著者
三輪 公忠
出版者
上智大学
雑誌
アメリカ・カナダ研究 (ISSN:09148035)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-12, 1991-03-31

日ソ間の交渉をみる限り, 北方領土問題にはあいかわらず出口が見えないようである。本稿はその出口を探しだすだけでなく, 北方領土問題を米ソの協力を得て日本が積極的に新しい安全保障機構の構築のために貢献する出発点とすることを提唱する。本稿は北方領土の運命は1945年12月のモスコー外相会議における米国務長官 James Byrnes とソ連外相 Molotov との一種の取引によって定まったという一つの秘められた事実を発掘する。大西洋憲章に鑑み, 領土の併合をいっさいしないと決めたローズベルト大統領の理念にもかかわらず, アメリカの軍部, 特に海軍は, 戦争中に軍事占領したミクロネシアをその戦略的重要さのゆえに手放すつもりはなかった。ローズベルトの死後, トルーマン大統領の下で, 国務長官となったバーンズは二律背反の主張と立場を見事な妥協外交で両立させることに成功した。すなわち日本の北方領土はソ連領とし, 代わりにアメリカは日本の旧連盟委任統治領(ミクロネシア諸島)をアメリカの国連戦略信託統治領として軍事的にも自由に使用できることとしたのである。このように北方領土問題にはこれまで忘れられてきた起源があるのである。してみれば米ソの協力なくして日本にとっての北方領土問題の解決の道はないのも明白である。では, この際日本はどのような解決策をとることができるか。その一つは, アメリカにとって未解決のパラウ共和国との問題とリンクすることにある。アメリカがこの共和国との信託統治領関係を解消できずにいるのは, この国の非核三原則憲法のためである。日本はこのアメリカの問題解決に, 北太平洋の非核地帯化への主導的立場をうちだすことで大きく貢献することができる。すなわち, ソ連の武器弾薬を含み, 北方領土上にあるいっさいの軍事施設(それは東シベリアの他地方からそのために運びこまれたものでもよい)を普通の社会施設などと共に買いとるというかたち(前例は沖縄返還のときあった)で, ソ連の経済的ニーズに応えつつ, そのように獲得したものは, たとえば日米加ソの国際監視団の監視のもとで一定期限内に廃棄処分にする。そして同時進行的に, 1986年に発効した南太平洋非核地帯(SPNFZ)に連続する非核地帯を構築する。こうして, 日本は悲惨な戦争体験から学んだ日本国憲法の平和主義と非核三原則をポスト冷戦下の新秩序の形成に積極的に生かしてゆくことができる。それはすでに欧州安保協力会議(CSCE)のメンバーである米ソ加に日本が加わる一つの実際的な方向性であり, やがて, 中国そして統合されるであろう朝鮮半島の国の参加をみすえた未来図である

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こんな論文どうですか? 「北方領土」問題解決への道 : 北太平洋地域に非核安全保障機構を形成するための出発点とするために米ソの協力が必要(三輪 公忠),1991 https://t.co/iCZyOoArMB 日ソ間の交渉をみる限り, 北方領土問題…
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