著者
岸本 千佳司
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.27-43, 2016 (Released:2016-11-01)
参考文献数
27
被引用文献数
1

台湾は、1990 年代以降、半導体産業における「設計と製造の分業」のトレンドに逸早く乗じ、専業ファウンドリ (ウェハプロセスの受託製造業) という新たなビジネスモデルを打ち出し台頭していった。他方、日本半導体産業の衰退は「分業を嫌い続けた」ことが大きな原因と指摘されている。これは、ファウンドリの IDM に対するビジネスモデル上の勝利と見做されている。ところで、ファウンドリ業界の近年の特徴として、最先端プロセス開発とそれを踏まえた生産ライン構築の資金的・技術的難易度が上昇し、それを背景に業績格差、とりわけ業界 Top の TSMC と 2 位以下のメーカーとの格差が広がっていることがある。既存研究では、ファウンドリ業界内でのこうした格差については十分検討されていない。そこで本研究は、TSMC および同社と同じく台湾企業であり業界 No.2 でもある UMC の比較分析を通して、その点に光を当てる。具体的には、両社の収益性と生産能力、プロセス技術開発に関する数値データと関連資料を分析し、格差の実態とこれら要素間の関連性を検討する。これは同業界での成功要因を明らかにすることにも繋がる。その結果、生産能力増強と先端プロセス開発での競争でライバルに先んじることで顧客の支持と市場シェアを獲得し、そこから収益確保 (と株価上昇) へ、そして次世代の研究開発・設備投資へと繋がる成長の「正の循環」の存在を見出す。これが格差拡大の基本的背景でもある。さらに、格差を一層加速する半導体製造業界特有の事情として、①ムーアの法則 (微細化によるチップの性能向上と製造コスト低減が長期間にわたって幾何級数的に続き、それによって半導体メーカーの利益を確保しながら半導体ユーザーのニーズに応えられる環境) を背景とする不断の先端プロセス開発競争と近年その微細化が物理的限界に近づいたことによる技術的・資金的難易度の一層の上昇、および② Top ファウンドリ (TSMC) のプロセス技術が業界標準化し、同社を中心に半導体設計・製造のエコシステムが発展しているという状況を指摘する。
著者
楊 英賢
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.131-148, 2015

本研究では、台湾の自転車産業における A-Team と最大手メーカージャイアントを研究対象として、 製品アーキテクチャという新たな視点を導入することで、A-Team に関する成立背景と目的、そのパフォーマンス及び新たな能力創造、そして A-Team の特徴と従来型の組織間関係との差異などを明らかにしたい。以下、明らかになった点とインプリケーションについて述べる。<br>第一に、モジュラー型アーキテクチャの典型で、コモディティ化が一方的に進むと考えられてきた自転車産業において、ジャイアントは革新的で高付加価値の製品開発を実現した。これは A-Team における組織間協調や交流を通じた技術開発と知識の共有化・融合化の促進によって可能となった。<br>第二に、A-Team は、企業間に競争関係ではなくコーペティション(CO-OPETITION)関係を導入することで、有形資源の取引だけでなく、無形資源の共有化を実現し、さらにはコスト優位から差別化優位への能力転換などを実現させた。こうしたことが、革新的で高付加価値製品の開発生産性向上に結び付いた。これらは、従来型の中心・衛星工場システムといった取引関係では実現できなかったものである。このような、競争と提携が交錯したコーペティションという経営手法が、台湾の自転車産業独自の強みになっていると考えられる。<br>最後に、台湾の自転車産業は A-Team による新たな能力創造と製品アーキテクチャの変化に依拠して、従来のコスト優位から、差別化優位の戦略や能力の構築をさらに推進していく必要がある。中国はモジュラー型・オープン型アーキテクチャの技術開発を得意とするため、価格競争で優位性を持つ。この分野では、どの企業も中国に勝つための優位性を持つことは難しい。したがって、台湾の自転車産業は、日本型のすり合わせを特徴とする非標準的な付加価値の高いアーキテクチャ分野の製品を開発する必要がある。
著者
梅野 巨利
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.133-145, 2009-09-30 (Released:2017-06-30)
参考文献数
14

本稿は、1970年代初頭に立ち上げられた後、数々の苦難に直面して挫折したイラン・ジャパン石油化学プロジェクト(通称IJPCプロジェクト)の誕生過程を史的に分析するものである。IJPCプロジェクトは完成を見ることなく終わったことから、これまで「失敗プロジェクト」として見なされることが多かった。そうしたことが強く影響しているためか、本プロジェクトに関係した日本企業は、本件に関する企業資料の開示を一切行っていない。そのため、これまでIJPCについて書かれたものの大半はマスコミやジャーナリズムの手によるものであり、学術的視点からこの問題を取り上げ分析したものはほぼ皆無であった。本稿はこうした資料的制約を克服し、本課題に関する研究上の空白を埋めるべく、IJPC関係者への面談取材を積み重ねることで、これまでの既存文献資料では明らかにされなかった本プロジェクト誕生過程の事実関係の詳細と、そこにおける諸問題に焦点を当てようとするものである。本稿の結論は以下の3点である。第1点は、IJPCプロジェクトは、その誕生過程においてイランの突出した交渉イニシアチブに押される形で実現へと向かったということである。イランの積極的かつ巧みな交渉力に、日本側は石化事業の実行へと突き動かされた。第2点は、本プロジェクトの立ち上げ段階において、すでに日本側関係企業内部において利害相克や思惑の相違などが存在しており、本プロジェクトの立ち上げ初期段階において日本側が一枚岩ではなかったということである。したがって、日本側企業グループの代表的立場にあった三井物産は、イランとの関係ばかりでなく、同社自身の関連部門組織間ならびに参加化学メーカーどうしの利害調整という難しい課題を抱えながらプロジェクトをスタートさせたのである。第3点は、上述の状況下、本プロジェクトが不確かなフィージビリティを抱えたまま前進したのは、これが三井物産トップの持ち込んだ重要案件であったことに加え、石油資源確保という日本にとっての至上課題が優先されたこと、そして三井物産がイランとの条件交渉面において、後に何らかの譲歩が得られるであろうという希望的観測を持っていたためであった。加えて、三井物産とともに日本側パートナーを構成した化学メーカーは、自らの利害と三井物産との企業間関係を考慮して三井物産の意思決定に追随したのである。
著者
金 熙珍
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.37-50, 2016 (Released:2017-11-06)
参考文献数
34

定性研究(Qualitative Research)の方法論には共通して使われる「型」があるのだろうか。優れた定性研究とされる論文は、どのような方法論的手順を採用しているのだろうか。本研究の目的は、定性研究の方法論的頑健性を確保するために必要とされる要件を、既存研究から導出することである。国際経営のトップ3ジャーナルとされるJIBS、MIR、JWBに最近5年間掲載された定性研究92本の方法論を分析し、共通してみられる9項目を取り上げ、説明した。この9つの「科学的ケース・スタディの要件」を研究デザインや実行、論文執筆の段階に取り入れることで、より積極的に世界に発信できる定性研究が多く生まれることを願う。
著者
今川 智美
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.39-58, 2018 (Released:2019-10-12)
参考文献数
31

本研究は、ヤクルトグループの営業手法「ヤクルトレディシステム」が、なぜ新興国市場の開拓に有効であるのかを、事例による探索から検討した。ヤクルトは戦後日本でヤクルトレディシステムと呼ばれる独自のマーケティング手法を確立し、その手法を活用することにより、世界十数か国で安定的な市場を獲得している。しかしながら、その理念的な適合性が注目されている一方で、ヤクルトレディシステムが「なぜ新興国市場で安定的に成功を収められるのか」という競争合理的側面は必ずしも明らかとなっているわけではない。ヤクルトグループが世界十数か国の新興国市場で成功を収めているのであれば、ヤクルトレディシステムという世界的にもユニークなマーケティング手法には、新興国固有の競争環境に適合する何らかの競争合理的な仕組みが存在していると考えるのが妥当であろう。本稿はこうした特殊な一事例を学術的な態度で分析することを通じて、その背後にある論理性を明らかにしようとするのである。本研究の分析は、新興国市場を特徴づける「制度の隙間(institutional voids)」がもたらす様々な問題を解決する手段としてヤクルトレディシステムを位置づけられることを明らかにした。これまで、制度の隙間が新興国の経済や企業の行動にどのような影響を与えているかはよく議論されてきたし、またその一つ一つの隙間に対してどのような策が有効であるのかも検討されてきた。しかし、様々な制度の隙間が総体として織りなすものとして各新興国市場をとらえたとき、そこで機能するものとしての事業システムがどのようなものであるのかは、必ずしも明瞭にはなっていないのが現状である。本研究ではその一つの解としてヤクルトレディシステムを提案し、「制度の隙間の諸条件によらず、安定的に運用可能なシステムであること」を分析の中からその理由として提案した。
著者
諸上 茂光
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究学会年報
巻号頁・発行日
no.11, pp.77-88, 2005

日本では長らく広告にコケージアン・モデルを起用することの有用性が一種の定説とされ、実際に多くの広告でコケージアン・モデルが起用されていることが報告されている。一方、近年では、経済と企業活動のグローバル化がますます進んでおり、日本市場でも国内企業と外国企業の境界が一層あいまいになりつつあり、日本人の外国人や外国企業に対する意識も年々変わってきている。このような状況にも関わらず、現代の広告においても、コケージアン・モデルを起用した広告の割合は高いまま推移していることが報告されている。本研究では、日本での国際ビジネス環境の変化に鑑みて、改めて、日本人モデルとコケージアン・モデルの広告効果について検証し、日本におけるコケージアン・モデル優位仮説に基づく現代の広告作成の妥当性について考察した。本研究では、魅力度のほぼ同じコケージアン・日本人のモデルを用いた場合、(1)これまでの研究から推測されるように、読者の認知処理(広告要素の閲読方法や記憶正確度)は変わらないのか、(2)その一方で、商品や広告自体に対する印象、購買意欲といったような読者の心理的効果には差が見られるのか、についてペンタブレット装置を用いた視線追跡実験およびアンケート調査により検証した。実験の結果から、モデルの魅力度が同じ場合、モデル顔画像への最初の注目度、顔画像と重要な広告要素(商品名)との距離とその要素の記憶正確度の関係を調べた認知的実験では予測どおり、コケージアン優位性が認められなかった。また、コケージアン・モデル使用の心理効果については、従来の研究から予測されるとおり、高関与製品については、かなり明確なコケージアン優位性が認められた。一方、低関与製品についてはわずかな項目についてコケージアン優位性が認められただけである。このことから、現代広告の作成における効果的な外国人モデルの起用方法について、目的に応じて、認知的知見と心理的知見をうまく組み合わせる必要があると考えられる。
著者
兼村 智也
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.31-43, 2009-09-30
被引用文献数
1

中国における日系乗用車メーカーの生産が拡大するなか、これまで日本からの輸入に依存してきたプレス金型の現地調達が急速に進展している。これまで技術移転しにくいと言われてきた自動車用プレス金型の現地調達がなぜ急速に進展したのか、これは日本製金型と同等の品質水準になったことを意味するのか、それとも別の要因があるのかについて、その主たるユーザーである日系自動車1次部品プレスメーカーからの視点で明らかにすることが本研究の目的である。急速な進展の背景には、従来言われる「日本製との価格差」に加え、近年の日系乗用車メーカーの世界同時生産による影響がある。この「同時」を実現するため、世界生産拠点数の数だけ同一金型が「同時」に必要となるが、供給能力が不足する日本では生産の「同期化」が困難であり、膨大な数のローカル企業が存在する中国で「現地化」を進めざるを得ない。その中国製金型の品質についてだが、これには(1)「要求形状・精度の実現」といった基本的な役割の他にも(2)「加工時の生産性」、(3)「メンテナンス性」、(4)「型寿命」がある。これら品質を決めるのは、A.加工機械の精度、B.材料品質、C.設計力、D.加工データ作成力、E.トライアウト力、F.表面処理技術力となるが、中国ではB、C、Eに問題を抱え、それらと係わりが強い(2)〜(4)ではまだ劣位にある。この品質の問題は従来のユーザーである中国乗用車産業が持つ「1モデルあたりの生産台数の少なさ」という構造的特徴に起因している。つまり耐久性のある材料品質、生産性等が求められる市場環境のなかで中国金型産業が育成されてこなかったのである。それでもローカル調達を可能にするのは、品質劣位でも使いこなさざるを得ない日系自動車1次部品プレスメーカーの取り組みによる。具体的には、部品や生産台数による日本製金型と中国製金型の使い分け、加工材、加工部位、形状による日本製材料と中国製材料の使い分け、メンテナンス体制の強化と表面処理の活用、短寿命の中国製金型での更新などである。またプレス加工時においては、多少の生産性は犠牲にしても単純構造の金型を使ったシンプルなラインを許容、加工後の後処理で対応するなどである。
著者
竹内 淳一郎
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究学会年報
巻号頁・発行日
no.12, pp.321-332, 2006

日本製カメラは、1965年以降、米国市場において「安かろう悪かろう」から「安くて良い」評価をえて、米国製やドイツ製のカメラに対して競争優位性を構築した。本報告は、米国における日本製カメラの競争優位の構築過程を、G・サローナー、A・シェパード、J・ポドルニー(2002年)がいうコスト-品質のフロンティアに基づき定量的に検証する。この二つの指標は組織能力とポジション優位の組み合わせによって構築されている。組織能力についてはカメラ企業の米国市場開発を、ポジション優位については、製品ブランドの構築過程を定量的に検証する。コスト-品質について継続的客観的データが入手できる"Consumers Union"(CU,米国消費者同盟)『コンシューマー・レポート』(1936年創刊)を使用した。コストは、入手が困難なため、コストが価格に反映しているという前提で、入手可能なCU調査の表示価格を代用した。品質は、CU評価のスコアを点数化して使用した。日本製カメラの輸出は、55年以降、二眼レフやレンズシャターカメラを中心に対米輸出が急増した。日本製がドイツ製を追い抜いたのは、62年に生産数・金額で、64年に輸出金額、67年には輸出台数と品質が、さらに、76年頃に信頼性においても凌駕した。検証の結果、日本製カメラは、65年以降の米国市場において、米国・ドイツ製カメラに対してコスト-品質面で競争優位性が構築されたことが確認できた。(1)日本製カメラのCU評価が「安くて良い」という競争優位性は、58年頃に二眼レフ、65年頃にコンパクト、72年頃に一眼レフが構築した。(2)日本製カメラの確かな品質・信頼性に裏付けられた製品ブランドは、CU高評価の多さもあり、消費者への知名度向上、ひいては企業ブランドの構築に大いに貢献したといえる。日本のカメラ企業が、社名やロゴに使うようになったことからもいえる。(3)日本企業のCU高評価の順位は、米国進出がステップ2(企業進出と現他業者の利用)やステップ3(自社販売経路の開発と促進活動の実施)の早い順位とほぼ一致する。もっとも、50年代以降、先発企業が自社製品ブランドによる対米輸出とアフターサービス体制の整備、政府の輸出検査による粗悪品輸出防止、60年代の一眼レフ、レンズシャッターカメラなど新製品・生産技術開発体制の構築、70年代から直接販売体制の構築も大いに寄与した。課題は、さらなる企業ブランド力の強化と商品・サービスの高付加価値化などによる競争優位性の構築であろう。
著者
中村 隆
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.33-44, 2014

新興国市場において、モジュール化が進展すると、日本企業の開発した製品は競争力を失う傾向がある。このような新興国市場における日本企業のジレンマを克服するためには、摺り合せの利点を活かしたプラットフォームを用いて品質と低コストを総合的に備えた製品を開発することが求められる。その具体例として、本稿は本田技研工業株式会社(以下「ホンダ」と略称)が開発したスーパーカブ(現地モデル)のタイ、ベトナム市場での事例を取り上げる。スーパーカブは、二輪車の中ではコモディティに近い製品ながら、新興国市場等で高い競争力を保持している。その背景には、摺り合わせ型のプラットフォームの完成度の高さに依拠する製品の品質の秀逸さと、サプライヤーとの組織間関係の革新による低コスト化の両立を図ったことがある。本稿の目的は、摺り合せ型プラットフォームにより品質等と組織間関係の革新による低コスト化を両立できれば、新興国市場でも競争力を保持できることを示すことにある。
著者
諸上,茂光
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究学会年報
巻号頁・発行日
no.11, 2005-09-30

日本では長らく広告にコケージアン・モデルを起用することの有用性が一種の定説とされ、実際に多くの広告でコケージアン・モデルが起用されていることが報告されている。一方、近年では、経済と企業活動のグローバル化がますます進んでおり、日本市場でも国内企業と外国企業の境界が一層あいまいになりつつあり、日本人の外国人や外国企業に対する意識も年々変わってきている。このような状況にも関わらず、現代の広告においても、コケージアン・モデルを起用した広告の割合は高いまま推移していることが報告されている。本研究では、日本での国際ビジネス環境の変化に鑑みて、改めて、日本人モデルとコケージアン・モデルの広告効果について検証し、日本におけるコケージアン・モデル優位仮説に基づく現代の広告作成の妥当性について考察した。本研究では、魅力度のほぼ同じコケージアン・日本人のモデルを用いた場合、(1)これまでの研究から推測されるように、読者の認知処理(広告要素の閲読方法や記憶正確度)は変わらないのか、(2)その一方で、商品や広告自体に対する印象、購買意欲といったような読者の心理的効果には差が見られるのか、についてペンタブレット装置を用いた視線追跡実験およびアンケート調査により検証した。実験の結果から、モデルの魅力度が同じ場合、モデル顔画像への最初の注目度、顔画像と重要な広告要素(商品名)との距離とその要素の記憶正確度の関係を調べた認知的実験では予測どおり、コケージアン優位性が認められなかった。また、コケージアン・モデル使用の心理効果については、従来の研究から予測されるとおり、高関与製品については、かなり明確なコケージアン優位性が認められた。一方、低関与製品についてはわずかな項目についてコケージアン優位性が認められただけである。このことから、現代広告の作成における効果的な外国人モデルの起用方法について、目的に応じて、認知的知見と心理的知見をうまく組み合わせる必要があると考えられる。
著者
有村 貞則
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.1-17, 2009-09-30

「多様な人材を"競争優位"や"組織パフォーマンス向上"のために活かす」。肯定派・中立派・懐疑派を含めて、日本国内においては、米国生まれのダイバーシティ・マネジメントが発するこのメッセージに関心が集まることが多い。しかし、ここだけにとらわれると、かえってダイバーシティ・マネジメントの特質が見失われる危険性がある。本稿では、ダイバーシティ・マネジメントの創始者ともいえるRoosevelt Thomas(1991)に立ち戻り、ダイバーシティ・マネジメントは、決して競争優位や組織パフォーマンス向上といった「企業の成功」だけを意図している訳でないこと、それとともに「機会均等」をも実現しようとしており、そのためには長期継続的な視点で「すべての従業員に有効に機能する環境」作りを行わないといけない。これこそがダイバーシティ・マネジメントたるための極めて重要な特質であることをまず確認する。次にもうひとつの特質として「個人よりも組織の変革重視」があることを指摘するとともに、ダイバーシティ・マネジメントの本質をより深く理解するための一助として、障害についての新学問であるディスアビリティ・スタディーズとダイバーシティ・マネジメントの類似性に着目してみたい。特にここでは、先駆的米国企業のダイバーシティ・マネジメントとは「すべての従業員に有効に機能する環境」作りのために、ディスアビリティ・スタディーズが主張するところの「強制力をもった環境改変手段」、「強制力のある社会変革手段」、「実践モデル」に対応する各種の取り組みを同時並行的に展開している過程であることを描き出す。最後に一般的イメージとは異なり、日本企業の障害者雇用は、欧米企業よりも進んでいるかもしれない。したがって障害者の雇用という点では、日本企業にも欧米企業に勝るとも劣らないダイバーシティ・マネジメントの側面があるかもしれない。この可能性を示唆したい。
著者
井上 真里
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究学会年報 (ISSN:13480464)
巻号頁・発行日
no.10, pp.73-89, 2004-09-30

本稿では、2003年に日産自動車のブランドマネジメントオフィスに対して行った定性調査結果を主な事例として、製品ブランド管理の1領域であるグローバル・ブランド管理の新たな傾向を示すことを目的としている。それは、2002年に実施したグローバル・ブランド管理に関する2つの定量調査結果に基づいている。本稿では組織・制度アプローチに立脚し、消費者行動ではなく戦略や組織などの企業要因に因果関係の起点を措定しており、複数グローバル・ブランド間におけるマーケティング諸政策の一貫性管理問題を分析している。グローバル・ブランド管理を含む製品ブランド管理がマーケティング諸政策全体の全社的管理であることはいくつかの調査からも明らかになっており、また主要な多国籍企業では1990年代後半から全社的管理を実行するために製品ブランド管理の専門組織を設立する傾向をみることができる。さらに2つの定量調査結果において、グローバル・ブランド管理には産業特性や企業国籍によって特殊な管理認識や管理体制、管理内容が存在することが明らかになっている。ところが、既存研究ではブランド管理組織の形態やその管理内容にまで考察が及んでいないという点で課題が残されている。既存研究の批判的検討と定量調査結果を受け、次にグローバル・ブランド管理の定性調査として日産ブランドマネジメントオフィスに対して行ったインタビュー結果を事例に、当該組織が複数グローバル・ブランド間における製品開発や流通政策、コミュニケーション政策の一貫性管理に対して与える影響を検討している。日産のグローバル・ブランド管理においては、2種類のブランド・マネジャー(個別グローバル・ブランドのマネジャーと複数グローバル・ブランドのマネジャー)が川上段階を統制し、ブランド管理組織が複数グローバル・ブランドにおける川下段階(流通政策やコミュニケーション政策)を全般的に統制する「職能分散型」であるとみることができる。これは松下電器産業のブランド管理組織であるマーケティング本部の役割が、川下段階のみならず川上段階にまで管理権限を持つ「全体統合型」であるのとはかなり異なっていると考えられる。ただし、いずれにせよ複数グローバル・ブランド間におけるマーケティング諸政策の一貫性管理を世界的に展開しようとしており、またそれによって経営成果を上げている点では共通点をみることができる。
著者
方 容泰 宋 兌燮
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究学会年報 (ISSN:13480464)
巻号頁・発行日
no.10, pp.25-34, 2004-09-30

韓国ベンチャーのグローバル化の第一歩として、日本市場への進出を念頭に置き、現地市場で事業活動をうまく行い、よい実績を上げるためには、現地のベンチャーの成功方程式を分析する必要があるであろう。本研究は、知彼知己の観点から韓国ベンチャーと日本ベンチャーのそれぞれの強弱点を把握し、韓国ベンチャーの日本市場進出における示唆を導き出すことをその目的とした。両国ベンチャーに対する回帰分析の結果は次の通りである。外部環境は力動性と敵対性という2次元を取り上げたが、力動性は韓国ベンチャーの成果に、敵対性は日本ベンチャーの成果に、それぞれ肯定的影響を及ぼしている。企業スタイルの前向き性がもつ影響力は、その統計的有意性が充足されていない。組織力量には新製品の急進的導入能力、外部資源活用能力、知識資産活用能力という3次元が設定されたが、両国ベンチャーに共通的に影響したのは新製品導入能力である。外部資源活用能力は韓国ベンチャーの成果に負(-)の、知識資産活用能力は日本ベンチャーの成果に正(+)の影響をそれぞれ及ぼしている。マーケティング差別化戦略は日本ベンチャーに否定的影響を働きかけており、韓国ベンチャーの成果とは関係ないことが判明した。こういう分析の結果から導き出される示唆は次の通りである。日本ベンチャーの成果にもっとも大きな影響を及ぼしたのは新製品の急速な導入能力である。韓国のベンチャーは国内市場ですでに新製品の導入を迅速に行う能力を発揮しているが、日本市場に進出して既存製品・技術のアップ・グレードは言うまでもなく、代替機能を持つ新製品の開発に注力すべきである。知識資産の活用能力においては、特許権を確保できるほどの高い水準の知識を創出するよう努力しなければならない。また、知識の特許化にかかる費用がベンチャーには少なくない負担となるが、技術的優位の確保には不可欠である。マーケティング差別化戦略の重要性も特記に値する。販促活動、流通チャンネル活用、広告などの側面で他社との差別性を顧客に刻印させることができなかったことが、日本ベンチャーの全般的な脆弱点として露呈されている。韓国のベンチャーも国内市場でマーケティング戦略に問題点をもっているので、環境の異なる日本市場への進出においては、一層の格別な努力を傾注しないと、散々な失敗に終わる恐れがあるであろう。最後に、環境の敵対性が日本ベンチャーの成果に関係することにも注意を払うべきである。韓国ベンチャーは国内市場環境の力動性に適応してニッチ・マーケットを追求することに強みを発揮している。日本市場ではそれに基づく市場地位の確保が一段落してからは、全面的な競争という敵対的環境の中で生き残るための手段をとらなければならないであろう。
著者
楊 英賢
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.35-52, 2009-04-30

本研究の目的は、アーキテクチャのポジショニングの視点から、TFT-LCD産業の発展過程における台湾のキーコンポーネント(特にカラーフィルターとバックライト)産業を研究対象として、そのメーカーの製品ポジショニングのあり方とその移動戦略の選択を探索することによって、なぜ、台湾メーカーは、日本メーカーが依然として圧倒的な世界シェアを持っているキーコンポーネント分野に参入することができたのか、またはキャッチ・アップすることができたのかの要因を明らかにする。本研究の主な発見事実は以下である。第一に、TFT-LCD産業のキーコンポーネントは、もともとインテグラル型の製品だったが、パネル産業の発展とともに、日本の先行企業から技術提携や移転を通じて、外販による素材の市場化が形成され、その調達が容易化されてくることなどによって、部品間のインタフェースが産業内で広く標準化され、徐々にモジュール型構造になる傾向を持っている場合が多い。例えば台湾のバックライトメーカーは、製品のモジュラー化を一層進め、高度な開発や部門協調の費用を削減し、大幅に中国への投資生産を行なっている。また、同メーカーは、光学設計、金型開発、機構設計といった統合能力を持っているため、多様な顧客のカスタマイズ化の要求に迅速かつ低コストで応えている。第二に、アーキテクチャのポジショニングの移動戦略は、製品の内部構造や製品市場の組合の差異によって、四つの選択肢がある。しかし、これらの選択肢は自国や自社の得意な分野と適合するかどうかも重要であろう。このモジュラー型カスタマイズ戦略の選択は、台湾メーカーの得意なモジュール型の組立て分野と一致しているため、同キーコンポーネント分野のインテグラル型のカラーフィルターメーカーより、国際競争力をかなり発揮することができた。かつ、バックライト産業での市場シェアにおいて日本をキャッチ・アップすることができた要因だと考えられる。
著者
上野 正樹
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.45-57, 2019 (Released:2020-11-06)
参考文献数
14

インドのエアコン市場における16社5年の製品と販売台数データをもとに、成長性と市場競争力に優れる戦略タイプを明らかにした。結果は以下の通りである。各社の戦略タイプはハイエンド重視グループの「ハイエンドニッチ戦略」と「プレミアムゾーン戦略」、ミドルレンジ重視の「ボリュームゾーン戦略」、ローエンド重視の「ボトムゾーン戦略」に分類することができる。そして、年平均成長率CAGRと市場シェア変化率において、ハイエンド重視の二つの戦略タイプが他のタイプを圧倒している。これらの分析結果は、有効な新興国戦略が従来研究されてきた戦略から他のタイプへと転換したことを示している。
著者
須貝 栄
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究学会年報
巻号頁・発行日
no.12, pp.139-150, 2006

本研究は、日常的に仕事で異文化相互接触を頻繁に行っている在英日系企業の日本人駐在員と英国人現地雇用員を調査対象者として選び、トロンペナールス・ハムデンーターナー(1997)のジレンマ理論を理論枠組みとして用いて、調査対象者が自国および相手国の国民文化に対して持つ文化的価値を実証的に検討した。まず、先行研究から、「英国人現地雇用員は日本人駐在員より以上に普遍主義的、個人主義的、感情表出的、関与特定的、達成型地位、内的コントロールなどの文化的価値を強調する」という仮説が導出された。次に、仮説を検証するために、本研究は定量的および定性的アプローチから成る混合方法アプローチを2段階で順次に用いる研究デザインを採用した。調査に参加した在英日系企業は、多段サンプリング法によ抽出され実際に接触できた11社であり、質問紙による調査への参加者は最終的に英国人46人、日本人68人の合計114人であった。次いで、この参加者群から11人(英国人8人,日本人3人)、調査協力企業コーディネーター3人、および本研究に強い関心を示した当該企業内部首2人を加えた合計16人がインタビュー調査に参加した。データ分析はX二乗分析を用いて、英国人現地雇用員が日本人駐在員以上に普遍主義的(自己評定)、感情表出的、関与特定的、達成型地位、内的コントロール(以上は他者評定)などの文化的価値を強調するという結果を示した。仮説のほとんどは統計的検定に合格して、先行研究結果と一致しなかった個人主義-共同体主義という最も重要な文化次元(Triandis, 1990)を除いて検証された。この次元が検証されなかった理由は、英国人現地雇用員が相手国文化の価値観から始まるCom-Indを、また日本人駐在員も同様にInd-Comという文化統合的価値を強調したからである。そこで、(1)尺度信頼性、(2)データ属性、そして(3)回答パターンの3点から検討した結果、(3)に含まれる文化統合的価値は、ジレンマ理論に内在する両極的な洗練化された文化ステレオタイプ(例として、個人主義的な英国人対共同主義的な日本人)と一致しなかったので、両極的な回答パターンを基にしたトロンペナールス・ハムデンーターナーの先行研究を追証しなかったと判明した。さらに、文化統合的回答を高頻度で選択する回答者け、異文化対応能力を高度に持つと判明したので、海外駐在員選考に示唆を与える。
著者
洪 霞
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究学会年報
巻号頁・発行日
no.12, pp.223-235, 2006

小売業の国際化、特に小売知識のフローは、一国における小売業態の生成・展開とつながる。本論文は、受入国における小売知識フローと小売業態の展開と関連について検討するものである。その検討は中国における現地小売企業における小売知識フロー・プロセスの考察を通して行う。こうした考察は小売知識フローの促進要素について検討することにもつながる。まず、小売知識フローによる受入国における小売業態展開のメカニズムを分析する。次に、中国における小売業態展開の代表的な中国大手小売企業である華聯(SM)、華潤万佳(GMS)、可的(CVS)を例として、それぞれにおける小売知識フロー・プロセスを考察する。こうした考察、検討を通じて、次の結論が導出された。1)小売知識のフローによって、受入国における小売業態の多様化と業態内細分化が促進される。また、革新的な小売業態を創出する可能性がもたらされる。2)中国の現地小売企業における小売知識フローは、基本的に知識の識別、獲得、学習、活用という4つの段階に分割して考察することができる。知識の獲得段階で、特に模倣による知識の獲得が重要な役割を果たしていた。模倣を通じて、小売企業は小売業態の概念を店舗まで具体化させる。そして学習・活用段階を通じて小売企業は業態のさらなる展開あるいは業態の細分化を実現する。3)小売知識フローを促進する要素として、(1)知識アクティビスト(知識を組織に拡げ活かす人)、(2)組織変革、(3)業態展開に応じた知識の段階的な取り込み、(4)学習プロセス、の4点がある。
著者
藤本 隆宏 陳 晋 葛 東昇 福澤 光啓
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.35-46, 2010
参考文献数
14

グローバル化の時代における、微細な産業内貿易、企業の多国籍展開といった現象を説明する一つの論理として、組織能力とアーキテクチャの適合性を重視する設計立地の比較優位論がある。これまで、多くの日本企業が「生産は中国へ移し、設計は日本に残す」という、比較的シンプルな立地方針で日中生産・設計分業を進めてきた。これは、華南の低賃金・単能工・モジュラー生産というモデルを前提にした分業構想である。しかし、中国での賃金は高騰を続けており、東莞や青島などに進出した低賃金のみに依存する外国企業は、中国から撤退を始めているように見受けられる。このように、多国籍企業は、最適立地を見直す必要に迫られている。中国には、産業平均の定着率が比較的良い地域や企業の定着政策次第で、その離職率をさらに下げる余地のある地域がある。その典型例が大連をはじめとした東北地域であり、本研究では、日系企業2社の大連拠点の事例研究を行った。大連をはじめとした東北地域では、華南や長江と比べて賃金が低いことに加えて、賃金水準に対して低い離職率、豊富な設計技術者の供給など、インテグラル型製品に適した労働環境が存在する。そこでは、日本企業は、従来考えられていた日中生産・設計分業とは異なる形での企業内国際分業体制を構築可能である。ものづくり組織能力の偏在とアーキテクチャの適合の観点から中国への国際展開を考えた場合、インテグラル・アーキテクチャ寄りの設計業務の一部を中国で行うことが可能であるということが示唆される。