- 著者
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矢吹 万寿
- 出版者
- 大阪府立大学
- 雑誌
- Bulletin of the University of Osaka Prefecture. Ser. B, Agriculture and biology (ISSN:03663353)
- 巻号頁・発行日
- vol.7, pp.113-146, 1958-02-15
水稲栽培において水田水温は重要な生産能となつているが,寒地では灌漑水温の上昇が,暖地ではその低下の必要が強調せられている.この人為的な水温制禦の確立は水温成立機構の解明によつてなしとげられるものと言えよう.本論文は斯る見地から最も基礎的研究として主に水稲の植つていない湛水田について行つた実験的研究であつて,2篇よりなり,第1篇は湛水田水温につき,第2篇は漏水田水温について述べられた.I.湛水田水温1.湛水田における太陽エネルギーの使途配分を明らかにし,その熱経済図を描いた.(第2表,第1図)2.(1)と同様な方法により水稲田の水稲繁茂期の熱経済を調べた.(第4表,第2図)3.湛水田の熱経済方程式より簡単な水温成立の理論式を導いた(33式).それによると平均水温は湛水深に応じて高く,振巾は湛水深に逆比例し,且日変化の位相は湛水深が深くなるにつれてずれる.この事は最低水温は湛水深が大きい程高温を示すが,最高水温は湛水深が浅いほど高温を示すとは限らず,湛水深が大なる方が高温を示す場合もあることを意味する.4.湛水深と水温とについて一年間の観測の結果は興味ある上述の結論が確められた.(第7,8,9図第7表)5.水底面の吸収能と湛水深とより水田の吸収率を計算し(第13図),水田熱吸収率を異にした場合の水温を測定した.水温は勿論水田熱吸収率に応じて異るが,現実の土壌吸収能の差は小さく水温の差は少い.(第14図)6.最高水温と最高気温との間には明瞭な関係があり,年間を通じて整理すると両者の間にはループをなしたグラフが得られた.(第15,16,17図)7.最低水温と最低気温との間には直線的な関係があるが,気温が0℃以下になり,水面が氷で覆れると水温は殆んど一定となる.(第18,19,20図)II漏水田水温8.水が地中に滲透することにより地中に熱量を輸送するため,見掛け上の温度伝導率が増大するが,特に設計された水田にて温度伝導率を測定し,理論値と実験値が可なりよく一致する事が確められた.(第22,23図第8表)9.見掛け上の温度伝導率を測定することにより,自然状態の水田土壌の比熱或は密度の計算が可能であり,これを求めた.10.水が滲透するからこれに応じて水を補給しなければならないが,補給方式に間断灌漑と連続灌漑とがある.間断灌漑は急激な水田水温の変化を与えるが,灌漑後の水温は灌漑水温並に水量だけでなく,気象条件を考慮した熱経済の面から決定されうるものである(61,63式第10表 25,26図)11.間断灌漑後の水温が灌漑しない等しい湛水深の区の水温と等しくなるのは,早朝に灌漑したものほど早く,午後に行つたものは回復がおそい.(第28,29図)12.間断灌漑は時間の経過に伴い灌漑の影響は少くなるが,連続灌漑は水温分布特性が常に維持せられる処に両者の本質的特徴の差がある.13.連続灌漑の影響は昼間よりも夜間の水温に顕著である.又灌漑水温,灌漑水量及び水田水温との関係を実験的に求め,関係図を作製した.(第31,32,33,34,及び35図参照)