- 著者
-
吉村 弘
- 出版者
- 山口大学
- 雑誌
- 山口經濟學雜誌 (ISSN:05131758)
- 巻号頁・発行日
- vol.46, no.4, pp.419-444, 1998-07-31
本稿は,平成6年度のデータにもとづいて,全国市区の人口規模と諸歳出費目との間の信頼できる関係を導出し,それによって,現代日本の実態に即して,最適都市規模を推計し,さらに,市町村合併の効果を推計しようとするものである。その主要な結果は次の通りである。(1)対数表示の「人口当たり歳出」は,対数表示の「都市規模(人口規模)」の「下に凸の2次関数」として極めてよく(有意水準0.01で有意な関係として)説明される。(2)歳出からみた最適都市規模は人口20万人程度であり,それより小さい都市規模については規模の経済が働き,それより大きな都市については規模の不経済が作用する。(3)人口当たり歳出総額は,人口規模とともにはじめ急激に減少し,人口20万人程度で最低点に到達し,その後緩やかに増加する。したがって,歳出総額からみるとき,人口規模が20万人より小さな行政区域,とりわけ人口10万人以下の行政区域の合併は,その効果が極めて大きい。(4)「広域市町村圏」に属する全国の2929の市町村が広域市町村圏毎に合併して,341の市を構成したときの歳出節減効果は1年間に約3兆7100億円で,これは,同圏域の平成6年度歳出総額の約12.9%に相当する。この節減額は,高速道路建設費に換算すると約740キロメートル(東京・岡山県新見間)に相当し,また,新幹線に換算すると620キロメートル(東京・西明石間)に相当する。(5)行政サービスの便益を考慮すると,さらに次のことが分かる。・限界歳出曲線の最低点より大きな都市規模については,人口規模の増大につれて限界歳出総額が緩やかに上昇するので,行政サービスの限界便益の変化に対して,最適都市規模は敏感に反応する。・行政サービスの公共財的性質が強くなるほど,最適都市規模は大きくなる。