- 著者
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辻 加代子
- 出版者
- 日本語学会
- 雑誌
- 日本語の研究 (ISSN:13495119)
- 巻号頁・発行日
- vol.3, no.1, pp.1-16, 2007-01-01
近世上方において勢力をもっていた待遇表現形式の一つである動詞テ形に指定辞が付加された形式(以下「テ指定」と呼ぶ)の形態変化に関して以下のことを報告する。天保7年刊京都板洒落本『興斗月』に「テ指定」の過去形として上方板洒落本資料としては特異なチャッタの形が多数出現している。このチャッタ形に注目してその音価,意味,および活用の諸側面から検討した結果,次のことが明らかになった。(1)天保年間の頃京都で「テ指定」過去形はテデアッタの縮約形テジャッタがさらに縮まったチャッタの形へと変化した可能性がある。(2)『興斗月』に現れるテチャッタ形は先行研究では同じ頃の他の洒落本に現れるテジャッタ形と同価とみなされてきたが,音声的には表記のとおり「テチャッタ」であり,「テ指定」表現の過去形にアスペクト形式が付加された形式である。