- 著者
-
井上 和仁
- 出版者
- 神奈川大学
- 雑誌
- 年報 (ISSN:13420917)
- 巻号頁・発行日
- vol.99, 2000-03
カロテノイドは自然界に最も広く存在する色素で、生体内で重要な生理的役割を果たしている。今回、南極大陸のリュツォ・ホルム湾の露岩域にある淡水湖であるスカーレン大池の湖底に堆積している藍藻マットサンプルより、カロテノイド合成能を有する細菌を単離したので報告する。第38次南極観測隊により採集された藍藻マットを、滅菌したエッペンドルフチューブに少量とり、約1mlのMOM (Marine Organic Medium)液体培地を加え懸濁後、懸濁液約200μlをMOM寒天培地に広げ、好気下で10℃で光照射した。約1週間後、寒天培地上にオレンジ色のコロニーが生じた。さらにこのコロニーを新たなMOM寒天培地に広げ、単一コロニーになるまで、この操作をくり返し、純粋に分離された株(OI-6)を得た。OI-6をMOM液体培地で培養後、集菌し、染色体DNAを抽出した。この染色体DNAを鋳型として、多くの細菌の16SrRNAにおいて高度に保存されている領域を参考に作製したオリゴDNAをプライマーとしてPCRを行い、OI-6の16SrRNAを増幅した。増幅された16SrRNAの塩基配列をダイターミネーター法で決定した。この配列をBLAST検索したところOI-6の16SrRNAの配列は、グラム陽性高GC群のミクロコックス群に属するKocuria erythromyxaの16SrRNAと'99%一致した。OI-6のアセトン/メタノール(3 : 1)による抽出物ついて逆相HPLCによる解析を行ったところ、OI-6が数種類のカロテノイドを生産することが示唆された。極地方に生育する微生物は、いまだ良く研究されておらず、新規のカロテノイドの探索源として有望と思われるので、さらに、研究をすすめる予定である。