著者
才木 邦宣
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 = The Journal of the Association of Life Insurance Medicine of Japan (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.95, pp.114-129, 1997-12-15
参考文献数
8
被引用文献数
6

当社における平成4,5,6年度観察の,のべ約880万件を対象として,医学的選択における心電図の実施効果および心電図所見別の死亡指数を検討した。心電図実施契約は,約34万件であった。全体の死亡指数では,心電図実施群は72で,非実施群の68より高い値を示したが,これは自殺が多いためのみかけ上の結果で,病死に限った死亡指数では,実施群68,非実施群70,さらに心電図正常所見群では62となり,心電図検査は病死の死亡指数(病死指数)の改善には非常に有効であるという結果であった。男性,年齢別の検討でも,心電図の実施効果は著明であったが,唯一,女性の検討では,心電図検査の有効性は認められなかった。心電図所見別では,全年齢及び男性の虚血性変化や若年者の洞頻脈などで有意に病死指数が高かった。また,保険年度毎の検討では,心電図の実施効果は,おおむね第6保険年度ぐらいまでは持続していた。死因別の検討では,脳血管疾患と心疾患で,心電図検査の実施効果が著明であった。血圧値別の検討では,高血圧群で心電図実施による死亡指数の改善がみられ,その効果は,第7保険年度までは持続していた。心電図実施契約で自殺が多い現象は,当社の保険金額による基準で心電図が実施された高額契約が含まれるためであった。高額契約における第2保険年度をピークとする自殺は,当業界にとっては,頭の痛い問題である。
著者
植西 邦生 後藤 康一 岩佐 寧
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 = The Journal of the Association of Life Insurance Medicine of Japan (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.101, no.4, pp.393-402, 2003-12-17
参考文献数
24
被引用文献数
2

1990年に我が国で初めて腹腔鏡による胆石の手術が実施されてから,現在では腹腔鏡による手術は胆嚢や胃などの腹部臓器のみならず,胸腔臓器や婦人科,整形外科,泌尿器科などの分野にも幅広く応用され,その実施件数は増加の一方をたどっている。それに比例して腹腔鏡下手術についての手術給付金請求も増加している。一方,我々が用いている手術給付金の支払基準は1987年改定のままであり,1992年の新手術適用ルールに従っても腹腔鏡下胆嚢摘出術に適用させるには手術給付金本来のねらいとは隔たりが大きい。最近,我々は,胆石の腹腔鏡下胆嚢摘出の手術給付金請求に接し,その給付基準を約款(特約)の手術給付倍率表のいずれに求めるかについて苦慮し,腹腔鏡下手術の発展,その手術を受ける患者数の増加という現状を受けて約款(特約)を整備すべき時期にきていると考えた。
著者
佐々木 光信
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 = The Journal of the Association of Life Insurance Medicine of Japan (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.101, no.3, pp.273-303, 2003-09-17
参考文献数
24
被引用文献数
1

遺伝子検査と危険選択を巡る議論が,マスコミを含め取上げられる機会が多くなってきている。また先端医療の進歩に伴う様々な生命倫理の問題に対しても保険業界は真撃に取り組まねばならなくなってきている。本稿では,3年前にあった「遺伝子情報と生命保険に関する研究会」の活動の経緯を報告し,その際纏められた遺伝子情報と生命保険に関する学会の見解表明と遺伝子検査と危険選択を巡る諸問題の解説資料を原文のまま掲載することとした。残念ながら当時諸事情のため公開することには至らなかったが,本稿が遺伝子情報と生命保険を巡る議論の資料となることを信じて,今回学会長の了解のもと投稿させていただいた。
著者
津田 純
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 = The Journal of the Association of Life Insurance Medicine of Japan (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.102, no.1, pp.68-79, 2004-03-17
参考文献数
34
被引用文献数
1

近年世界各地で行われた大規模コホート研究を元に,総コレステロール値と死亡率との関係を調べた。死因別にみると,いずれのコホートにおいても,総コレステロール値の上昇とともに,冠動脈疾患による死亡率がほぼ直線的に上昇していた。一方,全ての研究において,最も総コレステロール値が低い集団で,悪性腫瘍の死亡リスクが高くなっていた。脳卒中については明らかな関係を認めなかった。総死亡率との関係をみると,欧米の研究では,全体としてコレステロール値の上昇と共に上昇するJカーブであったが,アジアでの研究結果は,むしろ低コレステロール群で緩やかに上昇する逆Jカーブであった。こうしたパターンの相違は両者の死因構造により生ずるものと思われた。日本人の場合,総コレステロール値の上昇に伴う総死亡率の上昇はほとんど認めず,その危険選択上の意義はあまり大きくないものと思われた。
著者
横山 哲
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 = The Journal of the Association of Life Insurance Medicine of Japan (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.101, no.2, pp.117-136, 2003-06-17
参考文献数
41
被引用文献数
2

【背景】心電図正常所見による高血圧の美点評価が欧米で行われているが,日本の被保険者集団を対象とした報告では,この血圧美点評価が正当であるのかについて議論に一致をみていない。我々は,その正当性を検証するために,当社の被保険者集団を対象に死因別および保険金額別による分析を行った。【方法】観察対象は1984年度成立以降の契約を1996〜2000年度の観察とし,医師による診査で,男性のみ,標準体承諾(限界体承諾を含む)もしくは第一欠陥に高血圧のコードをもつ条件体承諾の集団とした。高血圧治療中および治療の既往があるものは除外した。心電図正常群は,正常・洞不整脈・不完全右脚ブロックとした。高血圧の分類は収縮期血圧とし,140mmHg未満を正常血圧, 140mmHg以上を高血圧とした。年齢は46歳未満と46歳以上の2群,保険金額は5千万円未満の低額群と5千万円以上の高額群の2群とした。当社の心電図実施基準により,低額群の心電図実施理由は医的理由に限られる。2000年の人口動態統計を用いて保険年度方式の生命保険数理法による死亡指数の算出を行った。【結果】全死因では,高血圧において心電図正常群の死亡指数の低下はみられず,逆に,正常血圧で心電図正常群の死亡指数が心電図未実施群に比し有意に高かった。病死死亡指数は高血圧で心電図正常群87% (80-94%),心電図未実施群97% (95-99%)となり心電図の有効性がしめされた。自殺死亡指数は心電図正常群191% (171-211%),心電図未実施群91% (88-94%)と心電図正常群で2倍以上となり,全死因で心電図の有効性がみられなかったのは,心電図正常群に自殺が多いためであった。病死をさらに詳しく分析すると,心電図正常群は心疾患の死亡指数が有意に低かったが脳血管疾患の死亡指数の低下効果は小さかった。心電図未実施群では,高血圧での悪性新生物の死亡指数の上昇がみられたが,心電図正常群ではみられなかった。保険金額別の分析により,高額群で,自殺死亡指数が高いことに加え悪性新生物の逆選択の存在が示唆された。【結論】高額契約における自殺や悪性新生物の逆選択を排除しうるならば,心電図正常所見による高血圧の美点評価は中高年齢層では可能である。高血圧による脳血管疾患の死亡リスク増に対して心電図検査の選択力が小さいため,わが国の死因構造上,この美点評価を若年者へ適用することや中等度以上の高血圧で拡大させることは慎重にすべきであろう。