著者
細川 友秀
出版者
京都教育大学
雑誌
京都教育大学環境教育研究年報 (ISSN:09193766)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.85-95, 2000-03-31
被引用文献数
1

大学の主要な役割は学生教育と各専門分野の研究である。しかし,現在の社会では,これらに加えて地域社会に向けて開かれた大学としての役割が求められ,社会人向けの公開講座の開講や児童・生徒向けの野外講座・科学講座の開講,インターネットによるさまざまな情報発信など多くの企画がなされている。我々の研究室でもこのような要求に応えるため,1997年の大学祭(藤陵祭)で研究室の4回生の卒業研究の一部を展示する企画を実行した。この企画の目的は次の3つであった。すなわち,1)主に地域の小中学生対象に,4回生の卒業研究の一部を平易にプレゼンテーションすることで地域社会へのはたらきかけとする,2)この企画を通じて卒業研究生が専門分野の研究内容を理解し,その内容について一般向けのプレゼンテーションと教材化のトレーニングをする,3)大学祭(藤陵祭)を教育大学としての特色あるアカデミックな地域社会との交流の機会として利用しつつ,大学祭への各研究室からの参加を促し,学問的な企画を増して大学祭を充実させる,の3つであった。この卒業研究の展示会場には,地域の小学生とその親を中心として200人以上が来場した。来場者のアンケートの回答のなかには,この企画を積極的に評価する意見が見られ,また,会場での会話の中で,もっとこのような企画を行ってほしいとの要望などもいくつか出された。展示を準備する4回生には,研究の動機,背景,実験結果を分かりやすく説明するように指示した。テーマによっては,現代の文明社会に生活する我々の生活環境と健康との関係に注意を向け,4回生自身への環境教育と小中学生への環境教育につながるように意図して展示の準備をするように簡単に指示した。しかし,多くは4回生の自主性と創意工夫によって,しっかりとしたプレゼンテーションが準備されて実行された。これらのことから,1997年の藤陵祭における展示は上記3つの目的をほぼ達成して成功であった。1997年の結果と反省をふまえて,1998年もその年度の4回生の卒業研究を紹介する展示を藤陵祭で行った。上記3つの目的に加えて,この企画を毎年継続することによって企画の効果の浸透・定着をめざした。1998年の卒業研究のテーマは,「様々な運動がマウスの免疫機能に及ぼす影響」,「緑茶成分の消化管免疫系の機能に及ぼす影響に関する研究」,「残留農薬による免疫系への影響に関する研究」,「内分泌撹乱化学物質の母胎への作用が胎仔の免疫系形成に及ぼす影響」,「ノルアドレナリンによるマウスのマクロファージの機能の制御に関する研究」,「オーラルトレランスの誘導に及ぼすエンドトキシンの影響に関する研究」であり,これらを融合した内容で研究室の院生も加わって,研究の動機,背景,実験結果などを紹介する展示を準備した。特に,免疫系の構成と機能の基本的な内容の説明,アレルギー反応の仕組みと原因の平易な説明,運動とストレスや緑茶の飲用を具体例とした生活習慣と免疫機能の関係についての解説,を展示の柱とした。さらに,残留農薬や内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)が身近な生活環境にあり我々が無意識のうちに摂取する可能性,それらが免疫系の形成過程と免疫機能に影響を及ぼす可能性について分かりやすい説明を準備するように卒業研究生に求めた。展示の準備と実施に際して,これらの課題を達成することで1997年度につづいて卒業研究生自身の環境意識を高め,小中学生の環境教育につながるように意図した。この企画には前年と同様に,地域の小中学生とその親を中心として多数の参加を得ることができた。参加者には簡単なアンケートに答えてもらい,展示の感想,評価,研究室への要望を聞いた。前年同様,親の回答の中にこの企画を積極的に評価する意見がいくつかあり,「この企画を毎年続けてほしい」,「来年も子供を連れてくる」,「来年は子供も連れてくる」などのコメントが見られた。しかし,小中学生の回答は,2,3人を除いてしっかり書いたものがほとんどなく,大学の卒業研究を地域の小中学生向けにやさしくプレゼンテーションするという目的がどの程度達成されたか評価することが困難であった。そのため,アンケートの内容を工夫し記入の説明の仕方をていねいにする必要があることがわかった。全体的には,卒業研究生の自主性と創意工夫によってしっかりプレゼンテーションが準備されて実行されたので,他の2つの目的については達成されたと評価できる。今後の課題としては,小学生,中学生,高校生,社会人のそれぞれに照準を合わせた展示をしっかり準備して,第一の目的を達成することである。また,このような活動の継続により,少しでも生徒の「理科離れ」を改善するのに役立つならば幸いである。

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