- 著者
-
浅倉 稔生
- 出版者
- 日本保険医学会
- 雑誌
- 日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
- 巻号頁・発行日
- vol.86, pp.1-17, 1988-12-20
エイズ(AIDS:Acqired Immune Deficiency Syndrome)は,いまアメリカ,ヨーロッパで大きな社会問題となっている。はじめは,男性の同性愛者,麻薬使用者,血友病など血液製剤の使用者に限られていたが,最近では,ホモでも,麻薬使用者でもなく,血液製剤を使用したことのない,一般の成人,新生児の間にもエイズ患者が増加してきたからだ。1981年に最初のケースが発見されて以来,患者数は,うなぎのぼりに増え,1988年2月現在,アメリカの患者数は54,723人となり,そのうち30,715人は,すでに死亡している。このほか症状はないが,すでにエイズウイルスに感染している人の数は,アメリカだけで100〜150万人に達するといわれている。抗体陽性者の数は,世界中で1,000万人いるといわれ,このうち何%が,エイズの症状を発現するかについて,これまでの予想では,30〜40%といわれてきたが,最近では,16年間のうちに,100%がエイズ症状を発現するという予測が統計学的計算から出されている。エイズの増加は,単に患者の問題にとどまらず,医療費,生命保険の支払い,学校や職場での受け入れ拒否などの問題にまで発展してきている。ある町で,「あのレストランの料理人はホモだ」という噂がたっただけで,客数が減って倒産し,その影響はそこに融資していた銀行にまで波及している。エイズ患者はなるべく外来で治療することになっているが,それでも一人1,000万円以上の医療費がかかり,医療保険会社の支出が急増している。このため,医療保険や生命保険への加入者に対する血液検査が真剣に講じられるようになった。このような事態は,日本ではまだ起っていないが,外国旅行者が増加し,接客業が大幅に容認されている日本でも,エイズがいつ爆発的に増加するか予断を許さない状態にある。本講演では,エイズ患者の症状,病気の経過,治療の状況を患者の写真とともに,説明するほか,エイズ研究の最新の進歩について解説し,はじめにのべたエイズの社会的影響についてもアメリカの現状を報告する。エイズ患者の増加で,最大の影響を受けるのは,医療保険,生命保険会社であり,そのような事態にそなえて,今のうちにとっておくべき対策についても触れることにする。