著者
菱田 信彦
出版者
川村学園女子大学
雑誌
川村学園女子大学研究紀要 (ISSN:09186050)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.159-175, 2006-03-15

イギリス人の子ども観は,ピューリタン主義の影響を受け,子どもをなるべく大人の世界に触れさせないことをよしとするものだった。17世紀ごろまでには,子どもは社会規範を身につけるまでは世の中に出さず,家庭や学校で教育するのがよいとする考え方が一般的になり,その一方で,子どもの世界を実社会の規範や価値観に束縛されない「別世界」としてイメージ化する傾向が生じた。このような子ども観はイギリス児童文学の発展に大きく影響し,とくに19世紀後半から20世紀初頭にかけての児童文学作品においては,子どものイメージをどのように扱うかについて作者がさまざまに模索した様子が見てとれる。ある作品では子どもは社会秩序を混乱させかねない要素として危険視され,また他の作品では,子どもの世界が理想化され,日常を離れてその世界に遊ぶことへのあこがれが描かれた。イギリスにおいてこれほど豊かな児童文学の伝統が花開いたのは,イギリス社会におけるこの大人と子どもの間の独特の緊張関係によるところが大きいだろう。

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