- 著者
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飛田 利雄
- 出版者
- 一般社団法人日本エネルギー学会
- 雑誌
- 日本エネルギー学会誌 (ISSN:09168753)
- 巻号頁・発行日
- vol.84, no.8, pp.594-599, 2005-08-20
2002年に始まった景気回復局面は,2004年夏場から年末にかけて調整局面に入った。日本では自然災害が多発したこともあり,成長率を押し下げ,2004年の第1四半期には実質GDP成長率は前期比1.4%の伸びを示していたものの第2四半期以降はマイナス成長に転じ,第4四半期も輸出は低位にとどまるとともに輸入の伸びが高止まりを示し成長率はマイナス0.1%となった結果,3四半期連続のマイナス成長を示した。一方,世界経済においても2004年後半以降は成長のテンポは鈍化しており,米国においても減税効果が薄れたこと,原油価格の上昇,輸出の伸び悩みを背景に2003年後半以降の成長率は低下した。欧州においてもインフレの上昇から個人消費の伸び悩み,ユーロ高に伴う輸出の鈍化により成長率は低下している。なお,中国に関しては2004年の実質GDP成長率は2003年のプラス9.3%を上回るプラス9.5%に達したが,急速な供給能力の拡大に伴い,製品在庫の上昇が顕現してきていること,主要輸出先の国々の経済が減速していることから,中国の景気拡大のペースの先行きは鈍化していくことが予想されている。このような状況の中,石油化学産業では,2004年は中国等への輸出増加と国内景気の回復を受け,堅調な生産が行われ,基礎製品であるエチレンの生産も前年比3%増の757万tとなり,1999年,2000年に継ぎ750万tを上回った。一方,欧米の巨大企業はこれまでに大規模なアライアンス,事業再編を通じて経営資源の集中を図り,得意分野でのスケールメリットを活かしながら,需要が見込まれる中国等のアジア地域への進出を着実に進めてきた。中国では外資導入によるエチレンプラント建設計画として,独BASF/揚子石化(エチレン60万t/年),英BP/上海石化(エチレン90万t/年),蘭Shell/CNOCC(エチレン80万t/年)等があり,2005年以降順次,その稼動が予定されている。順調にこれらの計画が進んだ場合2006年のエチレン生産能力は日本のエチレン生産能力を上回る見通しにある。また,中東地域においても大幅な生産設備の増設が2005年〜2009年にかけて計画されており,世界的にもエチレンをはじめとする石油化学製品の生産設備の増加が更に進みつつある。わが国の石油化学企業は,これまで経営資源の選択と集中を図るため特に誘導品において事業統合・アライアンスを進展させると同時に生産設備のスクラップビルトを行い競争力の確保を目指してきた。1994年の三菱油化と三菱化成の合併による三菱化学の誕生以後,1997年の三井石油化学と三井東圧化学の合併,その後も従来の総合化学企業体利から脱却した事業交換,生産面での提携が行われてきている。汎用樹脂の分野においてもポリオレフィン事業では三井化学,住友化学の合弁事業は解消されたが,グループの垣根を越え三菱系の日本ポリケムと昭和電工,新日本石油化学系の日本ポリオレフィンのポリエチレン事業の統合,また,日本ポリケムとチッソのポリプロピレン事業等の大型統合が行われてきた。また,2004年に入り出光興産が100%子会社である出光石油化学の吸収合併を行うとともに,2005年春には三井化学と出光興産の包括的な提携の一環としてポリオレフィン事業の統合新会社が設立予定である(表1参照)。しかしながら2004年においては2003年に引き続き原油価格の高騰に伴う原料ナフサ価格の高騰が一層に顕著となり,原料価格が製品価格に占めるウェイトが約6割を占める石油化学産業にとっては,原料の安定かつ,低廉確保が以前にまして重要な課題となるとともにコスト上昇に対してより一層の合理化努力を迫られることになった。