著者
仲 真紀子
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要. I, 教育科学編 (ISSN:13427407)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.1-18, 1998-02-28
被引用文献数
3

記憶が変容し,再構成されるものであることは古くから指摘されている(Bartlett,1932; Loftus,1982; Neisser,1988; Spiro,1980)。だがこのような指摘は実際にあった出来事が幾分なりとも記銘され,保持されていることを前提としている。これに対し近年では,実際に体験しなかったことまでもが「記憶」として植えつけられ,「想起」され得ることが問題とされるようになった(Ceci,1995; Ceci, Leichtman & Gordon, 1995; Loftus, 1997; Loftus, Coan & Pickrell, 1996; Loftus, Feldman & Dashiell, 1995; Loftus, 1994; 高橋, 1997)。例えばCeciらは幼児に,幼稚園を訪問したサム・ストーンという人物について,実際にはなかったことの「記憶」を植えつけている。彼らはサムの訪問に先がけ,幼児にバイアスのかかった情報を与え,またサム訪問後,繰り返しバイアスのかかった質問を行うことで,サムが本を破いたり,熊のぬいぐるみを汚したりしたという偽りの「記憶」を作り出した(Ceci, 1995; Ceci, Leichtman & Gordon, 1995)。またLoftusらは児童から老人までを対象に,ショッピング街で迷子になったという「記憶」を(Loftus, 1997; Loftus, Coan & Pickrell, 1997; Loftus & Ketcham, 1994),Hyman, Husband & Billings (1995)は学生を対象に,ウェディング・パーティでパンチ・ボウルをひっくり返したという「記憶」を,またSpanosらは学生を対象に,乳児の頃,ベビーベッドの上にモビールがかかっていたという「記憶」を作り出している(Loftus, 1997の引用による)。このような記憶の形成には(1)何かを思い出すよう圧力をかけること,(2)その(実際にはなかった)「出来事」について繰り返しイメージを喚起するよう求めること,(3)そのイメージが偽である可能性を追究しないこと,そして(4)例えば「誰々もそれが事実だと言っている」などの補強証拠を与えることなどが重要な要因となっているという(Loftus,1997)。だが同時に,個人の傾向性も無視することはできない。例えばLoftus et a1. (1997)の引用によれば, Hyman & Billingsは催眠下での被暗示性傾向を調べるための尺度CIS (Wilson & Barber, 1978)と解離体験傾向を調べる尺度DES(Carlson & Putnam,1993)のスコアが偽りの記憶の形成と関わりがあることを見出している。このような記憶の変容に関わる個人差のひとつに被暗示性がある。Gudjonssonは面接や尋問において提示された事後情報が元の記憶に取りこまれ,統合されてしまう傾向性を被暗示性と定義し,被暗示性の源泉として2つの種類を区別した(Gudjonsson,1984a)。ひとつは暗示的,誘導的な質問の内容が元の記憶内容に混入してしまうというものでyield(影響の受けやすさ)と呼ばれる。もうひとつは,面接時の対人的圧力が記憶の内容に変遷を生じさせてしまうというものでshift(変遷)と呼ばれる。従来は被暗示性と言うと記憶の変容だけを指すことが多かったが,認知的な記憶の問題と社会的圧力との影響を分けて考えることは,偽りの記憶の形成や形成に関わる要因を調べていく上で重要なことと思われる(Ceci, Leichtman & Gordon, 1995; Loftus, et a1.,1995)。Gudjonssonは被暗示性を測定する尺度としてGSS(Gudjonsson Suggestibitliy Scale)を開発した(Gudjonsson,1984a, 1987)。そこではまず短い物語を提示する。そして(1)その内容に問する(誘導を含む)質問への反応によってvieldを,(2)1回めの反応と2回めの反応の変遷(被験者に「誤りが多いのでやり直すように」と教示し,再度質問に回答させる)によってshiftを測定する。GSSは本来,法廷に立つ者の被暗示性・迎合性を推定する尺度として開発され,虚偽自白との関連性などを調べるのに用いられた(Gudjonsson,1984b)。だがエピソード記憶の特性等,基礎研究においても有用な道具となり得ることが作者自身によっても指摘されている(Gudjonsson,1987)。ここではGSSの平行版A Prallel Form of the Gudjonsson Suggestibility Scale (Gudjonsson, 1987)を翻訳し,質問紙で大学生被験者に実施し,この尺度で得られる記憶のyieldやshiftについて検討する。併せて, CIS,DESも邦訳し,GSSスコアとの関連を検討する。

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@nknk_tayu CiNiiから『偽りの記憶と諸尺度 : 被暗示性尺度(GSS,CIS)と解離体験尺度(DES)』著・仲 真紀子とかどうでしょうか? https://t.co/sSQdJfUZBy

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