著者
小長谷 大介
出版者
龍谷大学
雑誌
龍谷紀要 (ISSN:02890917)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.1-16, 2006-01-31
被引用文献数
1

19-20世紀転換期における科学的諸成果は、当時の社会的状況を背景としながら、理論・実験両者からの地道なアプローチによってもたらされたのである。エネルギー量子発見に絡む熱輻射研究もその例外ではないが、従来の熱輻射研究に関する科学史研究は、「量子論の起原」を探ることを主な目的として理論的文脈に偏る傾向をもっていた。そのためか、熱輻射研究史において、理論的成果と動的に結びつかないように映る実験家の研究内容は、陰の部分に属しがちであった。だが、改めて当時の実験科学的文脈を見直すならば、実験家の仕事の異なる側面が見えてくるのである。ここでは、実験科学者フリードリヒ・パッシェンの熱輻射研究に対して諸評価があるなかで、天野清のパッシェン評を取り上げて、それに対する十分な考察とパッシェン評の再考を行った。その結果、天野によるパッシェン評の3点、空洞による熱輻射の理解不足、ヴィーン法則の「常数」αに関する「不正確な」認識、固体熱輻射源への「重要な材料」の提供というのはいずれも相応な評価と判断できた。また、当時の熱輻射研究の文脈を詳察するならば、さらに異なるパッシェン評を加える必要があった。新たなパッシェン評は、彼が1890年代後半の固体ないし固体-空洞折衷型の熱輻射実験から得た成果についてである。ルンマーらの空洞熱輻射源の実験には長い開発期間が必要だった一方、パッシェンの固体熱輻射源を利用・応用する実験は、当時としては最先端の測定データを短い時間で提供できるものだった。1899年までの熱輻射研究において、パッシェンのデータは大きな存在感をもち、それは当該分野の他の実験家、理論家にとっても重要な価値をもっていた。

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