著者
河野 康一
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.110, no.2, pp.163-173, 2012-06-17

2011年3月11日に発生した福島原発事故のがん保険への影響を検討した。急性被曝による健康被害は発生しておらず,将来的に急性外部被曝によるがん発生率上昇の可能性はないと思われた。今回の事故での放射線物質の総放出量はチェルノブイリ原発事故の1割程度と推測され,外部被曝線量や甲状腺超音波検査の結果等と合わせると,慢性被曝や内部被曝によるがん発生率上昇の可能性も,小児甲状腺がんを含めて,きわめて低いと思われた。しかしながら,国民が被曝による甲状腺がん発生率上昇の可能性を認識したことは,がん保険にとっての別の意味でのリスクになると思われる。甲状腺をはじめとしたがん検診の受診率が上昇すれば,相当数の潜伏がんが保険請求される可能性がある。がん保険としては,今回の原発事故をがん発生率が上昇する直接的リスクとして捉えるのではなく,潜伏がん発見率が上昇する間接的リスクとして捉える必要があると思われる。
著者
小林 三世治
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.102, no.3, pp.237-244, 2004-09-17

保険契約者(被保険者)である訴外人が,高度障害を負っていないにもかかわらず負ったとして,被告(医師)が作成した内容虚偽の障害診断書を原告(保険会社)宛に提出し,高度障害保険金を請求し,同保険金を詐取した。この診断書を作成・交付した被告が,訴外人が高度障害を負っていないことを認識しながら,原告宛の虚偽の内容の障害診断書を作成・交付したことは,保険金詐取の幇助に当たるとして,保険金相当額につき損害賠償責任を認めた。
著者
佐々木 光信
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.104, no.3, pp.264-275, 2006-09-17
被引用文献数
2

保険商品の多様化と契約年齢の拡がりにより,若年の精神遅滞者の保険加入申し込みを目にすることも稀ではなくなった。高齢者の加入も多くなり認知症を罹患した方の引き受けの問題も現実に発生している。認知症や精神遅滞などの知的障害は,その病態として契約者や被保険者について意思能力の欠失を意味するため,他の疾病とは異なる契約の引受および契約管理上の問題を提起する。本稿では,知的障害の保険リスクを考察すると共に,知的障害について一般社会で導入されている判断基準や社会福祉制度について概観する。これらの諸制度を参考に被保険者の同意能力や契約者の意思能力の有無について保険会社としてどのように判断するべきなのかを検討し,生命保険における知的障害の問題を考察したい。
著者
高山 学
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.108, no.2, pp.120-134, 2010-06-17

入院リスクは一般に,入院発生率と平均在院日数の積で表されるが,平均在院日数は更に,μリスク(中央値)とσリスク(平均値÷中央値)との積に分解される。入院初日より入院給付金を支払った約7万件の保険契約を対象に,生存時間解析を行った結果,AIC(赤池情報量規準)で,対数ロジスティック分布が最適であった。そこで,対数ロジスティック分布モデルで,平均在院日数をμリスクとσリスクに分解し,性別・年齢階級別に両リスクの推定を行い,σリスクの幾何学的意味を考えた。次に対象契約を性別・保険年度別・年齢階級別・選択方法別に細分化して,在院日数分布を解析した結果,若年層では対数ロジスティック分布が,高齢層では対数正規分布や逆ガウス分布が最適となる顕著な傾向が見られた。また,drift項付1次元Brown運動の通過時刻(逆ガウス分布に従う)と在院期間との類似性から,在院日数分布が決まる仕組みについて考察した。
著者
鄭 石彦
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.194-201, 1993-12-15

死亡構造の国際比較における研究に際し,日本,九州を対象として,年齢階級別・死因別死亡率について分析した。結果として脳血管疾患は九州では男子で35〜39歳で増加し,台湾の50〜54歳で略同一となる。女子では15〜79歳まで,台湾の方が九州より高い。悪性新生物の場合では,男子では45〜54歳まで各年齢階級で略同じ死亡率を示しているが,55歳以上では九州が増加している。女子65歳以上では九州の方が高い。そのほかの死因を比較すると,女子の心疾患は,25〜74歳まで台湾の方が高い。肺炎・気管支炎(50歳以上),不慮の事故,肝硬変(25歳以上),全結核,糖尿病(50歳以上)などはいずれも台湾の方が高い。特に糖尿病では女子で45歳〜79歳では九州の2倍の死亡率であることに注目される。台湾県市別において男女とも胃と食道癌は有意に相関する(P<0.01)。肝臓癌は男女ともに日本<九州<台湾の関係である。
著者
河野 康一 佐々木 光信 嘉藤田 進 片桐 聡 深谷 正道 藤井 大輔 宇都出 公也
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.110, no.2, pp.156-162, 2012-06

本年(2011年),当社より発売したがん保険の新商品「Days」においては,がんに対する放射線治療の給付要件「50グレイ以上の照射で,施術の開始日から60日の間に1回の給付を限度とする」から「50グレイ以上の照射で」(以下,総線量50Gy規定と記載する)の規定を廃止した。本規定はもともと1981年に作成された「疾病・手術に関する全社統一約款」において,当時のがん治療の実態から手術給付金の一つとして設けられたものであった。その後,放射線治療は多様化・個別化しており,現在では,臨床と保険給付要件との間に乖離が生じている。当社では,がん保険の新商品の発売に当たり,現在のがん医療の実情に合わせた保険とすべく約款内容の検討を行った。総線量50Gy規定の廃止もその一つである。本規定の廃止は,本邦のがん保険においては当社が初めて行ったものであり,歴史的にも意義の深いものと考えられるので,ここに報告する。
著者
小野 陽二 肥野 武彦
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.85, pp.323-327, 1988-01-20

はじめに 寿命に影響を及ぼす要因を探ることは,保険医学に寄与するものと考えられる。この際特定集団の寿命調査を行なう事も有意義であると考えられ,既に米国メトロポリタン生命によるシリーズものがある。我々は先に,「経営者層の寿命調査について」「衆議院議員の寿命」「内閣閣僚の寿命」を調査・報告してきた。今回は更に「衆・参議員議長,副議長の寿命」を報告するとともに,我が国最初の職業野球チームであり,50年の歴史を有する「読売巨人軍選手の寿命」と,40歳以上のラグビープレーヤーで構成され,世界高齢者ラグビーのパイオニアであり,昭和63年1月に40周年を迎える「不惑倶楽部の寿命」を併せて行なったので報告する。調査対象と方法 議長は衆議院,貴族院,参議院120名の内119名を対象とし,観察期間を入閣年から昭和60年までとした。読売巨人軍は入団者545名中537名を対象とし,同じく加入年から昭和60年までとした。不惑倶楽部は加入年が不明確な者が多かったので,各自の40歳から昭和60年までとした。死亡指数の基とした各年別・各歳別国民死亡率は前回まで使用したものをそのまま使用した。調査結果と考察表1の如く,議長・副議長は国民に比して悪く,特に衆議院議長,貴族院議長が全体を押し下げていた。衆議院議員,内閣閣僚が国民と比較して良好であったので,この結果は意外であった。表2では,巨人軍選手は国民に比較して良好であったが,ポジション別に見ると,投手,内野手が良かった。投手は身体が良いものに多く,選手寿命も短かい所為と考えられる。捕手は国民と差がなかった,この為か米国の職業野球選手の死亡指数と比較すると良くなかった。コーチ・マネージャーは日米共に選手に比較して悪かったが,これも日本の方が良くなかった。表3では,不惑倶楽部会員は職業野球選手と同様な傾向であった。40歳になっても,ラグビーを毎週楽しめると云う事は,肉体的にも恵まれているばかりでなく,職業環境等にも恵まれていると考えられ,また,余暇利用も一般日本人に比較して上手な人が多い事も,寿命を長くしていると言える。
著者
千田 尚毅
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.110, no.4, pp.268-275, 2012-12-28

日本保険医学会誌を紐解くと1980年代後半には,査定サポートなどの仕組みなど,査定の機械化,自動化に関する多くの報告が見られる。しかし,その後の日本におけるいわゆる自動査定の発達は欧米と比べると立往生しているように見受けられる。その原因の一つとしては,大多数の標準体契約の迅速処理を優先した告知書など,査定に回付される情報の量と質の向上を棚上げしつづけてきたことが挙げられる。査定上必要な医学的情報と必ずしも一致しない情報をフリーテキスト状態で収集しても,機械的処理につなげることは難しい。将来的には,査定基準をルール化するなど機械処理になじみやすい形に整理し直し,そのルールに則った医学的情報を告知書あるいは直接機械画面に向かって入力してもらうことにより,査定において機械化,自動化できる領域を大幅に増やすことが可能になると考えられる。
著者
後藤 牧人
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.104, no.3, pp.276-281, 2006-09-17
被引用文献数
1

生命保険証券の売買Viatical Settlements(以下,VS)は,米国ではAIDSでの死亡者数増加に伴い,すでに大きなビジネスである。日本でも2004年末,保険買取会社が死亡保障2,800万円の生命保険を約850万円で買い取ろうとしたケースが発生した。前職の再保険会社でVSを研究しながら,日本市場への紹介・導入を躊躇したのは,法的・医学的・社会的な整合性・コンセンサスが日本では整っておらず,モラルリスクや犯罪誘発の可能性,最終的に契約者が損害を蒙る可能性が高かったためである。しかし,癌・AIDS・アルツハイマー病・心疾患などの増加,リビングニーズ保険特約の普及などといった社会的状況要件から,日本でも今後重要な保険商品の一種になると考えられる。特に,VSでは査定能力が重要であり,保険医学・臨床医学・保険数理において高度に専門的な知識や経験が求められる。米国での今までの経験から,その適応と限界に触れ,日本におけるVSの意義・ビジネス・契約者保護に関して報告する。
著者
加藤 慎二郎 熊谷 信克 松本 敬子
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.113, no.2, pp.84-109, 2015-06-29

観察研究における対象の選択バイアスは,結論に影響しうる。本研究では,新契約無条件体の申込形態別死亡率,死因を調査し,生命保険加入者に特有な選択バイアスについて検討した。払方,保障額,新規転換,白地区分の申込形態は,いずれも有意に死亡率に影響していた。特に払方と保障額の効果は,大きくかつ長期的で,選択が難しいと考えられる悪性腫瘍,自殺,事故死,肝硬変,その他病死など多岐にわたる死因で差異が観察された。これらの効果は,おおむね射幸心やモラルリスクに基づくものと推測されるが,一時払契約では喫煙率が低く,一部で健康志向の関与が示唆された。観察研究の結論は,コントロールの選定や解析方法にも左右される。特にImpairment Studyを用いて疾病や検査所見の医学的リスクを正しく評価するためには,保険年度・観察年度構成とともに,これら申込形態や環境要因の選択バイアスの適切な調整・管理を必要とする。
著者
由本 光次
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.105, no.4, pp.284-294, 2007-12-17
被引用文献数
3

日本の生命保険における告知制度について検討する参考資料として,英米仏蘭4ヵ国における告知書をめぐる周辺事情と,英独における告知義務違反の取扱を紹介する。正直な契約者を不正直な者から保護する責任を前面に出し合理的な体制を実現している英国,英国ほどではないが合理的現実的に危険選択を実行している米国,禁止・制約・自主規制という各種の制限の中選択を維持しているフランス,民間保険会社としての危険選択の維持さえ危ぶまれるオランダといった特徴がある。業界団体であるABI(英国保険協会)と消費者保護の立場に立つオンブズマン(Financial Ombudsman Service)の活動が活発な,英国の告知義務違反に対する対応は,その内容,情報発信の点から参考になるものと考える。また医的情報入手が比較的容易な英米で,簡素化と選択精度維持の両立を意図したテレアンダーライティングが普及しつつある事実も興味深い。
著者
宮副 一郎
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.109, no.2, pp.132-145, 2011-06-17

選択情報の詳細化と商品の多様化により,機械査定で完結する割合は減少し,査定医の負荷はますます増加している。このような状況下では,査定アシスト機能が重要な役割を果たす。査定アシスト機能にはいろいろあるが,機械学習のひとつであるニューラル・ネットワークを用いて,確率付き査定オプションを提示するアシスト機能についで検討した。(1)検証可能性,(2)基準の複雑性,(3)解析の安定性を考え,リスク因子として血圧値を採用した。結果はニューラル・ネットワークにより,相当程度の適切な査定オプションが提示できたが,査定例の少ない選択情報パターンでは,学習データが少ないため提示精度に限界があった。しかし入出力情報を査定基準通りとしたダミーデータを追加することにより,欠点は克服できた。今回の解析により,ニューラル・ネットワークを用いれば,個別のリスク因子に関して,適切な確率付き査定オプションが,提示できる可能性が示された。
著者
小林 三世治
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.100, no.1, pp.83-89, 2002-09-17
被引用文献数
2

精神障害で治療中の被保険者が墜落死。災害死ならば,普通死亡保険金に加えて傷害特約・災害割増特約に基づく保険金(災害関係保険金)が支払いとなる。一方,自殺ならば免責となる。このため,墜落死の原因を巡って裁判となった。墜落現場の様子・救急隊の記録・診療録・死体検案書等から,筆者は自殺と判断した。保険金支払に関連した自殺・災害死について,判例・約款等に基づき若干の考察を加えた。判決は自殺と認めた。
著者
上山 俊輔 尾関 全
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.111, no.2, pp.122-130, 2013-06-28

現在,脂質異常症の管理目標値には年齢,性別,LDL-C値,血圧,喫煙など冠動脈リスク評価が用いられ,特に閉経前女性において,冠動脈リスクが低いという性差を反映したものに変わりつつある。今回,LDL-C値が冠動脈疾患の入院給付や死亡指数に与える影響の性差を検討した。LDL-C値の分布では,女性は30代,40代のピークが低くなり,男性より遅れて上昇する傾向がみられた。LDL-C値と冠動脈疾患入院給付発生率では,男性はLDL-C値や年齢が上がるにつれて発生率も上昇した。一方,女性においては発生率の上昇は明らかではなく,発生率自体も男性の約4分の1程度であった。死亡指数比では男性はLDL-C値が120-149mg/dlで最も低くなり,LDL-C値が上昇,または低下しても死亡指数比が上昇した。女性ではLDL-C値が上昇しても死亡指数比は上昇しなかった。今回の検討より,冠動脈疾患入院給付率や死亡指数において明確な男女差がみられ,査定においても女性は大幅に緩和する余地があると考えられた。
著者
谷川 拓男 久次米 啓一郎 松本 文夫 梅津 哲二
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.47-53, 1999-12-17
参考文献数
19
被引用文献数
1

Human T lymphotropic virus type-I (HTLV-I)キャリアの死亡指数を,九州,宇和島,佐賀,ジャマイカにおけるキャリアあたりの成人T細胞白血病(ATL)発症率,およびATL死亡率曲線の資料を用いて算出した。30歳HTLV-Iキャリアの到達年齢別死亡指数は,40歳時100〜173,50歳時120〜146,60歳時117〜132,70歳時107〜117であった。40歳時で地域間のばらつきが大きかった理由として,40歳以下の人口に占めるATL患者の割合が相対的に少なく発症率に差があったことに加え,40歳以下の標準死亡率が40歳超に比べて低いことが考えられる。40歳キャリアの死亡指数は,50歳時119〜139,60歳時115〜127,70歳時106〜115であった。今回の検討により,30歳キャリアにおける20年以上の契約や,40歳以上のキャリアでは,無条件選択が可能と考えられた。今後,死亡予後とは別に,HTLV-I関連症候群の影響を考慮した検討も必要であろう。
著者
浅倉 稔生
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.1-17, 1988-12-20

エイズ(AIDS:Acqired Immune Deficiency Syndrome)は,いまアメリカ,ヨーロッパで大きな社会問題となっている。はじめは,男性の同性愛者,麻薬使用者,血友病など血液製剤の使用者に限られていたが,最近では,ホモでも,麻薬使用者でもなく,血液製剤を使用したことのない,一般の成人,新生児の間にもエイズ患者が増加してきたからだ。1981年に最初のケースが発見されて以来,患者数は,うなぎのぼりに増え,1988年2月現在,アメリカの患者数は54,723人となり,そのうち30,715人は,すでに死亡している。このほか症状はないが,すでにエイズウイルスに感染している人の数は,アメリカだけで100〜150万人に達するといわれている。抗体陽性者の数は,世界中で1,000万人いるといわれ,このうち何%が,エイズの症状を発現するかについて,これまでの予想では,30〜40%といわれてきたが,最近では,16年間のうちに,100%がエイズ症状を発現するという予測が統計学的計算から出されている。エイズの増加は,単に患者の問題にとどまらず,医療費,生命保険の支払い,学校や職場での受け入れ拒否などの問題にまで発展してきている。ある町で,「あのレストランの料理人はホモだ」という噂がたっただけで,客数が減って倒産し,その影響はそこに融資していた銀行にまで波及している。エイズ患者はなるべく外来で治療することになっているが,それでも一人1,000万円以上の医療費がかかり,医療保険会社の支出が急増している。このため,医療保険や生命保険への加入者に対する血液検査が真剣に講じられるようになった。このような事態は,日本ではまだ起っていないが,外国旅行者が増加し,接客業が大幅に容認されている日本でも,エイズがいつ爆発的に増加するか予断を許さない状態にある。本講演では,エイズ患者の症状,病気の経過,治療の状況を患者の写真とともに,説明するほか,エイズ研究の最新の進歩について解説し,はじめにのべたエイズの社会的影響についてもアメリカの現状を報告する。エイズ患者の増加で,最大の影響を受けるのは,医療保険,生命保険会社であり,そのような事態にそなえて,今のうちにとっておくべき対策についても触れることにする。
著者
栗山 進一 久野 昭太郎
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.88-95, 1998-12-15
被引用文献数
2

体格の評価には,体重過多(overweight)の有無,肥満(obesity)の有無,内臓脂肪分布の少なくとも3つを知らなければならない。肥満の判定基準としてBody Mass Index (BMI)が多用されているが,これをそのまま体重過多の判定に用いることができるかどうかは議論が必要である。そこで,BMIとローレル指数(体重/身長^3)を比較し,体重過多の判定基準について検討した。この結果,体重過多の指標としてはローレル指数の方がより有用である可能性が示された。一方BMIは,高身長者の場合,有病率からみて適正体重範囲であっても体重過多と判定することがあり,逆に,低身長者では,有病率からみて体重過多であっても適正体重範囲であると判定する可能性があり,注意が必要であることがわかった。標準体重算出にBMIが基盤となることが多いが,一考を要する結果となった。
著者
小柳 仁
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.87, pp.22-35, 1989-12-15

国際心臓移植学会(ISHT)のInternational Registryによると,1987年の1年間で2200例の心移植が行われ,米国にかぎっても109施設で1441例が施行された。1987年末までに登録された6500人の患者の年齢は0〜68歳(平均42.5歳)で男83%,女17%である。全症例の10年生存率をみると,1年生存率79%,5年生存率75%,10年生存率73%ときわめて良好な結果が得られている。免疫抑制療法が三者併用療法になった最近の2500例にかぎると,1年生存率は86%とさらに向上し5年生存率も実に85%に達している。Recipientの年齢制限が変化し,55歳までを適応とする施設が増加しactiveな患者であれば60歳までを適応にいれる。また新生児にも適応が広げられている。Recipientの原疾患では心筋症,冠状動脈疾患が二大グループである。当初は冠状動脈疾患が多かったが最近は特発性心筋症の占める割合が多くなっている。提供心臓の保存時間は,単純冷却浸漬保存で安全許容限界4時間とされており,ISHTの統計によると自病院内でのドナー調達は約20%なのにくらべ,ジェット機などを使用した遠隔地からの転送が60%を占めている。心臓移植が初めて臨床応用されて以来,"beating heart"が用いられてきた。しかしすべての国で脳死が法的に認められているわけではない。米国50州の約半分の州では,臓器請求法,すなわちドナーの基準をみたしている患者を診ている医師に,家族に臓器提供を促すことを義務づける法律が制定されている。世界的にみてUNOS(United Network of Organ Sharing),Eurotransplant,Skandiatransplantなどの機構が有効に機能し遠隔のドナーを地理的,時間的にRecipient poolに結びつける作業が日夜行われている。免疫抑制療法は現在はサイクロスボリン,イムラン,プレドニンの三者併用療法が主流をなしている。免疫抑制療法別の成績でも三者併用療法群は1年生存率86%,5年生存率84.5%,またミネソタ大学では2年生存が96%まで向上した。また最近モノクロナール抗体であるOKT3が脚光をあびており,とくにその予防的投与の有効性に関心が集まっている。驚くべきことは生存率のみでなく,移植をうけた患者のquality of lifeであり,実に73%の患者が完全に社会復帰をなしとげている。