- 著者
-
横山 哲
- 出版者
- 日本保険医学会
- 雑誌
- 日本保険医学会誌 = The Journal of the Association of Life Insurance Medicine of Japan (ISSN:0301262X)
- 巻号頁・発行日
- vol.101, no.2, pp.117-136, 2003-06-17
- 参考文献数
- 41
- 被引用文献数
-
2
【背景】心電図正常所見による高血圧の美点評価が欧米で行われているが,日本の被保険者集団を対象とした報告では,この血圧美点評価が正当であるのかについて議論に一致をみていない。我々は,その正当性を検証するために,当社の被保険者集団を対象に死因別および保険金額別による分析を行った。【方法】観察対象は1984年度成立以降の契約を1996〜2000年度の観察とし,医師による診査で,男性のみ,標準体承諾(限界体承諾を含む)もしくは第一欠陥に高血圧のコードをもつ条件体承諾の集団とした。高血圧治療中および治療の既往があるものは除外した。心電図正常群は,正常・洞不整脈・不完全右脚ブロックとした。高血圧の分類は収縮期血圧とし,140mmHg未満を正常血圧, 140mmHg以上を高血圧とした。年齢は46歳未満と46歳以上の2群,保険金額は5千万円未満の低額群と5千万円以上の高額群の2群とした。当社の心電図実施基準により,低額群の心電図実施理由は医的理由に限られる。2000年の人口動態統計を用いて保険年度方式の生命保険数理法による死亡指数の算出を行った。【結果】全死因では,高血圧において心電図正常群の死亡指数の低下はみられず,逆に,正常血圧で心電図正常群の死亡指数が心電図未実施群に比し有意に高かった。病死死亡指数は高血圧で心電図正常群87% (80-94%),心電図未実施群97% (95-99%)となり心電図の有効性がしめされた。自殺死亡指数は心電図正常群191% (171-211%),心電図未実施群91% (88-94%)と心電図正常群で2倍以上となり,全死因で心電図の有効性がみられなかったのは,心電図正常群に自殺が多いためであった。病死をさらに詳しく分析すると,心電図正常群は心疾患の死亡指数が有意に低かったが脳血管疾患の死亡指数の低下効果は小さかった。心電図未実施群では,高血圧での悪性新生物の死亡指数の上昇がみられたが,心電図正常群ではみられなかった。保険金額別の分析により,高額群で,自殺死亡指数が高いことに加え悪性新生物の逆選択の存在が示唆された。【結論】高額契約における自殺や悪性新生物の逆選択を排除しうるならば,心電図正常所見による高血圧の美点評価は中高年齢層では可能である。高血圧による脳血管疾患の死亡リスク増に対して心電図検査の選択力が小さいため,わが国の死因構造上,この美点評価を若年者へ適用することや中等度以上の高血圧で拡大させることは慎重にすべきであろう。