著者
佐々木 顕
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.53-62, 2006-04-25
被引用文献数
4

ショウジョウバエにはコマエバチ科の寄生蜂に対して、包囲作用による抵抗性を持つ系統がある。この抵抗性には遺伝的変異があり、抵抗性の低いショウジョウバエ系統を寄生蜂存在下で継代飼育すると、わずか数世代で抵抗性(寄生蜂卵に対する包囲作用で寄生を阻止する確率)は急上昇する。本稿ではこのような寄主抵抗性と捕食寄生者の毒性(ビルレンス)の共進化理論を紹介する。寄主と捕食寄生者の個体数変動はニコルソン・ベイリー型動態に従い、それぞれの集団は抵抗性の程度とビルレンスの程度の異なる多数の無性生殖クローンからなるとする。また抵抗性や毒性への投資にコストを仮定する。この共進化モデルから二つの重要な結果が導かれる。第一に、抵抗性のコストが毒性のコストと比較して大きいとき、捕食寄生者は有限の毒性を維持するのに、抵抗性に全く投資しな、寄主が進化する。このとき寄主にとって寄生のリスクよりも抵抗性のコストの方が重いのである。この結果に該当するかもしれない実例をいくつか報告する。第二の結論として、上記を除く広いパラメータ領域において、寄主の抵抗性と捕食寄生者の毒性の軍拡競走が起きることが分かった。抵抗性と毒性はお互いに進化的に上昇し、寄主の抵抗性がコストに耐えかねるほど大きくなり、ついに寄主が抵抗性を破棄する(抵抗性最小の寄主遺伝子型が侵入して置き換わる)まで続く。寄主の抵抗性放棄につづいて捕食寄生者の毒性も低下し、系は共進化サイクルの出発点に戻る。この共進化サイクルは報告されている抵抗性と毒性に関する高い相加遺伝分散の維持を説明するかもしれない。また、共進化サイクルによる寄生リスクの分散は個体群動態の安定性にも寄与する。

言及状況

Twitter (1 users, 1 posts, 1 favorites)

こんな論文どうですか? 寄主抵抗性と寄生者ビルレンスの共進化モデル : 量的形質共進化と個体群動態の結合(<特集>軍拡競走理論と検証)(佐々木顕),2006 http://id.CiNii.jp/T4xlL

収集済み URL リスト