著者
伊藤 康一郎
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
no.31, pp.74-85, 2006-10-18

リスク社会化と厳罰化という,本来,矛盾する二つの動向が同時に進行する事態が,現在,状況的に先行する英米のみならず,日本においてもまた,出現している.この矛盾する動向の交差は,いかなる理由により生じているのか,また,その交差は,現代社会の犯罪統制を,いかなる方向に変化させようとしているのか.本稿においては,この解明のために,まず,(1)リスク社会化と厳罰化の交差における矛盾を摘示し,(2)両者の交差において,特に厳罰化の理由としてあげられる「ポピュリズム」の出現と,対抗する「プロフェッショナリズム」の関係を位置付け,(3)その交差の根底にある,法的な統制,規律的な統制,保険数理的な統制という犯罪統制の三種の型の,現時点における競合と接合の複層的な展開を解析し,(4)結果として,そこに生みだされる可能性としての,排除社会の到来に対して,いかなる手立てを取りうるのかを検討する.その解明においては,以上の論点をめぐる,英米の犯罪学の先行的な論議を整理し,実践への方向を見いだしてゆくことが中心となるが,その作業を通し,今後,日本においても可能性として生じうる,排除社会の到来に抵抗する,論議の素材を提供したい.

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