- 著者
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山中 信彦
- 出版者
- 埼玉大学
- 雑誌
- 埼玉大学紀要. 教養学部 (ISSN:1349824X)
- 巻号頁・発行日
- vol.41, no.2, pp.165-226, 2006-03-31
朝日新聞記事コーパスに基づいて「強姦」及びその言い換えの用法を分析した。まず、1999年の「強姦」を含む記事133件と「レイプ」を含む記事92件を比較し、「強姦」は「レイプ」に比べ、記事レベルでは(1)外国を舞台にしたものが少ない(2)記事類型が報道に偏っている(3)個別犯罪事件をテーマにしたものが多いこと、用例レベルでは(1)見出しに含まれる率が高い(2)自立度の低い統語形式で使われる傾向が強い(3)受動形で使われる率が低いことを見出した。次に、「強姦」の用法の経年変化を調べるため、1999年のデータと2004年の3か月分の記事123件を比較した。2004年は1999年に比べ記事件数が倍増し、記事あたりの用例数が三割増えている。「強姦」が地の文の中で使われる割合は2004年の方が多いが、これは特にサ変動詞において顕著である。これらの事実は、現在「強姦」がより大胆に使われつつあることを示唆する。最後に、「乱暴」「暴行」が性暴力の意味で使われているかどうかをいかにして判断しうるのか、という問題を考察するため、1989年の「乱暴」「暴行」両方を含む98件の記事を調べ、性暴力の場合にはそれらしい状況の記述や常套語句、そうでない場合には当事者たちの性別や暴行の様態の記述、などの文脈情報によって、ごく稀な事例を除いて一義的に解釈できることを見出した。