- 著者
-
平川 祐弘
- 出版者
- 大手前大学・大手前短期大学
- 雑誌
- 大手前大学人文科学部論集 (ISSN:13462105)
- 巻号頁・発行日
- vol.6, pp.163-183, 2005
ハーンの『因果話』は松林伯円の『百物語』を基に英語で再話した怪談だが、嫉妬した女の手が、死後も相手にくっついたまま離れないという恐ろしい話である。ハーンは原作者と違って平和な風景の中で話を始めることで怪談の効果的な結びをきわだたせた。アイルランドの怪談作家ルファニュもThe Handという作品で白い手という身体の一部分の神出鬼没を描いたが、その手が出没する動機が説明されておらず、そこに読者の側の不満が残る。読者は怪談の中でも合理性のある話の筋を求めているからである。超自然的な現象であろうともハーンの『因果話』には女の嫉妬という動機があった。同様にモーパッサンのLa Mainにも復讐という動機が超自然的な、切断され、鎖に繋がれた手による相手の殺害を説明している。モーパッサンの『手』を読むと、その中に用いられた蜘蛛のイメージをハーンが『百物語』を再話する際にも用いたことが知られる。ちなみにハーンはモーパッサンの『手』の英訳者でもある。