著者
若月 俊二
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.118, no.8, pp.389-392, 2004-08-10

泌尿器科におけるEndocrine Disrupting Chemicals (EDCs)の影響は精子数の低下,生殖器異常の増加,前立腺ガンの増加などがある.Skakkebaekらは一連の男性生殖機能障害をTesticular Dysgenesis Syndrome (TDS)と提唱した.TDSは胎生期の性成熟過程に何らかの環境要因が加わって攪乱が起こって生じた結果であり,特定の疾患や症状を指すではなく,広範囲に尿道下裂,停留精巣,男性不妊などを起こしうる.TDSは遺伝的要因あるいは環境要因あるいは両方の要因によって引き起こされる可能性がある.尿道下裂は日本を含む先進国では増加傾向で尿道下裂児にはステロイド代謝異常が高頻度に認められるという報告や農薬の影響でベジタリアンの母親からの児に尿道下裂多いと考えられている.停留精巣の頻度は満期産児では3%,1歳児では1%程度と比較的多いが,増加傾向は一定でない.尿道形成と同時期に精巣下降は起こるが,そこにはAndrogen関与がわかっており,何らかのホルモン作用の阻害が考えられている.北欧などでは精巣腫瘍は増加傾向である.前癌病変のCISは不妊精巣,停留精巣,アンドロゲン不応症,精巣腫瘍の対側精巣に見られ,胎生期のエストロゲン過剰がCISへの分化誘因になるという指摘もあり,EDCsとの関連が示唆される.前立腺がんは臨床癌,ラテント癌年次推移では増加傾向がある.農薬と前立腺がん発生率との相関関係も散見される.以上より,尿道下裂,停留精巣,精巣腫瘍の増加の報告,尿道形成・精巣下降に何らかのホルモンが作問した可能性は示唆されるが,今までのところ,EDCsがヒトの先天奇形を発生させたという証明する報告はなく,先天異常のサーベイランスでも問題がある.人類の精子数が42%も減少したというCarlsenの報告に対する反証は多く,また精液検査の難しさもあって結果は出ていない.以上より,今後は環境要因が関与していると思われる精巣腫瘍,尿道下裂,停留精巣,不妊症などを地球規模で永続的に疫学調査を行い,検証していかなければ,EDCsとの関連は不明である.
著者
伊沢 寛志
出版者
新潟医学会
雑誌
新潟医学会雑誌 = 新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.116, no.12, pp.606-618, 2002-12

A total of 371 suicide notes were collected in 868 suicide cases investigated by the Niigata prefectural police during one year of 1999. The ratio of suicide completers (297 cases) who left their notes was 34.2%. The suicides were classified according to sex, age, suicide manner, motivation, history of mental illness and previous attempts or threats of suicide. The detailed form was investigated and their message of the notes was examined using 14 key words including apology, pain of sickness, thanks, requests after death and unwilling part. The psychological status of the note can be understood as a combination of the key word. The result of key word classification showed that many factors are comprised in a motive of suicide. The police made a classification of suicide motive into 8 classification and limited it to one, but it was difficult to select a main motive to only one
著者
塩入 俊樹
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.120, no.1, pp.20-24, 2006-01-10

本稿では,シンポジウム「災害医療の実情と展望:新潟中越地震の経験から」の中で,新潟大学精神科(以下,当科)が行った「こころのケア対策」について述べる.地震発生の翌24日,当科の染矢教授と新潟県福祉健康部健康対策課とで協議が行われ,被災地での精神科医療の一元化を図るために「こころのケアチーム」を編成し,それによる統制のとれた支援を行うことが決定された.更に同日には,精神保健福祉センターに「こころのケアホットライン」を開設.翌25日,当科と県立精神医療センターを中心に「こころのケアチーム」が編成され,我々のチームは情報収集を行いつつ,26日に現地入りした.当科の「こころのケアチーム」の活動エリアは長岡市の山古志村避難所で,当初は小千谷市も担当した.活動内容としては,各避難所を巡回・診療と,広報活動である.また,人口の多い小千谷市では,精神医療センターと協力し"こころのケア診療所"を開設した.山古志村の各避難所においては,延べ193件(93名)の巡回診察を行い,継続治療が必要な方は全て紹介状を作成して地域の医療機関での通院をして頂いている.主訴としては,不眠が一番多く,余震に対する過度の不安,食欲不振,抑うつなどもみられた.12月に入ると,被災者の方々が徐々に仮設住宅に移られ,新たな生活が始まった.この時点で災害時精神科初期医療はほぼその目的を終え,今後は中長期的な「こころのケア」を考えていく必要がある.そこで,我々新潟大学精神科では,以下の4つのケアプランを立て,村民の皆さんの負担にならないよう十分配慮し,かつ健康対策課とも密に連携しながら実践する予定である.(1)20年間にわたる松之山での自殺予防研究の経験から,山古志村診療所の佐藤良司先生を中心にして,看護師さんや村担当保健師さんも含めた勉強会を定期的に行い,うつ病等の精神医学的知識を修得し,それによって早期発見,早期治療をめぎす.(2)GHQのような健康度調査票を適切な時期に繰り返し行い,high risk者のピックアップとその情報を現地のスタッフに活用し,早期治療に役立てる.(3)村民の方を対象としたうつ病等の精神疾患の啓蒙のための小セミナーの開催.(4)地域行政職員を対象とした講演会の開催.これからが心のケアの本番と考えています.どうぞ皆様方のご支援,ご協力を宜しくお願い申し上げます.
著者
山倉 智宏
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.118, no.1, pp.1-5, 2004-01-10

麻酔薬の作用標的として神経伝達物質依存性のイオンチャネルが重要であると考えられている.最近の研究により麻酔薬の作用部位がチャネルを構成するサブユニットあるいはサブユニット上のアミノ酸レベルで同定されてきた.さらに個体レベルで特定のサブユニット分子を欠失するノックアウトマウスや分子上のアミノ酸を置換変異したノックインマウスの作成・解析により,全身麻酔という個体反応と麻酔薬の分子レベルでの作用との間の直接の連関性を検索することが可能になりつつある.
著者
荒井 勝光 遠藤 直人
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.120, no.1, pp.2-6, 2006-01-10

2004年10月23日(土曜日)に発生した中越地震に対し,新潟大学整形外科は発生早期から対応に当たった.まず,医歯学総合病院の整形外科病棟入院患者の異常がないこと,医局員の安否に問題ないことを確認した.また当科の方針として,第一線で救急対応に当たる中越地区の整形外科医を応援することとした.一方で医歯学総合病院には活用できる対応マニュアルがないとのことから,当科単独で早急に情報を集めることとした.しかし,電話が通じない病院が多く,地震当日は,小千谷病院,長岡中央病院,立川病院と連絡が取れなかった.新潟県の福祉保健部とも相談したが,道路状況等不明な点が多く2次災害の危険性もあり,残念ながら当日は応援には行くことを断念した.翌日(10月24日,日曜日)は,中越地方の各病院だけでなく県庁の福祉保健部や病院局とも連絡を取り,被害状況だけでなく移動手段等の情報を集めた.公用車を提供していただき,計13名の整形外科医が,小千谷,十日町,長岡日赤,長岡中央,立川病院に応援に出かけ,第一線で救急対応に当たった.十日町病院には陸路では到達できず,最終的にはヘリコプターで移動した.中越地区の整形外科医は自らが被災者であるにもかかわらず,献身的な医療を行っており,そこに連絡を密にして人的な応援ができたことは,非常に有意義であったと感じている.発生後6日間にわたり,昼夜にわたり応援を行った.また当科の初期対応のノウハウ,各地域の情報を,院長ならびに医歯学総合病院へ提供することで,病院としての対応,各科の対応の一助となったものと確信している.
著者
島田 能史 松尾 仁之 小林 孝
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.118, no.1, pp.17-20, 2004-01-10
被引用文献数
5

症例は60歳女性.右乳癌の診断にて入院した.手術当日グリセリン浣腸施行中に強い疼痛を訴え,その後も強い肛門部痛と嘔吐が持続した.臀部は腫脹し,肛門内から少量の出血を認めた.直腸診で直腸粘膜の欠損を触知し,浣腸時の直腸穿孔およびグリセリン液の管腔外注入が考えられた.浣腸後から自尿は無く,約10時間後の導尿では少量の血尿が得られた.補液と強制利尿にも反応無く,翌日急性腎不全と診断し,血液透析を開始した.計3回の血液透析で,腎機能は利尿期を経て約2週間後に正常に回復した.臀部の発赤,腫脹も受傷10日目には自然に消失し,直腸周囲での膿瘍形成も無かった.本症例は高濃度のグリセリン液が血中に入ったことにより,赤血球の膜障害と溶血が起こり,急性腎不全を引き起こしたと考えられた.以前より高濃度のグリセリンが血中に入ると溶血を起こすことは広く知られている.グリセリンが溶血を起こす機序については,赤血球の膜障害による高度の溶血が原因として推測されている.溶血が起こると大量の遊離ヘモグロビンが発生し,尿細管上皮内に再吸収されヘムとグロビンに分解される.ヘムは細胞毒として作用するため腎不全が発生するとされている.腎不全発生を予防するためには,遊離ヘモグロビンの除去が重要とされる.遊離ヘモグロビンは大分子物質であるため,その除去には血漿交換が有効と考えられている.また,遊離ヘモグロビンと結合し肝臓に運び処理するハプトグロビン投与も有効とされている.グリセリン浣腸時に患者が疼痛や気分不快および強い疼痛等を訴えた場合には,浣腸による直腸粘膜の損傷や穿孔の可能性がある.さらに腸管外へのグリセリン液注入は溶血から急性腎不全を発症する場合もあり,注意深い観察と迅速な対応が必要である.
著者
黄 孔良
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.117, no.12, pp.744-750, 2003-12-10

黙読には,視覚的に呈示された情報を音情報に変換し,音声言語と融合する過程が含まれる.本研究の目的は,黙読時に行われる音韻変換の脳内過程を,意味判断などの他のプロセスをなるべく介在させない状態で,事象関連電位と反応時間の計測により明らかにすることである.読めないハングル文字を注意して見る課題をコントロール課題とし,意味を持たない平仮名3文字を黙読する黙読課題を行って,事象関連電位を記録した.反応時間の計測は事象関連電位と別のブロックで行い,1文字目と3文字目を黙読する時点を,それぞれ,黙読開始時刻の指標となるRT1と黙読終了時刻の指標となるRT2として計測した.この結果,RT1が673±169msで,RT2が1376±238msであった.事象関連電位の結果では,黙読課題で頂点潜時を約590msとする持続的な陰性電位が,後側頭部から後頭部にかけて左半球優位に観測された.この陰性電位はコントロール課題では観測されず,また,反応時間から推測された黙読の時間帯にほぼ一致して観測されたことから,黙読時の音韻変換過程に関連した脳活動を反映したものと推定した.
著者
松原 要一
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.25-29, 2008-01

医療崩壊が地方の病院で進んでいる.これは医師不足により医師確保が困難で,かつ勤務医が過重労働で病院を辞め,残った医師に負担が増えて更に医師が辞める悪循環による.なかなか改善されない医療制度の欠陥と医療費抑制政策など医療行政に大きな問題があるが,その抜本的な改善・改革は今後も当分の間期待できない.医療崩壊が大きな社会問題となって国民の医療に対する意識が変わらない限り難しいであろう.それまでは,それぞれの地域と病院でできることを積み重ねるしか方法はない.与えられた条件の中で姑息的ではあるがやるべきことは少なからずあり,早急に実行すべきである.医師の確保は容易でないが,勤務している医師が過重労働で病院を辞めないで長く勤務できるように先ず働きやすい環境を整備することであろう.例えば統合医療情報システムによるチーム医療の推進,業務の見直し,業務の外部委託,そして地域医療機関の役割・機能分担による医療連携の推進である.これらに対する当院の取り組みを紹介する.
著者
鈴木 宏 Suzuki Hiroshi
出版者
新潟医学会
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.124, no.4, pp.181-186, 2010-04

10年前からパンデミック発生が危惧されてきたが, 2009年春に豚インフルエンザH1N1からのパンデミックとなった. 発生後既に1年を経過しようとしているが, 今回の流行は, これまでの想定とはまったく異なり, 多くの点でシナリオの変更を余儀なくされる程の混乱を招いた. 今回の混乱を来たした最大の点は, パンデミック対策の基本とすべき罹患率と致死率などのよる重症度分類が今でも提示されないことにある. 今回のパンデミックは, 季節性インフルエンザの規模と近いくらいであり, 対応としてやり過ぎの面はあるが, 第二波や将来の次のパンデミックに備える一つの試練ととらえ, 各部署での今回の総括を早期に行うべきと思われる.
著者
上原 沙織 石黒 宏美 初谷 周子 大橋 恵美 尾山 真理 土屋 康雄 中村 和利 Uehara Saori Ishiguro Hiromi Hatsugai Shuko Ohashi Emi Oyama Mari Tsuchiya Yasuo Nakamura Kazutoshi
出版者
新潟医学会
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.123, no.6, pp.311-317, 2009-06

紫外線は, 様々な皮膚症状や眼症状, 免疫機能低下などの健康影響を引き起こすことが示されている. これらの健康影響を防止するためには, 紫外線環境を正しく把握する必要がある. そこで, 2008年10月22日, ハワイ, ワイキキビーチにおいて, 日照地点と目陰地点の紫外線強度の日内変動, 及び各種商品による紫外線カット率を調べた. 日照地点の直射方向, 水平方向, 日陰地点の垂直方向, 水平方向, 地面方向からの紫外線は12時に最高値を示し, 日照地点の垂直方向, 地面方向は15時に最高値を示した. すべての方向で山型のグラフを示すことが明らかとなった. 各種商品の紫外線カット率は, 縁Tシャツ, 日傘, 日焼け止めクリーム, 雨傘はほぼ90%を示したが, 白Tシャツは68%程度であることが示された. 日照地点では9時から15時の間はUV indexが3以上を示したことから, 日焼け止めクリーム, 濃い色のTシャツ, 日傘, 雨傘などの有効な紫外線対策が必要であると考えられた. 今後, 紫外線の影響を防止する観点から, 日焼け止めクリームの紫外線カット率の経時変化などについて焦点を当てて調査する必要があると考える.