侵入して来たので, 在来種のヤクシマオニクワガタとの間に雑交が起り, 現在の南九州亜種が生じた。しかし, この時屋久島はすでに島として形成されていたので, オニクワガタは侵入できず, ヤクシマオニクワガタは高所に追い上げられはしたが, そのまま屋久島特産種として残存した。他の種子島などのものは温暖化する気候に適応できず, 逃避すべき高所もなく, 絶滅したものであろう。ここに問題になるのは, 南九州の産地が宮崎県青井岳の海抜600m にも満たぬ低山地である点である。これは極めて難かしい問題ではあるが, 飛島, 粟島, 佐渡, 伊豆諸島, 四国沖の島など, 瀬戸内海の諸島を除く本州, 四国周辺の小島嶼の昆虫相がその対岸の本土の低地の昆虫相とは異って, 主として, 山地, 時にはかなり高地の昆虫相と似通った種類が基盤をなし, それを暖地性昆虫相が覆っている事実, さらに島嶼ではこれら山地性の種類がかなりの低地, 時には海岸近くまで発見される事実によって説明できるのではなかろうか。即ち, 青井岳付近から大隅半島を経て種子島, 屋久島へのびる地域が一つの島として本土から分離した時代があったのではないかと推定したい。上記オニクワガタを含めて, この地域にはカラスシジミ, ミヤマクロハナカミキリなど本州では寒冷地やかなりの高地に見られ, 九州では他地域では見られない様な種類が意外に低地で発見される理由もこの辺にあるのではないかと推定される。
著者
嶋津 武
出版者
国立科学博物館
雑誌
Bulletin of the National Museum of Nature and Science. Series A, Zoology (ISSN:18819052)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.1-30, 2007-03

Examination of digeneans (Trematoda) parasitizing freshwater fishes collected in Nagano Prefecture, central Japan, revealed that 22 species including two new species occur in this prefecture. Sanguinicola ugui sp. nov. (Sanguinicolidae) is described from the blood vessels of Tribolodon hakonensis (Gunther) (Cyprinidae). Azygia rhinogobii sp. nov. (Azygiidae) is described from the stomach of Rhinogobius sp. (Gobiidae, type host) and Gymnogobius urotaenia (Hilgendorf) (Gobiidae), and the intestine of T. hakonensis. Phyllodistomum anguilae Long and Wai, 1958, P. mogurndae Yamaguti, 1934, P. parasiluri Yamaguti, 1934 (Gorgoderidae), and Pseudexorchis major (Hasegawa, 1935) Yamaguti, 1938 (Heterophyidae) are redescribed. The generic diagnosis of the genus Pseudexorchis Yamaguti, 1938 is amended in part. New host and locality records are provided for 20 known species. An outline of the life cycle of Asymphylodora macrostoma Ozaki, 1925 (Lissorchiidae) is given. A furcocystocerous cercaria, probably the cercarial stage of A. rhinogobii sp. nov., is briefly described from Sinotaia quadrata histrica (Gould) (Gastropoda, Viviparidae).
著者
Upchurch Paul Tomida Yukimitsu Barrett Paul M
出版者
国立科学博物館
雑誌
National Science Museum monographs (ISSN:13429574)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.i-118, 2004

1993年,アメリカ・ワイオミング州サーモポリス近郊に露出するモリソン層(ジュラ紀後期,キンメリジアン〜チトニアン)から,アパトサウルスのほぼ完全な骨格が発掘された.この標本は東京の国立科学博物館が入手し,組み立てられて展示標本として一般に公開されている.この新しい標本を詳細に記載することにより,属の再定義および種レベルの分類に有効な,新たな解剖学的データを得た.アパトサウルスに同定された標本を個体レベルで分岐解析した結果,これまでわかっていなかった系統関係が明らかとなり,あわせてA. ajax(模式種),A. excelsus, A. louisae, A. parvus(新組合せ)の4種が有効と認められた.A. parvusは,ワイオミング州シープクリークのモリソン層から産した'Elosaurus' parvusの標本をもとにした種である.分岐解析の結果,アパトサウルスの東京標本はA. ajaxに同定される. これまではアパトサウルス属の模式種であるA. ajaxにっいての詳しい記載がなかったため,本研究が本種についてのもっとも詳しい記載論文ということになる.また,改定された属および種の定義によって,これまでアパトサウルスに固定されてきたいろいろな標本(オクラホマ州産の幼体標本を含む)の再評価が可能となった.
著者
千葉 とき子 斎藤 靖二 木村 典昭
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.25-36, 1982

蛇石火山は伊豆半島南西部に位置する第四紀火山で, その噴出物は東西3km, 南北6km にわたって分布する。この火山体は第三紀中新世後期の白浜層群を不整合に覆って形成された。火山体を構成する岩石は, 岩相・層位学的にみて, 大きく2つのユニット(下部ユニットと上部ユニット)に区分される。下部ユニットは火山体の主要部分を構成するもので, 熔岩流と火砕岩からなり, 約150m の厚さをもつ, 上部ユニットは数10m の厚さで, 陶汰の悪い熔岩の角礫を含む堆積物からなる。下部ユニットは北部の高地と南部の海岸付近に, 上部ユニットは間の比較的平坦な地形の部分に分布する。 下部ユニットの熔岩のうち, 南部の落居付近にみられる7枚と北部の大峠付近の3枚について岩石記載を行った。岩石はすべて(かんらん石)-紫蘇輝石-普通輝石安山岩である。岩石9試料のモード, 主成分を分析した。熔岩が噴出したときのメルトと結晶の量化は3 : 2∿3 : 1で, 後に噴出した熔岩ほどΣFeO, MgO, CaO に乏しく, SiO_2に富む。しかし, 全体としては化学組成の変化の範囲は比較的狭く, 結晶分化作用があまり進行しないまま, 短期間に熔岩の流出が行われたとす推定される。鉱物組定・化学組成からみて, 蛇石火山の岩石はカルク・アルカリ岩系に属し, ノルム石英を10vol.%以上含むことから, 伊豆半島南西部の第四紀火山の溶岩のなかで SiO_2に最も過飽和であるといえる。
著者
宮崎 信之 中山 清美
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.235-249, 1989
被引用文献数
2

奄美大島の笠利町立歴史民俗博物館に保存されている頭骨を含む鯨類の骨格調査, 地元の漁師および公民館の職員などに対して行なった鯨類に関する聞込み調査, および財団法人日本鯨類研究所に保管されている大型鯨類の漁獲記録の調査を行ない, 奄美大島における鯨類の漂着記録, 発見記録および捕獲記録を解析した。 この調査により, 10種類(セミクジラ, シロナガスクジラ, ナガスクジラ, ザトウクジラ, ニタリクジラ, マッコウクジラ, バンドウイルカ, オキゴンドウ, シワハイルカ, およびアカボウクジラ科の一種)の鯨類が確認された。漂着鯨類の調査では, 7種9例が記録された。1942年10月19日に竜郷町円の海岸に集団漂着したマッコウクジラの記録は, 竜郷町公民館に保管されている当時の写真から確認された。1989年にはバンドウイルカの集団漂着が2例あった。このうち, 4月20日の例は, 地元の人々の協力で漂着した33頭のイルカを無事に海に戻したという点で特筆される。奄美大島の久根津では, 1911年(明治44年)から1923年(大正12年)まで大型鯨類の捕獲・解体が行なわれていた。その後も, 散発的に捕鯨が行なわれ, 1962年(昭和37年)以降操業を停止した。その間に捕獲された大型鯨類のうち, 日本鯨類研究所の鯨漁月報に記録・保管されている5年間 (1914,1919,1921,1922および1934) の漁獲記録を調査した。大型鯨類6種類155頭が記録されており, 捕獲頭数の最も多い種類はザトウクジラで, 全体の84.5%を占めており, 次はマッコウクジラ(6.5%), ナガスクジラ(4.5%), シロナガスクジラ(3.2%), セミクジラ(0.6%)およびニタリクジラ(0.6%)の順である。これらの鯨類の捕獲位置や雌雄別体長組成についても解析した。奄美大島近海に生息しているバンドウイルカでは, 成体になると白色の腹部体表面に黒色斑点が見られる。この特徴は, 伊豆半島近海のバンドウイルカには認められない。そこで, 両者の類縁関係を明らかにするために, 両海域のバンドウイルカの間で頭骨と雌雄の成体の平均体長を比較した。その結果, 奄美大島産のバンドウイルカは伊豆近海産のそれとは異なった系統群か, あるいは亜種に属していることが示唆された。
著者
山崎 柄根
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.95-102, 1981

日本産のヒナカマキリは, その分類学的位置や雄についての知見にいくつかの混乱があった。たとえば, 日本産の種類では雌個体しか現れず, 単為生殖をしているのであろう, という説である(古川, 1950; 日浦, 1977)。本報文では, その分類学的位置を明らかにし, 雄については, 日本列島の自然史科学的総合研究による伊豆の調査で良い標本を得たので, これによって今回はじめて記載し, またこの種が両性生殖種であることを示した。この種は, もともと1908年, 素木得一によって静岡および東京産の雌をもとに Gonypeta Nawai として記載されたものである。ついで素木はこの種の2度目の記載を行ったが, 原記載を無視して, 松村松年が1908年(素木の原記載の5ケ月後)用いた無効名 Gonypeta maculata を用いた。混乱はここにはじまるが, 原記載はなぜか素木自身ならびにその後の研究者によって無視されてしまい, 1915年に KARNY が属を Iridopteryx に変更してのち, 日本のヒナカマキリについてのすべての文献には Iridopteryx maculata が用いられるようになった。しかし, 今回細かに検討してみると, 属についてはこのカマキリは Iridopteryx 属には該当せず, 結局 Amelinae 亜科の Amantis 属に含ましめるのが妥当であるとの結論に達した。原記載における種名 nawai は有効名であるから, 結局日本産のヒナカマキリの学名は Amantis nawai とするのが正しいことになる。台湾産のものと異って, 日本産の雄は雌同様に微翅型であって, 雌よりやや体が小さいものの, 雌に大変よく似ている。これがおそらく今まで雄個体がみられないという説の起った原因であると考えられる。よく探せば, どこでもその分布地では雄は見つかるものと思う。ヒナカマキリの分布は, 本州では北限地と考えられる山形県の吹浦から日本海側に沿って南西へ, また太平洋側では東京都の自然教育園や小金井市などの位置あるいは千葉県木更津市から南西に分布し, 四国, 対馬, 九州, 奄美大島にまで分布している(図12)。この種はシイやタブ林をとくに好んで生息するが, 記録された地点を地図上にプロットし, 常緑広葉樹林(あるいは照葉樹林)の分布地と比較してみると, 顕著にその分布が一致していることが認められた。肉食性のカマキリで, しかもその行動は他種にみられないほど敏捷で, また好地性であるが, 本種はこの常緑広葉樹林の林床をほとんど離れないのである。かくして, ヒナカマキリ Amantis nawai は常緑広葉樹林に伴って分布する昆虫の典型的なもののひとつと言ってよいであろう。
著者
楊 祝良 土居 祥兌
出版者
国立科学博物館
雑誌
Bulletin of the National Science Museum Ser. B Botany (ISSN:03852431)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.107-130, 1999-09

Specimens of the genus Amanita collected from Japan and deposited in the herbarium of the Department of Botany, National Science Museum, Tsukuba, Ibaraki, Japan (TNS) were studied. Eighteen taxa, including two species new to science and two taxa new to Japan are reported here. Brief notes on a few type specimens of the Amanitae described by T. Hongo are also included in the present accunt. The new species are Amanita orientogemmata and A. oberwinklerana, while the new records are A. manginiana sensu Chiu and A. subjunquillea var. alba. Amanita sphaerobulbosa is treated as a distinct species, independent of A. abrupta.
著者
藤山 家徳
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
no.15, pp.p37-48,図1枚, 1982-12
被引用文献数
1

Deposits of the Oshino basin located in the northeast of Mt. Fuji consits of the Oshino fossil lake sediments and pyroclastic materils of Mt. Fuji. The geological sequence in the Oshino area before and after the appearance of the fossil lake is studied. The results of electric prospecting carried by the Ministry of Agriculture and Forestry indicate that the route of the Katsura River and the configuration of ground before the Oshino lava flow was not greatly different from the present ones. The Oshino lava, a branch of the Saruhashi lava flow, dammed up the valley of the former Katsura River and caused the appearance of the Oshino lake. The deposits of the fossil lake, consisting mainly of clay 1.2-12.0m in thickness, are dated 7,150±140 years B. P. by the ^<14>C method. The assemblage of fossil pollen in the deposits indicates a cold-temperate flora which is scarcely different from the present flora in this area. Most insect and seed fossils are squatic or semiaquatic species and do not suggest a different climatic condition from the present one. The fossil flora of diatom is separately reported in another paper in this volume. The swampy deposits at a depth of 2-3m, located at the central area of the basin, are dated 3,020±65 and 2,450±75 years B. P. on the burried wood identified as a species of Alnus.
著者
岩科 司 松本 定
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.67-73, 2006

アマギカンアオイHeterotropa muramatsui (F. Maek.) F. Maek.は伊豆半島に準固有のウマノスズクサ科の植物である.この変種シモダカンアオイH. muramatsui var. shimodana F. Maek.は伊豆半島先端の須崎半島にのみ自生している.またもう一つの変種タマノカンアオイH. muramatsui var. tamaensis (Makino) F. Maek.は関東地方の多摩丘陵を中心とした地域に分布している.これらの変種のうち,タマノカンアオイは独立した種,Asarum tamaensis Makinoと考える立場もある.本研究では,これらの3変種をフラボノイドを指標とした化学分類学的手法によって検討を行った.各種クロマトグラフィーによって分離されたフラボノイドは7種類で,UV吸収スペクトル,加水分解とその生成物の定性,質量スペクトル,ペーパークロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィーによる基準標品との直接の比較などからそれぞれ,chalcononaringenin 2', 4'-di-O-glucoside (1), kaempferol 3-O-rutinoside (2), kaempferol 3, 4'-di-O-glucoside (3), kaempferol 3-O-rhamnosylglucoside-4'-O-glucoside (4), quercetin 3-O-rutinoside (5), isorhamnetin 3-O-glucoside (6)およびisorhamnetin 3-O-rutinoside (7)と同定された.これらのうち,1はすでにアマギカンアオイ,シモダカンアオイ,タマノカンアオイから報告されており,また2, 5, 6および7についてもカンアオイ属植物から分離されているが,3と4はこれまでウマノスズクサ科では報告されていない化合物であった.アマギカンアオイ,シモダカンアオイおよびタマノカンアオイを二次元ペーパークロマトグラフィーと高速液体クロマトグラフィーによってフラボノイド組成を解析したところ,これらは質的にまったく同一であり,化学分類学的にはこれらの変種は同じ種類と考えられた.
著者
武田 正倫 橋本 惇 太田 秀
出版者
国立科学博物館
雑誌
Bulletin of the National Science Museum. Series A, Zoology (ISSN:03852423)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.159-172, 2000-12
被引用文献数
1

A new bythograeid crab named Austinograea yunohana is described on the specimens from some hydrothermal vents along volcanic front of the eastern edge of the Philippine Sea Plate, off central Japan, as the ninth of the family Bythograeidae Williams, 1980,and the third of the genus Austinograea Hessler et Martin, 1989. The new species is most closely related to A. alayseae Guinot from the South Pacific, but remarkably different in having the filiform second male pleopod nearly as long as the first.
著者
倉持 利明 北 潔
出版者
国立科学博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

芽殖孤虫とはヒトの芽殖孤虫症を引き起こす幼条虫に対して与えられた名称であり、Ijima(1905)による発見以来世界から14症例が報告されている。芽殖孤虫および芽殖孤虫症のきわだった特徴は、この幼条虫がヒト体内で無秩序な分芽増殖を起こし、あらゆる臓器組織に侵入することにあり、上記14例のいずれもが死亡例である。芽殖孤虫はこの医学的な重要性にもかかわらず成虫が見出されていないばかりか、自然界における終宿主や中間宿主等の生活史は知られていない。マンソン裂頭条虫は、その幼条虫がヒト体内で様々な程度の幼虫移行を主徴とするマンソン孤虫症を引き起こすことから、古くから芽殖孤虫との類縁性が検討されてきたが、NADH脱水素酵素サブユニットIII遺伝子を解析した最近の研究によれば、芽殖孤虫はマンソン裂頭条虫と近縁ではあるが、同遺伝子の塩基配列は両者で異なることを示した。そこで本研究は芽殖孤虫の種の決定を最終目標に、裂頭条虫科条虫の分子系統解析を行った。はじめに芽殖孤虫、マンソン裂頭条虫、日本海裂頭条虫(裂頭条虫科)シトクロームc酸化酵素サブユニットI遺伝子について配列決定し、円葉目条虫を含めた系統解析を行った。その結果芽殖孤虫はマンソン裂頭条虫との類縁性を示しつつ、擬葉目条虫に含まれることが明らかとなった。続いて野外調査を通して得られた海棲哺乳類由来の海産裂頭条虫6種を解析に加え、芽殖孤虫と一致する配列を持つ種、あるいはより近い類縁性を示す種の検索を試みた。海産裂頭条虫は芽殖孤虫、マンソン裂頭条虫とは異なったクラスターに配置されこの試みは成功しなかったが、この両種と海産裂頭条虫とは早期に分岐したこと、さらに両種間の遺伝的な距離は、他の海産裂頭条虫種間の距離に匹敵もしくはむしろ遠いことが示された。これらは芽殖孤虫が淡水域を起源とする裂頭条虫に由来するものであり、またマンソン裂頭条虫とはおそらく異なる種に含まれることを示唆している。
著者
上野 俊一
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.57-72, 1969
被引用文献数
2

対馬からこれまでに見つかったチビゴミムシ亜科の甲虫類は5種ある。そのうちの2種は, 土生と馬場(1959,p. 77)によってすでに記録されているが, 残りの3種はこの論文で新たに報告するものである。これら5種のチビゴミムシ類のうち, 4種までが大きい複眼とよく発達した後翅をもち, 対馬以外の地域にも広く分布している。最後の1種は地中性で, 複眼も後翅も体の色素もなく, 明らかに対馬固有の種と考えられる。 有翅の4種のうちの3種はホソチビゴミムシ属に含まれるもので, それぞれホソチビゴミムシ Perileptus japonicus H.W. BATES, オオホソチビゴミムシ P. laticeps S. UENO およびツヤホソチビゴミムシ P. naraensis S. UENO と呼ばれる。最初の種は, 日本と朝鮮半島を含むアジア東部に広く分布しているが, 北部地域への拡散は比較的最近に行なわれたものらしい。また, あとの2種は, 今のところ日本列島以外から知られていないが, 朝鮮半島にも分布している可能性がある。いずれにしても, これらの種のすべてが, おそらく西日本から対馬へ侵入したものであろう。 ホソチビゴミムシ類は, ほとんどつねに流水の近くにすみ, 生息場所が乱されたり危険が迫ったような場合にはすぐ飛び立つし, 灯火に渠まってくる性質もある。体が微小でしかも活動的な昆虫にとっては風が拡散の動因になり得るので, 対馬海峡や朝鮮海峡のような狭い水域が, ホソチビゴミムシ類の拡散に対する決定的な障害になったとはまず考えられない。上記の3種も, 新第三紀以降のどの時期にでも対馬へ侵入し得たであろうが, 実際に定着が行なわれたのは案外新しい時代のことなのではなかろうか。 有翅の他の1種ヒラタキイロチビゴミムシ Trechus ephippiatus H.W. BATES は, シナからシベリアにかけて広い分布域をもち, 西日本へは朝鮮半島を経て侵入したものと考えられる。したがって, 分布域の広い有翅の種であるとはいうものの, その由来はホソチビゴミムシ類の場合とかなり異なっている。対馬への定着がいつどうして行なわれたかを知る手掛りは少なく, しかも信頼性に乏しい。しかし, ヒラタキイロチビゴミムシのような甲虫の移動に陸橋が不可欠であろうとは必ずしも考えられないので, 現存の対馬産の個体群はそれほど歴史の古くないものかも知れない。 以上の有翅種に比べると, 盲目で地中性のチビゴミムシは, より古い時代から対馬にすみついてきたものらしい。この種は, アトスジチビゴミムシ群に属する新種で, 西日本の内帯に分布するノコメメクラチビゴミムシ属 Stygiotrechus S. UENO と類縁の近いものである。しかし, 体表をおおう細毛がなく, 前頭部と頬部とにそれぞれ1対ずつの剛毛があり, 前胸背両側の背面剛毛列が弧状に並んだ多数の剛毛から成り, また上翅側縁部の第5丘孔点が前方へ移動して第6丘孔点から遠く離れているので, これを西日本の種と同じ属に含めるには無理がある。そこで, この種と, 同じ系列に属すると考えられる韓国産の洞窟性チビゴミムシ類とに対して, チョウセンメクラチビゴミムシ属 Coreoblemus S. UENO という新しい属を立て, 前者をツシマメクラチビゴミムシ Coreoblemus venustus S. UENO と命名した。チョウセンメクラチビゴミムシ属とノコメメクラチビゴミムシ属とは, 同じ属群のうちでも比較的原始的な地位を占め, 分布の様子も散発的, 遺存的である。しかも, これら2属の分布域が対馬海峡によって明確に区分されている点を合わせ考えると, ツシマメクラチビゴミムシの祖先が対馬に定着した時期はかなり古く, 対馬を含む朝鮮陸塊と西日本とが古対馬水道によって隔てられていた時代, おそらくは第三紀の中新世にまで遡るのではないかと推察される。 なお, この対馬産の地中種は, 朝鮮半島の石灰洞にすむ同属の種に比べて, かなり特異な分化を遂げている。とくに, 前趺節における雄の第二次性徴が基節だけにしか現われていない点は, 一般に属や亜属の標徴として用いられるほどチビゴミムシ類に例の少ない形質である。それで, 新属の模式種には, より普遍的な特徴をそなえた韓国産の種の一つを選び, その記載を属の記載に合わせて論文末につけた。属模式種 (Coreoblemus parvicollis S. UENO) の産地は, 韓国忠清北道堤川郡清風面北津里の清風風穴, 模式組標本は南宮〓氏によって採集されたものである。
著者
山口 敏
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.229-235, 1988
被引用文献数
2

北海道古宇郡泊村茶津4号洞窟で発堀された続縄文時代恵山文化期の人骨7体について記載を行なった。上肢骨骨幹の扁平性や大腿骨骨幹のピラステル構造は縄文時代人の特徴と一致したが, 上顎骨前頭突起の形態, 歯槽突起の高さ, 下腿骨骨幹の形態などには縄文時代人と異なる特徴を示す例が認められた。