- 著者
-
赤井 朋子
- 出版者
- 神戸薬科大学
- 雑誌
- 神戸薬科大学研究論集 : Libra (ISSN:13452568)
- 巻号頁・発行日
- vol.4, pp.1-31, 2003-02-20
ジョン・ヴァン・ドゥルーテンの『若きウッドリー』は、1925年に一度検閲で上演禁止になったが3年後に認可された。この作品には、検閲において禁止事項とされたものはいっさい含まれていなかったが、認可と上演禁止の境界線上に位置した劇で、作品の微妙な描き方をしている点が検閲官に不安を与えた。検閲の一次資料を調べると、言葉の表現における「節度」という点が問題視されたことがわかるが、おそらく上演禁止になった理由はそれだけではないだろう。資料には明示されていないが、さらに検討していくと、微妙な描き方をしたこの作品には、ダブルスタンダードの否定や階級の流動性といった点が読み取れる「可能性」のあることが判明する。そのことが検閲官に漠然とした不安を与えたのではないだろうか。この戯曲は、作品の微妙で繊細な要素を残しながらも検閲官の危惧を最小限に抑えるような演出をすることによって、その後上演を許可され、公演も興行的に成功する。検閲は一方的に表現の自由を奪うものではなく、むしろ検閲する側とされる側が互いに影響を及ぼしあうことによって、新たな何かを産み出すこともあるものだと言えるが、この戯曲の検閲はその一例を示している。