- 著者
-
門脇 孝
- 出版者
- 日本保険医学会
- 雑誌
- 日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
- 巻号頁・発行日
- vol.101, no.1, pp.23-33, 2003-03-17
我が国における糖尿病患者数の激増は,もともとインスリン分泌低下の素因をもつ日本人が,高脂肪食や運動不足などにより惹起された肥満を介してインスリン抵抗性要因にさらされたためである。肥満は脂肪細胞の肥大した状態であり,エネルギー蓄積や消費に関与しうる遺伝子の多型と肥満・インスリン抵抗性・糖尿病との関連につき検討した。その結果,PPARγPro12→Ala多型,β3アドレナリン受容体Trp64→Arg多型,アデイポネクチンイントロン2T→G多型などの疾患感受性遺伝子が明らかにされた。これらの遺伝子多型はいずれも脂肪蓄積やインスリン抵抗性をひき起こすものであり,人類の歴史の中で飢餓の時代に生存に有利であった体質,すなわち倹約遺伝子(thrifty genotype)と考えられる。21世紀の遅くない時期に糖尿病感受性や抵抗性を規定する遺伝子多型の全体像が明らかになった暁には,SNPsによる発症前診断にもとづく効果的,効率的な発症予防が可能になると期待される。同時に,発症した糖尿病に対してもSNPsレベルでの診断とそれにもとづいた治療薬の処方-オーダーメイド医療も可能となろう。