著者
上田 善弘
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.241-328, 1994-03-25

1.44種,20変種,5種間交雑種および76品種のバラを用い,花と葉の各器官について計測を行った.計測値から算出される二次変数も加え,クラスター分析および主成分分析を行った.2実験からなり,供試材料および測定形質を変更して行った.クラスター分析の結果,実験1,2ともにPimpinellifoliae節の種およびHSpn系統の品種がクラスターを形成した.Rosa節の種は両実験で広く分散した.実験2においてHT系統の品種のほとんどがクラスターを形成した.主成分分析の結果,両実験とも第1主成分は大きさに関する因子とみなされ,葉および花器器官の小さいものからPimpinellifoliae節の種,Rosa節の種,R. gallicaとその関連種の順に分けられた.実験2においてHT系統の品種は形態が大きく,本主成分の正の方向に広く分布した.実験1において,第3主成分に八重化に関する因子(がく筒開口部径,雄ずい数など)が抽出され,改良品種と野生種が明確に区分できた.2.12種,8変種,2種間交雑種および29品種のバラを用い,花芽分化を形態学的に観察した.また,34種,22変種,7種間交雑種および82品種のバラを用い開花枝の節数,長さを調査した.さらにこれらのバラにつき開花期を調査し,各形質間相互の関係を検討した.調査したすべてのバラで,花芽は開花当年の萌芽とともに分化を開始し,およそ40日から60日で発達を完了していた.開花枝の諸形質のうち節数は,他形質に比べて開花枝間の変異が小さく安定し,種および品種で固有であると思われた.種では,節数は開花開始日と有意な正の相関(r=0.712)があり,節数が多いほど開花が遅かった.現代の栽培バラ系統は,節数の増加とともに節間長が長くなり,シュートが強勢になるように育成されてきたものと考えられる.また,種および品種によっては四季咲き性と一季咲き性の中間的な開花習性を示すものがあり,これらのバラでは開花枝の長さの割に節数が多いのが特徴であった.1.バラ属95種(species),22変種(varieties),8品種(forms),155栽培品種(cultivars)および関連属(Rubus6種,1種間交雑種,Potentilla 3種,3栽培品種,Kerria 1種,Neviusia 1種,Rhodotypos 1種)の花粉表面を走査型電子顕微鏡により観察した.バラ属植物の花粉表面にはバラ科植物に一般的な彫紋構造がみられ,うね(ridge)と微散孔(perforation)により特徴づけられた.この彫紋構造は種および品種で幅広い変異がみられ,その特徴により花粉表面型をIからVIの6タイプに分けた.これらのタイプの種間の分布をみると,各々が属する分類群(亜属,節)ごとに特徴ある花粉表面型がみられた.各分類群特有の花粉表面型から逸脱する種については,その所属についての検討が必要と思われた.古い系統の品種では,祖先種の花粉表面型を受け継ぎ,系統ごとに特徴的な花粉表面形態を示した.しかし,現代品種の系統(HT,F)では幅広い変異を示した.関連属の花粉でバラ属の特定の花粉タイプに似るものとバラ属に全くみられない新しいものとがみられた.2.供試材料のなかから選定した種および品種につき,SEMにて観察し撮影した写真から花粉の大きさおよび花粉表面形態に関する形質を計測し,その計測値を基に多変量解析(クラスター分析,主成分分析,判別分析)を行った.種を中心としたものと品種を中心としたものの2実験からなり,それぞれにつき多少測定形質を変更して行った.実験1ではクラスター分析によりPimpinellifoliae節の種とHSpn系統の品種がクラスターを形成し,Rosa節の種は広く分散した.Synstylae節の種は大きく2つに分けられた.主成分分析の結果,第1主成分に花粉の大きさに関する因子が,第2主成分に微散孔に関する因子が抽出され,これらの2主成分により各々の分類群は分けられた.特にPimpinellifoliae節の種とHSpn系統の品種は第2主成分により他の分類群から分けられた.判別分析の結果,種全体で各分類群への判別率は平均57.4%であった.1種のみからなる分類群では確実に所属の分類群に判別された.Caninae節とRosa節の種は判別率が低く,30%台であった.また,微散孔の総面積が分析過程で最初に取り込まれ,本形質が各分類群を判別するのに最も有効な形質であることが分かった.実験2ではクラスター分析によりTとCh系統の品種,PolとHRg系統の品種が各々,祖先種とともにクラスターを形成した.その他多くのクラスターが形成されたが,系続ごとのまとまりはなかった.主成分分析の結果,第1主成分にうねに関する因子が,第2主成分に微散孔に関する因子が抽出された.このうち第1主成分により,主な系統はHRg・Pol群,B群,T・Ch群の3群に分けられた.一方,HSpn系統の品種は第2主成分により他の系統から分けられた.判別分析の結果,全体で26.7%の判別率であり,各系統間に判別率の幅広い変異がみられた.本分析では実験1で測定しなかったうね間の距離が判別に有効な形質として最初に取り込まれた.多くのバラの種および品種を用い,発芽法および染色法により花粉稔性の変異を調査した.併せて,花粉の稔性評価手法について最適な手法について検索を行った.まず,花粉発芽について,発芽培地へのほう酸の添加は花粉の発芽を促進し,その濃度は50ppmで充分であった.また,20℃以上の温度が発芽に好適であった.この発芽条件での花粉発芽率と各種染色剤による花粉染色率を比較したところ,どの染色剤との間にも有意な正の相関がみられた.しかし,酢酸カーミンでは,花粉発芽率に比べ染色率が高く,逆にMTTでは染色率がより低く,さらにヨードヨードカリでは相関が他の染色法に比べて低かった.それに対し,FDAを用いた蛍光染色法は最も花粉発芽率と相関が高かった.野生種が最も花粉稔性が高く,続いて種間雑種,栽培品種の順であった.種ではRosa節とBanksianae節の種において,品種ではHRgとPol系統の品種で比較的高い花粉稔性がみられた.HTやF系統の現代品種は他の系統に比べ花粉稔性が非常に低かった.これらの品種につき,育成年代順に花粉稔性をみると,品種分化が進むに従って花粉稔性が低下してきていた.黄色バラ4種,2変種,24品種を用い花弁に含まれるカロチノイド色素をTLCおよび機器を用いて分析した.TLCにより38の色素に分離され,そのうち25の色素について同定または推定した.これらの色素には多種のエポキシド型カロチノイドが含まれていた.供試材料におけるこれらの色素の分布から,バラの黄色の発色はβ-Caroteneと大量のエポキシド型カロチノイドからなることが分かった.特にR. foetidaからの黄色導入以後の品種において,そのことは著しく,エポキシド型カロチノイドを主要な構成色素とした. Noisette系統の'Marechal Niel'は他の種または品種にみられない色素構成を示し,カロチノイド色素生合成の初期段階の色素を多く含んでいた.

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