著者
駒田 陽子 井上 雄一
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.9, pp.785-791, 2007-09-01
被引用文献数
1

多くの疫学研究により,睡眠障害が非常に頻度の高い疾患であることが明らかにされている.近年,睡眠障害の診断にあたって,睡眠の量や質だけでなく日中の生活機能障害が重視されており,その社会生活への悪影響を数量化した研究が散見される.本稿では,睡眠障害の中で頻度の高い不眠症および日常生活で経験することの多い睡眠不足が社会生活に及ぼす影響について概説した.不眠は,耐糖能障害や免疫機能低下など,系統的に身体機能に影響を及ぼすことがわかっている.また精神生理機能への影響も大きく,慢性不眠症者では一般人に比べて産業事故リスクが7倍と報告されている.不眠によって集中力・記憶・日常の仕事をやり遂げる能力・他人との関わりを楽しむ能力が低下し,QOL (quality of life)水準は悪化する.さらに,不眠はうつ病の前駆症状として考えられてきたが,近年うつ病発症リスクの有意な要因としても重要視されている.睡眠不足症候群は先進諸国ではかなり多く,無視できない睡眠障害の一つである.睡眠不足症候群での眠気水準は他の一般的な過眠性疾患と同水準であるが,運転事故既往者では眠気重症度が有意に高い.睡眠不足は,身体的,精神生理的機能に影響を及ぼし,睡眠の充足感が低いほど抑うつ得点が高くなることが示されている.睡眠障害に対しては,十分な治療を行うことにより症状が改善し,社会生活への悪影響も抑制される.国民のQOLを向上し健康な社会生活を送るために,睡眠障害の早期発見・早期治療と睡眠健康に関する啓発活動が今後必要である.

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