- 著者
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邑田 仁
- 出版者
- 国立科学博物館
- 雑誌
- 国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
- 巻号頁・発行日
- vol.23, pp.43-50, 1990
- 被引用文献数
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国立科学博物館の「日本列島の自然史科学的総合研究」に参加する機会を得て, 奄美大島においてツチトリモチ属植物の現地調査を行った。ここではその結果をもとにして,日本産の本属植物のうち無配生殖を行うものについて比較検討の結果を報告する。ツチトリモチ属で無配生殖を行うものはジャワ島と日本列島にのみ知られている。日本産のものにはツチトリモチ, ミヤマツチトリモチ, ヤクシマツチトリモチおよびキュウシュウツチトリモチが記載されている。本研究ではキュウシュウツチトリモチを除く3種について, 走査型電子顕微鏡を用いて, 担棍体上の雌花のつき方および担棍体上部のクチクラの表面模様を観察し比較検討した。この結果これら3種は以下の特徴を持ち, 形態的に区別できることが明らかとなった。なお, ヤクシマツチトリモチはこれまで屋久島と種子島の固有種と考えられていたが, 本研究により台湾南部にも分布することが判明した。ツチトリモチ : 雌花は黄色で主に花序の主軸上につく。クチクラ表面の隆起条は短く, 担棍体上部の一部に認められる。ミヤマツチトリモチ : 雌花は黄色で主に花序の主軸上につく。クチクラ表面の隆起条は著しい網目状で担棍体上部全面をおおう。ヤクシマツチトリモチ : 雌花は紅色で花序の主軸上および担棍体の下部につく。クチクラ表面の隆起条は短く, 担棍体上部の一部に認められる。担棍体上部の辺縁にある細胞はしばしば親指状となりやや開出する。