著者
杉浦 広隆
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.119, no.10, pp.600-610, 2005-10-10

【背景】MemCalc法により短時間の心拍RR間隔データからの心拍変動解析が可能となったが,その有用性に関する報告は限られている.抗コリン作用のあるdisopyramideは迷走神経活動が関与する心房細動に有用とされているが,心拍変動に与える影響は明らかではない.QT延長症候群の心室性不整脈発生には自律神経の関与が報告されており,QT延長症候群のtype3モデルでは迷走神経刺激中止後の心拍上昇時に心室性不整脈を認めるが,この時相での自律神経バランスの意義も明らかでない.【方法】実験1:開胸麻酔犬(n=8)を用いて,迷走神経刺激中,刺激中止後,及び交感神経刺激時の心拍変動を短時間の体表面心電図RR間隔データをもとにMemCalc法で計算し,disopyramide(1mg/kg)の影響を検討した.実験2:QT延長症候群type3モデルを作成し,迷走神経刺激中止後にみられる心拍変動期の不整脈発症と自律神経活動の関連を検討した.【結果】実験1:心拍変動での低周波成分パワー(LF:ms^2)及び高周波成分パワー(HF:ms^2)は,迷走神経刺激により中央値(25パーセンタイル-75パーセンタイル)で0.67(0.39-2.83)から35.1(5.04-114)(p<0.001),及び0.60(0.44-0.97)から28.4(4.04-63.2)(p<0.001)へ有意に増加した.一方,LF/HFは交感神経刺激により2.47(1.71-3.24)から10.5(7.99-24.6)へ有意に増加したが(p=0.036),迷走神経刺激では有意な変化を認めなかった.DisopyramideによりLF成分は0.48(0.37-1.37)から0.31(0.07-0.55)(p=0.036),HF成分は0.43(0.17-1.27)から0.10(0.06-0.41)(p=0.012)へ,それぞれ減少したがRR間隔とLF/HFは有意な変動を認めなかった.迷走神経刺激中止後の心拍変動期にLF/HFは1.17(0.58-2.28)から45.1(21.9-86.4)へ有意に増加した(p<0.001).実験2:迷走神経刺激中止後の心拍数の上昇期には,体表面心電図のT波交代現象が認められ,心室性不整脈が22%(2/9)で発症した.【結論】DisopyramideによりLF及びHFの減少が認められ,RR間隔に現れない抗コリン作用と考えられた.QT延長症候群type3モデルでは迷走神経刺激中止後にT波交代現象と心室性不整脈が発生するが,この時間帯ではLF/HFがコントロール状態よりも高値であり,本症候群の不整脈の発生背景に交感神経の活動性が関与している可能性がある.MemCalc法を用いた短時間心拍変動解析により,不整脈発生と自律神経活動に関する検討が可能であり,臨床応用が期待できる.

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