- 著者
-
坂木 佳壽美
- 出版者
- 日本体力医学会
- 雑誌
- 体力科学 = JAPANESE JOURNAL OF PHYSICAL FITNESS AND SPORTS MEDICINE (ISSN:0039906X)
- 巻号頁・発行日
- vol.55, no.5, pp.477-488, 2006-10-01
- 参考文献数
- 33
- 被引用文献数
-
1
本研究では,安静坐位におけるリンパ球比率の平均値37.1(±6.9)%を基準に,平均値未満を顆粒球群(GG),平均値以上をリンパ球群(LG)の2群に分別し,侵襲的なリンパ球の比率と非侵襲的な心拍変動から求める自律神経機能評価指標(%RR50)が対応しているか否かを検討する.次にヨーガ呼吸(完全呼吸)を2群に課し,各群の血液・心拍の動態変化とヨーガ呼吸の有効性に違いが有るか否かを神経・内分泌・免疫三系の相互関係から明らかにする事を目的とした.本研究の対象は健常女性10名(ヨーガ歴5年以上のヨーガクラブ部員),年齢は51.2±8.7歳であった.測定は坐位にて安静15分,ヨーガ呼吸15分,回復30分の計60分間を連続して行ない,経時的に計8回測定した.採血は各ステージ終了直後の計3回行なった(20ml/回).測定項目は%RR50,心拍数,血圧と呼吸数,血液検査では血球算定,白血球分類,血漿CAとcortisol濃度,血清中総蛋白質とIgAを分析し,以下のような結果を得た.1.リンパ球比率により群別したGGとLGは,安静時の%RR50においても両群間にP<0.05の有意差が認められ,GGは交感神経活動亢進傾向群,LGは副交感神経活動亢進傾向群と分別された.また次の各測定項目(血小板,Hb, Hct,リンパ球,好中球,好酸球,単球,Adr, cortisol, IgA,血圧,平均血圧,PRP,呼吸数)では,全体的に両群間に有意差(P<0.01またはP<0.05)が認められ,侵襲的,非侵襲的な自律神経機能評価の両方法は対応していることが判明した.従って,非侵襲的な心拍変動による指標(%RR50)から個体の特徴を把握する事は可能であることが示唆された.2.群別したGGとLGの特徴とヨーガ呼吸の有効性を以下に示す.1)GGは個体差が大きく,変動も大きい.安静時におけるAdr, Nad, cortisolと血圧の高値,IgAと%RR50の低値が示すように,平常時も交感神経活動は緊張状態を示している.しかし,ヨーガ呼吸後の回復時には副交感神経活動は亢進状態を示したことから,神経・内分泌・免疫系活動に影響を与えていると言えよう.2)LGの変動は緩徐で小さく,安静時においてAdr, Nad, cortisol,血圧と呼吸数は低く,IgAと%RR50は高い値を示し,平常時も副交感神経活動が亢進状態にあり,ヨーガ呼吸後の回復時には更に神経・内分泌・免疫系活動が増強されていた.以上の結果から,自律神経機能評価指標の%RR50(非侵襲的)とリンパ球比率(侵襲的)は対応している事が判明し,非侵襲的な心拍変動による指標(%RR50)から個体の特徴を把握する事は可能であることが示唆された.次にヨーガ呼吸により副交感神経活動を亢進状態に導ける事が,神経・内分泌・免疫系三者間の関係から認められ,その有効性は交感神経緊張傾向のGGに顕著にみられ,ユックリ深い呼吸が生体に与える効果が実証された.従って,ヨーガ呼吸は日常生活の中で簡単にできるストレス・マネジメントの一方法である.更に本研究の測定を通して神経・内分泌・免疫系三者間の相互関係から,顆粒球・リンパ球の分布状態は免疫系だけでなく,心身のストレス状態や身体状態を示していると推察された.