著者
臼井 則生
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.215-226, 1997-03-28

本稿は発展途上国において輸出ブーム現象が誘発する構造調整問題,すなわちオランダ病を回避するために如何なる政策対応が求められるのかを明らかにするため,1970年代に原油ブームを経験し,しかも対照的な経済パフォーマンスを示したインドネシアとメキシコの経済運営に関する比較検討を行ったものである.両国の経済運営にはいくつかの相違点が存在し,特に政府財政,対外借入ならびに為替レート政策に対照的な点が見い出された.メキシコは潤沢な原油収入が存在するなかで野心的な開発政策を展開し,財政ならびに貿易収支の赤字を拡大させ,結果的に政府の経済運営に対する信認が失われるなかで生じたキャピタル・フライトをファイナンスするため対外借入への依存度を増大させた.また,対外不均衡を解消するため為替切り下げを実施したものの,適切な需要管理政策が欠落したために,その効果は限られたものとなった.こうしたメキシコの状況に比べ,インドネシアの政府財政ならびに対外借入のあり方は比較的コンサーバティブであり,しかもこれらの対応は同時に実施された為替切り下げと整合性を有するものであった.メキシコが製造業部門の停滞というオランダ病の兆候を見せる一方で,インドネシアがオランダ病の影響を回避しえた理由のひとつは,こうしたマクロ政策対応の相違にあるものと考えられる.また,メキシコにおいては原油収入の多くが石油生産拡大のための公共投資という形で用いられたのに対し,インドネシアではオランダ病の影響を受けると考えられる製造業ならびに農業といった貿易財部門への投資として用いられた.原油ブームによる収入が貿易財部門の供給能力を増大する形で用いられたことが,インドネシアの成功のもうひとつの要因と考えられる.両国の比較分析を通じて得られる知見は,オランダ病の影響を回避するためには当該国の政策当局は輸出ブーム収入の短期的棚上げを含めたより慎重なマクロ経済運営を行う必要があるということ,ならびに輸出ブームによる収入を長期的観点から貿易財部門を中心にその生産基盤を強化する形で用いるべきであるという二点である.

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こんな論文どうですか? オイル・シンドロームと経済政策 : インドネシアとメキシコ(臼井則生),1997 http://id.CiNii.jp/TtHVL

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