著者
豊原 哲彦 仲岡 雅裕 土田 英治
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.27-36, 2001-06-30

岩手県大槌湾の海草藻場において, 本州以南では初記録となるキタノカラマツガイの生活史と個体群動態について調査した。野外調査は1995年10月から1996年11月までおよそ一ヶ月または一ヶ月半おきに行われた。貝はアマモとタチアマモの各群落からかぶせ網で定量的に採集された。海草の葉上に付着する卵塊の観察により, キタノカラマツガイの卵塊は11∿22個の卵が入ったカプセル型であり, 卵はプランクトン幼生期を経ずに底生発生することが示唆された。キタノカラマツガイの繁殖期は初夏であり, 寿命は一年であった。新規加入により5月から6月にかけて個体群密度が急激に増加し, 夏期は比較的高い密度が保たれているが, 8月から10月にかけて著しく減少した。密度の増加はアマモとその付着藻類の豊富な時期と一致しており, また密度の減少はアマモと付着藻類の減少と一致していたことから, 生息場所や餌量が個体数の制限要因になっていることが推察された。特に密度の減少期には個体の成長が停滞していたため, 餌不足が個体数減少の重要な要因であると考えられる。タチアマモ上の個体群密度はアマモ上に比べ年間を通して低く, また新規加入がタチアマモではほとんど見られなかったことから, キタノカラマツガイは生息場所としてタチアマモよりもアマモの方を好むことが示唆された。生息場所の選択に関しては海草2種の群落構造の違いが影響を及ぼした可能性がある。例えば, 平面的な形態的特徴を持つ本種にとって, 一年を通して茎部が少なく平たい葉が優占するアマモの方が付着基質として優れていること, また笠貝は一般に移動力が小さいため, 株密度が低く間隙の多いタチアマモ群落よりもより連続的に分布するアマモ群落の方が生息に好条件であることなどが考えられる。

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