著者
魏 聰哲
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究学会年報 (ISSN:13480464)
巻号頁・発行日
no.12, pp.353-366, 2006-09-30

1980年代後半以来、パソコン業界ではM-O型(Modular/Open)アーキテクチャーの設計概念が幅広く採用されるようになり、アセンブリーでの付加価値が最も低くなるというスマイルカーブ現象が生じるようになった。この現象に対処するために、ブランドメーカーではバリューチェーンを見直し、研究開発やマーケティングなど付加価値の高い領域に経営資源をシフトさせて、付加価値の低いアセンブリーをEMS/ODMメーカーに委託するという「選択と集中」がしばしば採られている。しかし、パソコン・メーカーの戦略行動を見ると、このようなポジションニングが必ずしもうまくいくとは限らないようである。本稿では、このような製品技術環境の変化に伴う「選択と集中」の戦略パターンとその展開のメカニズムをコア・コンピタンスの形成・進化に関連付けて検討する。そこで、東芝、デル、エイサーおよびASUSなどパソコンのブランドメーカーを対象にケーススタディーを行った。その結果は、ブランドメーカーの「選択と集中」の戦略行動はスマイルカーブの川上や川下の高付加価値分野へ一方的に収束するのではなく、付加価値の低い川中の組立工程にとどまって、高い製品付加価値を創造しようとする動きもあることが判明した。これは「高付加価値製品への選択と集中」戦略によるものである。スマイルカーブ上でそれぞれの戦略行動が成功に展開できるのは、その背後を支えるコア・コンピタンスの特異性によると考えられる。スマイルカーブ上の高付加価値領域への選択と集中をとる場合、デルやエイサーのように、EMS/ODMメーカーの川中での低コスト組立能力を活用しながら、自社の戦略領域を川上の開発設計や川下のマーケティングに集中し、そこでのコンピタンス形成をすることになる。他方、東芝やASUSのように、高付加価値製品の選択と集中をめざす場合、スマイルカーブとは無関係に、開発から生産、販売までの全てのプロセスで、自社独自のコア・コンピタンスを形成し、それを統合化することになる。パソコン・メーカーの戦略はコア・コンピタンスを川上から川下のどこでどのように形成、それを展開するのかということと密接に関連している。

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こんな論文どうですか? コア・コンピタンスと「選択と集中」戦略の展開 : 世界ノートパソコン・メーカーのケース(魏 聰哲),2006 https://t.co/CbSwRymUVP
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