著者
松倉 文比古
出版者
龍谷大学
雑誌
龍谷紀要 (ISSN:02890917)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.A1-A27, 2006-01-31

『日本書紀』巻第一一は、所謂「民の竃の賑わい」の説話に代表されるように、崇神・垂仁と並んで徳治を実践した天皇として仁徳(大鷦鷯)天皇を描出している。菟道稚郎子との皇位互譲を通じて、その即位に至る経緯を述べる即位前紀は、とりわけその特徴が顕著である。また、元年条以下に於いては「一に曰く」・「一書に曰く」等の異伝を僅かに一条みるのみで、他の諸天皇紀と比して極めて整然とした印象を強く受ける。そのような特徴を持った仁徳天皇紀に於いて、皇位互譲を主たるテーマとする即位前紀を中心に、それに連関すると考えられる元年紀以下の后妃(磐之媛・八田皇女)・氷室起源・易名・鷹甘部設置伝承等を採り上げ、仁徳紀の構成上の特色を検討した。その結果、仁徳紀の構成上の編纂意図の一つとして、徳治を実践する天皇の支配領域が奈辺にあるのかを明示することにあったことを指摘した。それは、崇神・垂仁がそうであったように、令制下に於ける理想的天皇像を語る意図に基づくに他ならない。また、前後の天皇に比して特殊であると指摘される、即ち、日本国内に自生する最小の鳥であると考えられるミソサザイを意味する鷦鷯(さざき)を和風諡号とする理由を、その天皇の支配領域に関連することも指摘した。と同時に、仁徳記・紀を通じてその実在性を含め、仁徳朝としての歴史的事実を導き出すことが、困難であることも併せて指摘した。

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