著者
佐々木 顕 東樹 宏和 井磧 直行
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.174-182, 2007
被引用文献数
1

日本のヤブツバキCamellia japonicaの種特異的な種子食害者であるツバキシギゾウムシCurculio camelliaeの雌成虫は、頭部の先に伸びた極端に長い口吻を用いてツバキの果実を穿孔し、果実内部の種子に産卵を行う。このゾウムシ雌成虫の攻撃に対し、ツバキ側も極端に厚い果皮という防衛機構を発達させている。日本の高緯度地方ではヤブツバキの果皮は比較的薄く、ツバキシギゾウムシの口吻も比較的短いが、低緯度地方では果皮厚と口吻長の両者が増大するという地理的なクラインが見られ、気候条件に応じて両者の軍拡共進化が異なる平衡状態に達したと考えられる。日本15集団の調査により口吻長と果皮厚には直線関係が見られ、また、両形質が増大した集団ほどゾウムシの穿孔確率が低いツバキ優位の状態にあることが東樹と曽田の研究により知られている。ここではツバキとゾウムシの個体群動態に、口吻長と果皮厚という量的形質の共進化動態を結合したモデルにより、共進化的に安定な平衡状態における口吻長と果皮厚との関係、穿孔成功確率、それらのツバキ生産力パラメータや果皮厚と口吻長にかかるコストのパラメータとの関係を探った。理論の解析により、(1)ツバキ果皮厚と、ゾウムシの進化的な安定な口吻長との間には、口吻長にかかるコストが線形であるときには直線関係があること、(2)コストが非線形であるときにも両者には近似的な直線関係があること、(3)南方の集団ほどツバキの生産力が高いとすると、緯度が低下するほど果皮厚と口吻長がより増大した状態で進化的な安定平衡に達すること、(4)ゾウムシの口吻長にかかるコストが非線形である場合、ゾウムシの平均口吻長が長い集団ほどゾウムシによる穿孔成功率が低くなることを見いだした。これは東樹と曽田が日本のヤブツバキとツバキシギゾウムシとの間に見いだした逆説的関係であり、ツバキシギゾウムシ口吻長には非線形コストがかかると示唆された。平均穿孔失敗率と口吻長との間に期待されるベキ乗則の指数から、ゾウムシの死亡率はその口吻長の2.6乗に比例して増加すると推定された。
著者
佐々木 顕
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.287-291, 1987-11-25 (Released:2009-05-25)
参考文献数
15

The evolution of natal emigration is studied theoretically assuming exogamy. The model predicts that extremely sex-biased pattem of natal emigration should be evolved, and that less productive sex is to leave the natal troop. Observed patterns of natal dispersal in bird alld nammal species are discussed, in relation to the present model.
著者
佐々木 顕 東樹 宏和 井磧 直行
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.174-182, 2007-07-31 (Released:2016-09-15)
参考文献数
41

日本のヤブツバキCamellia japonicaの種特異的な種子食害者であるツバキシギゾウムシCurculio camelliaeの雌成虫は、頭部の先に伸びた極端に長い口吻を用いてツバキの果実を穿孔し、果実内部の種子に産卵を行う。このゾウムシ雌成虫の攻撃に対し、ツバキ側も極端に厚い果皮という防衛機構を発達させている。日本の高緯度地方ではヤブツバキの果皮は比較的薄く、ツバキシギゾウムシの口吻も比較的短いが、低緯度地方では果皮厚と口吻長の両者が増大するという地理的なクラインが見られ、気候条件に応じて両者の軍拡共進化が異なる平衡状態に達したと考えられる。日本15集団の調査により口吻長と果皮厚には直線関係が見られ、また、両形質が増大した集団ほどゾウムシの穿孔確率が低いツバキ優位の状態にあることが東樹と曽田の研究により知られている。ここではツバキとゾウムシの個体群動態に、口吻長と果皮厚という量的形質の共進化動態を結合したモデルにより、共進化的に安定な平衡状態における口吻長と果皮厚との関係、穿孔成功確率、それらのツバキ生産力パラメータや果皮厚と口吻長にかかるコストのパラメータとの関係を探った。理論の解析により、(1)ツバキ果皮厚と、ゾウムシの進化的な安定な口吻長との間には、口吻長にかかるコストが線形であるときには直線関係があること、(2)コストが非線形であるときにも両者には近似的な直線関係があること、(3)南方の集団ほどツバキの生産力が高いとすると、緯度が低下するほど果皮厚と口吻長がより増大した状態で進化的な安定平衡に達すること、(4)ゾウムシの口吻長にかかるコストが非線形である場合、ゾウムシの平均口吻長が長い集団ほどゾウムシによる穿孔成功率が低くなることを見いだした。これは東樹と曽田が日本のヤブツバキとツバキシギゾウムシとの間に見いだした逆説的関係であり、ツバキシギゾウムシ口吻長には非線形コストがかかると示唆された。平均穿孔失敗率と口吻長との間に期待されるベキ乗則の指数から、ゾウムシの死亡率はその口吻長の2.6乗に比例して増加すると推定された。
著者
酒井 達哉 佐々木 顕彦 西本 望 伊藤 博章 Tatsuya SAKAI Akihiko SASAKI Nozomu NISHIMOTO Hiroaki ITO
雑誌
学校教育センター紀要 = Bulletin of School Education Center (ISSN:24353396)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.109-121, 2021-03-31

本研究では,女子大学を卒業した新卒3 年目までの正規採用の小学校教員を対象に,若手教員の意識や研修課題及び卒業生支援に対する要望を調べ,それらに対する方策について検討を行った。調査の結果,卒業生の若手教員の多くが教職にやりがいを感じながらも,採用前の予想を上回る学校現場の厳しい困難な現実に直面し,それぞれに研修課題を抱いている実状が明らかになった。例えば,研修課題においては,日々,適切な指導が求められる「教科等の指導」,「生徒指導」や新しい教育課題である「特別の教科 道徳」などのニーズが高いことなどが明らかになった。こうした結果を踏まえ,本研究報告は,在学中の早い段階から教職の魅力を伝えたり,実践的指導力の向上を意識した授業内容を設定したりすることなどの教職課程の改善や,卒業後もニーズに応じた研修を提供するなどの卒業生支援の拡充についての方策を提言している。
著者
佐々木 顕 BEN J Adams BEN J.Adams
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

デング熱は全世界の熱帯および亜熱帯地域で猛威をふるう昆虫媒介のウイルス性伝染病で、複数回感染するとデング出血熱(DHS)という致死率の高い症状に移行する。デングウイルスは4つの大きく異なる抗原サブタイプに分かれ、近年の人類集団の人口増加と移動性の上昇により、異なる抗原型が同一の地域で流行するようになった。これが宿主の複数回感染を可能にし,抗体特異的エンハンスメント(ADE)と呼ばれる特異な免疫応答現象(過去の感染によって出来た抗体が、2度目の感染で宿主に害をもたらす)によってデング出血熱が起こる。本研究課題では、数理モデルを開発することにより、交差免疫や交差増強がデングウイルスやその他の病原体の疫学動態と進化にどのような影響を与えるかを解明した。複数の抗原サブタイプと交差免疫,抗原依存的エンハンスメント、感染率の季節変動を考慮した疫学動態数理モデルの解析により、各サブタイプは、季節変動性に対する疫学動態の非線形共鳴によって、パラメータに応じて2〜数年おきに大流行する複数年周期の変動を示すこと、異なるサブタイプ流行の同期する条件を調べた。非同期振動は、交差免疫が弱いときに見られ、非同期アタラクタはパラメータに敏感に依存することを明らかにした。また何種類の抗原型が共存できるかについても理論的な解明を行った。これらの成果はMathematical Biosciences誌などに投稿中である。また、ペンシルバニア州立大学のEC Hohnesとの共同研究により、系統学的データを用いて、タイ・バンコクで蔓延するデングウイルスの複数の血清型が過去20年間の進化を解明し、デングウイルスの大きな進化的な変化は周期的に起きており、異なる血清型それぞれが約8〜10年周期で相関を持ちながら振動してきたこと、そして血清型のシフトが宿主の集団免疫による自然淘汰によるものであることを明らかにした。交差免疫あるいは交差増強を取り入れた複数血清型ウイルスの疫学動態数理モデルを開発することにより、このデングタイルス血清型の流行パターンを解析した。この研究成果はProceedings of the National Academy of Science, USAに掲載発表され、日本経済新聞等に記事が掲載された。
著者
佐々木 顕
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.73-77, 2006-04-25 (Released:2016-09-06)
参考文献数
15
被引用文献数
2

本特集をまとめるにあたり、軍拡競走の理論と検証の統合を目指す研究のモデルケースになると考えられる3つの例を論じることにする。第一の例は、本特集でとりあげたSasaki-Godfrayモデルのきっかけになったショウジョウバエ抵抗性と寄生蜂ビルレンスの軍拡競走に関する飼育実験、第二は本特集および第52回生態学会のシンポジウムを組織する理由となった東樹と曽田によるヤブツバキとツバキシギゾウムシの防御・攻撃形質の軍拡競走の野外研究と津田によるマメゾウムシの穿孔深度と寄生蜂の産卵管長の共進化に関する理論的研究、そして最後にバクテリアの抵抗性とその溶菌性フアージ病原性軍拡競走に関するBucklingの共培養進化実験についてである。
著者
佐々木 顕
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.53-62, 2006-04-25
被引用文献数
4

ショウジョウバエにはコマエバチ科の寄生蜂に対して、包囲作用による抵抗性を持つ系統がある。この抵抗性には遺伝的変異があり、抵抗性の低いショウジョウバエ系統を寄生蜂存在下で継代飼育すると、わずか数世代で抵抗性(寄生蜂卵に対する包囲作用で寄生を阻止する確率)は急上昇する。本稿ではこのような寄主抵抗性と捕食寄生者の毒性(ビルレンス)の共進化理論を紹介する。寄主と捕食寄生者の個体数変動はニコルソン・ベイリー型動態に従い、それぞれの集団は抵抗性の程度とビルレンスの程度の異なる多数の無性生殖クローンからなるとする。また抵抗性や毒性への投資にコストを仮定する。この共進化モデルから二つの重要な結果が導かれる。第一に、抵抗性のコストが毒性のコストと比較して大きいとき、捕食寄生者は有限の毒性を維持するのに、抵抗性に全く投資しな、寄主が進化する。このとき寄主にとって寄生のリスクよりも抵抗性のコストの方が重いのである。この結果に該当するかもしれない実例をいくつか報告する。第二の結論として、上記を除く広いパラメータ領域において、寄主の抵抗性と捕食寄生者の毒性の軍拡競走が起きることが分かった。抵抗性と毒性はお互いに進化的に上昇し、寄主の抵抗性がコストに耐えかねるほど大きくなり、ついに寄主が抵抗性を破棄する(抵抗性最小の寄主遺伝子型が侵入して置き換わる)まで続く。寄主の抵抗性放棄につづいて捕食寄生者の毒性も低下し、系は共進化サイクルの出発点に戻る。この共進化サイクルは報告されている抵抗性と毒性に関する高い相加遺伝分散の維持を説明するかもしれない。また、共進化サイクルによる寄生リスクの分散は個体群動態の安定性にも寄与する。