著者
平田 幸一 鈴木 圭輔 春山 康夫 小橋 元 佐伯 吉規 細井 昌子 福土 審 柳原 万理子 井上 雄一 西原 真理 西須 大徳 森岡 周 西上 智彦 團野 大介 竹島 多賀夫 端詰 勝敬 橋本 和明
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.166-179, 2020 (Released:2020-08-31)
参考文献数
51
被引用文献数
4

難治性の疾患における持続中枢神経感作と言われる病態の疫学,基礎・臨床的な位置付けさらには患者のケアにむけての研究をまとめた.本総説は厚生労働研究班の各員の研究結果を示したものなので,必ずしもまとまりがない点に限界があるが,今までは疾患縦断的に診断治療がおこなわれてきた難治性疾患における中枢神経感作の役割を横断的にみたという意味でもわれわれの研究の結果は一部ではあるが解明したものといえる.結果として,中枢神経感作は種々の疾患,特に難治性のもので明らかに何らかの役割を呈していることが示せた.さらにその治療法の解明には至らぬまでも,患者ケアに繋がる方略を示せたものと考えられ,今後の研究の基盤となることが望まれる.
著者
田村 典久 田中 秀樹 駒田 陽子 成澤 元 井上 雄一
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.90.18045, (Released:2019-07-10)
参考文献数
43
被引用文献数
3 3

This cross-sectional study was conducted to assess sleep habits between students with/without a discrepancy of ≥2 hrs in wake-up time (WUT) on school days and free days, and to determine whether the discrepancy is associated with daytime sleepiness, lowered mental/physical health and poor academic performance. A total of 4,392 students in 13 junior high schools completed a self-administered questionnaire including demographic information, sleep-wake patterns, daytime sleepiness, irritability and academic performance. We classified the students into two groups: those with/without a discrepancy between school day and free day WUT. The discrepancy prevalence was 38.4%. More students with the discrepancy skipped breakfast and did not attend a school club activity compared to those without the discrepancy. They also went to bed 22 min later and slept 21 min less on school days than those without the discrepancy. In a generalized linear mixed model, the discrepancy was associated with daytime sleepiness, irritability and poor academic performance. The WUT discrepancy of ≥2 hrs with a delayed circadian rhythm can be associated with lower mental/physical health and poor academic performance among adolescents.
著者
井上 雄一
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.26-31, 2015 (Released:2016-12-06)
参考文献数
21

【要旨】高齢者層においては、睡眠障害の頻度があり高いが、認知症性疾患ではその頻度はさらに一層高くなる。各認知症性疾患で、睡眠の浅化・分断が認められる点は共通しているが、アルツハイマー型認知症では睡眠覚醒リズムが不規則化しやすい点、レビー小体型認知症ではREM睡眠期の筋緊張抑制が失われて夜間REM睡眠期に行動異常を生じやすくなる点が異なっている。不眠症状の抑制は、認知症の発症予防・進行抑制に貢献すると考えられるが、安易な睡眠薬の使用はせん妄発現、転倒による骨折リスクの増加に加えて認知症状を顕在化させることもあるので、慎重を期したい。高齢者は高頻度に閉塞性睡眠時無呼吸症候群を有するが、本症候群重症例では脳血管障害リスクを高めるだけでなく、前頭前野の機能低下、および認知症状進行リスク要因になりうるので、治療的な対応を図ることが必要である。
著者
駒田 陽子 井上 雄一
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.9, pp.785-791, 2007-09-01
被引用文献数
1

多くの疫学研究により,睡眠障害が非常に頻度の高い疾患であることが明らかにされている.近年,睡眠障害の診断にあたって,睡眠の量や質だけでなく日中の生活機能障害が重視されており,その社会生活への悪影響を数量化した研究が散見される.本稿では,睡眠障害の中で頻度の高い不眠症および日常生活で経験することの多い睡眠不足が社会生活に及ぼす影響について概説した.不眠は,耐糖能障害や免疫機能低下など,系統的に身体機能に影響を及ぼすことがわかっている.また精神生理機能への影響も大きく,慢性不眠症者では一般人に比べて産業事故リスクが7倍と報告されている.不眠によって集中力・記憶・日常の仕事をやり遂げる能力・他人との関わりを楽しむ能力が低下し,QOL (quality of life)水準は悪化する.さらに,不眠はうつ病の前駆症状として考えられてきたが,近年うつ病発症リスクの有意な要因としても重要視されている.睡眠不足症候群は先進諸国ではかなり多く,無視できない睡眠障害の一つである.睡眠不足症候群での眠気水準は他の一般的な過眠性疾患と同水準であるが,運転事故既往者では眠気重症度が有意に高い.睡眠不足は,身体的,精神生理的機能に影響を及ぼし,睡眠の充足感が低いほど抑うつ得点が高くなることが示されている.睡眠障害に対しては,十分な治療を行うことにより症状が改善し,社会生活への悪影響も抑制される.国民のQOLを向上し健康な社会生活を送るために,睡眠障害の早期発見・早期治療と睡眠健康に関する啓発活動が今後必要である.
著者
田村 典久 田中 秀樹 笹井 妙子 井上 雄一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.39-50, 2016-01-31 (Released:2019-04-27)
被引用文献数
3

本研究の目的は、睡眠促進行動チェックリストを併用した睡眠教育プログラムの実施が、中学生の睡眠促進行動や睡眠習慣、日中の眠気に与える効果を検証することである。対象とした中学校2校の1年生229名を、睡眠教育群(n=118)と待機群(n=111)に振り分けた後に、睡眠教育群に対してのみ睡眠知識教育を実施し、適切な睡眠促進行動を提示してその中から達成目標とする行動を一つ選択させ、目標行動を2週間自己調整させた。その結果、睡眠教育群では睡眠知識や睡眠促進行動が向上し、就床時刻や入眠潜時、睡眠時間が有意に改善した。また、日中の眠気の改善も認められた。一方、待機群ではこれらの改善は認められなかった。本研究結果より、われわれの開発した睡眠教育プログラムは、中学生の睡眠促進行動を向上させ、実際の睡眠習慣や日中の眠気の改善に有効であると考えられた。
著者
岡島 義 井上 雄一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.195-203, 2010-09-30 (Released:2019-04-06)

睡眠薬を長期服用中の1曼性不眠症患者12名に対して、認知行動療法(CBT-1)と、これに並行して睡眠薬の漸減を実施し、その不眠症状改善効果について検討した。1回50分のセッションを6〜8回実施し、治療前後および治療終了1カ月後のフォローアップ時に主観的な睡眠指標と自記式尺度に記載させた。その結果、睡眠指標では、入眠潜時、中途覚醒時間、総覚醒時間、睡眠効率の項目で改善が認められ、自記式尺度では、不眠症状測定尺度だけでなく、抑うつ症状尺度にも大きな治療効果が認められた。また、その効果は1カ月後も維持されていた。対象者全員が治療期間中に漸減を開始したが、服薬中止に至った者は4名(33%)であった。9名(75%)に臨床的な改善が認められ、その効果は終了1カ月後も維持していた。このことから、CBT-1は、睡眠薬を長期服用中の慢性不眠症患者に対しても有効と考えられた。
著者
岸本 朗 井上 雄一 松永 慎次郎 中村 準一
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

現在、精神科臨床においては、複数の抗うつ薬に抵抗してうつ状態が持続するいわゆる難治性うつ病者の存在が問題となっている。難治性うつ病者にみられる臨床的特徴は急性期にみられるような高コルチゾール(COR)血症がしばしば観察されるところにある。そこで本研究は平成7-8年にかけて、難治性うつ病者に対して、COR合成阻害薬であるmetyraponeを投与するとともに、corticotropin-releasing hormone(CRH)を健常者や通常(非難治性)のうつ病者を対照として、難治性うつ病者に対して負荷し、それに対するadrenocorticotropic hormone(ACTH)やcortisol(COR)の反応を観察したものである。その結果、計9名の難治性うつ病者に対して1日量2,000mgまでのmetyraponeを、計16回にわたって使用したところ、双極性障害のみにおいて寛解が観察されたが、大うつ病では寛解が観察されなかった。また高COR血症が消失してもうつ状態の持続をみるものがあった。次に合計68名の対象について、100μgのCRHを静脈内に注射投与して得られたACTHやCOR反応を健常者や各うつ病者群と比較すると、難治性うつ病者においてはCRHに対するACTH反応,COR反応が服薬治療を受けている非難治性うつ病者、あるいは未治療者などにおけるそれらより有意に不良となっていた。以上の研究結果から、難治性うつ病者にみられる高COR血症は状態依存性ではあるが、必ずしもうつ病の原因とはなりえないこと、CRHに対するACTH,COR反応の不良性は長期間続く高COR血症のために下垂体や副腎皮質の反応性が不良となったものと考えられた。またCRH負荷試験は真の難治性うつ病から、不十分な抗うつ薬療法が行われているために、臨床効果が得られないうつ病者(すなわち偽難治性うつ病者)を区別する極めて有用な指標となるものと考えられた。
著者
岡島 義 井上 雄一
出版者
一般社団法人日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.195-203, 2010-09-30

睡眠薬を長期服用中の1曼性不眠症患者12名に対して、認知行動療法(CBT-1)と、これに並行して睡眠薬の漸減を実施し、その不眠症状改善効果について検討した。1回50分のセッションを6〜8回実施し、治療前後および治療終了1カ月後のフォローアップ時に主観的な睡眠指標と自記式尺度に記載させた。その結果、睡眠指標では、入眠潜時、中途覚醒時間、総覚醒時間、睡眠効率の項目で改善が認められ、自記式尺度では、不眠症状測定尺度だけでなく、抑うつ症状尺度にも大きな治療効果が認められた。また、その効果は1カ月後も維持されていた。対象者全員が治療期間中に漸減を開始したが、服薬中止に至った者は4名(33%)であった。9名(75%)に臨床的な改善が認められ、その効果は終了1カ月後も維持していた。このことから、CBT-1は、睡眠薬を長期服用中の慢性不眠症患者に対しても有効と考えられた。
著者
中村 真樹 井上 雄一
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.11-20, 2014-02-01 (Released:2015-02-27)
参考文献数
45

ナルコレプシーは, 視床下部に存在するオレキシン神経の脱落・変性がその病態の中心にあることが確認されて以来, これを視野に入れた多くの脳機能・形態画像研究がなされている。情動脱力発作を伴うナルコレプシーのPET/SPECTによる機能画像研究では, 安静覚醒時においては視床下部をはじめ広範囲での脳血流低下・代謝低下が示唆されており, 一方, 情動脱力発作時には帯状回や扁桃体での局所的な血流増加が確認されている。また, fMRIを用いた研究では, 情動脱力発作時の視床下部の活動低下と扁桃体の過活動が報告されている。一方で, 構造画像研究であるVBMでは一貫した結果を得るにはいたっておらず, この理由として, MRIの撮像条件や, 解析プログラムの精度が影響している可能性が指摘されている。しかし, DTI拡散テンソル画像を用いた構造画像研究では, 情動脱力発作に扁桃体が重要な役割を果たしている可能性が示唆されている。
著者
田村 典久 田中 秀樹 駒田 陽子 成澤 元 井上 雄一
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.90, no.4, pp.378-388, 2019 (Released:2019-10-25)
参考文献数
43
被引用文献数
1 3

This cross-sectional study was conducted to assess sleep habits between students with/without a discrepancy of ≥2 hrs in wake-up time (WUT) on school days and free days, and to determine whether the discrepancy is associated with daytime sleepiness, lowered mental/physical health and poor academic performance. A total of 4,392 students in 13 junior high schools completed a self-administered questionnaire including demographic information, sleep-wake patterns, daytime sleepiness, irritability and academic performance. We classified the students into two groups: those with/without a discrepancy between school day and free day WUT. The discrepancy prevalence was 38.4%. More students with the discrepancy skipped breakfast and did not attend a school club activity compared to those without the discrepancy. They also went to bed 22 min later and slept 21 min less on school days than those without the discrepancy. In a generalized linear mixed model, the discrepancy was associated with daytime sleepiness, irritability and poor academic performance. The WUT discrepancy of ≥2 hrs with a delayed circadian rhythm can be associated with lower mental/physical health and poor academic performance among adolescents.
著者
下畑 享良 井上 雄一 平田 幸一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.63-70, 2017 (Released:2017-02-25)
参考文献数
70
被引用文献数
1

REM睡眠行動障害(rapid eye movement (REM) sleep behavior disorder; RBD)は,夢内容の行動化を呈する睡眠時随伴症である.長期的な経過観察で,αシヌクレイノパチーの発症が高率に認められる.将来の発症リスクの告知は,患者に動揺をもたらすものの,患者には知る権利があることから,適切な時期や方法を症例ごとに検討した上で告知し,告知後はRBDに対する生活指導と治療を行い,精神的にも支援する必要がある.またRBDは,他の検査との組み合わせによりαシヌクレイノパチーの早期診断を実現する可能性があり,病態抑止療法への応用が期待される.
著者
駒田 陽子 井上 雄一
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.9, pp.785-791, 2007-09-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
31

多くの疫学研究により,睡眠障害が非常に頻度の高い疾患であることが明らかにされている.近年,睡眠障害の診断にあたって,睡眠の量や質だけでなく日中の生活機能障害が重視されており,その社会生活への悪影響を数量化した研究が散見される.本稿では,睡眠障害の中で頻度の高い不眠症および日常生活で経験することの多い睡眠不足が社会生活に及ぼす影響について概説した.不眠は,耐糖能障害や免疫機能低下など,系統的に身体機能に影響を及ぼすことがわかっている.また精神生理機能への影響も大きく,慢性不眠症者では一般人に比べて産業事故リスクが7倍と報告されている.不眠によって集中力・記憶・日常の仕事をやり遂げる能力・他人との関わりを楽しむ能力が低下し,QOL (quality of life)水準は悪化する.さらに,不眠はうつ病の前駆症状として考えられてきたが,近年うつ病発症リスクの有意な要因としても重要視されている.睡眠不足症候群は先進諸国ではかなり多く,無視できない睡眠障害の一つである.睡眠不足症候群での眠気水準は他の一般的な過眠性疾患と同水準であるが,運転事故既往者では眠気重症度が有意に高い.睡眠不足は,身体的,精神生理的機能に影響を及ぼし,睡眠の充足感が低いほど抑うつ得点が高くなることが示されている.睡眠障害に対しては,十分な治療を行うことにより症状が改善し,社会生活への悪影響も抑制される.国民のQOLを向上し健康な社会生活を送るために,睡眠障害の早期発見・早期治療と睡眠健康に関する啓発活動が今後必要である.
著者
野村 哲志 井上 雄一 中島 健二
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.987-990, 2014 (Released:2014-12-18)
参考文献数
10
被引用文献数
1

パーキンソン病(Parkinson’s disease; PD)患者は,睡眠障害を生じることが多い.原因としては運動症状,夜間諸問題や精神症状だけでなく,その他の睡眠障害である日中の眠気(Excessive daytime sleepiness; EDS),レム期睡眠行動異常症(REM sleep behavior disorder; RBD),下肢静止不能症候群(Restless legs syndrome; RLS),睡眠時無呼吸症候群(Sleep apnea syndrome; SAS)などが挙げられる.とくに,RBDはPDの病前症状として注目されている.PDの1/3にRBD症状をみとめる報告があり,運動機能障害,自律神経機能,認知機能の増悪因子であるという報告もある.PDの睡眠障害の原因は多様なので,詳細を充分検討した上で対処する必要がある.しかし,PDでのそれぞれの睡眠障害の対応についてはエビデンスが不足しており,データーの蓄積が必要である.
著者
駒田 陽子 塩見 利明 三島 和夫 井上 雄一
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.57, no.12, pp.1066-1074, 2010

<b>目的</b> 本研究の目的は,運転免許保有者の中で睡眠時無呼吸症候群(Sleep apnea syndrome: SAS)に罹患している者の実態,居眠り運転や居眠り運転事故に関連する要因,運転免許更新時等における申告制度等の認識度を明らかにすることである。<br/><b>方法</b> 警視庁府中運転免許試験場において,運転免許証の更新者5,235人に対し,回答は無記名,任意とした上で,運転中の眠気や居眠り運転,SAS の自覚もしくは診断を受けたことがあるか等に関するアンケート調査を実施した(回収3,235人,回収率61.8%)。<br/><b>結果</b> 運転中に眠くなることがあると答えた者は1,306人(40.4%),居眠り運転をしたことがある者は658人(20.3%),居眠り運転により事故を起こしそうになったこと,または実際に事故を起こしたことがある者は336人(10.4%)であった。ロジスティック回帰分析の結果,居眠り運転に関連する要因として,男性であること,免許保有期間が長いこと,週あたりの走行距離が多いこと,運転開始後短い時間で眠気を感じること,SAS の自覚もしくは診断を受けていることが抽出された。また,居眠り運転事故等に関しては,男性であること,免許保有期間が長いこと,運転開始後短い時間で眠気を感じること,SAS の自覚もしくは診断を受けていることが関連要因であった。運転免許保有者のうち SAS に罹患している者の実態を検討したところ,調査対象者のうち7.5%が「自分が SAS ではないかと思う」と回答し,また,1.1%が「SAS と診断されたことがある」と回答した。<br/><b>結論</b> SAS ではないかと自覚している者の割合に対して,実際に受診して SAS の診断を受けている者の割合はかなり低いことから,SAS に対する診断と治療の重要性をより強く啓発していくことが,居眠り運転や居眠り運転事故等を防止するために重要であると考えられた。また,運転への慣れ,長時間運転による疲労が居眠り運転や居眠り運転事故に強く関連していることを広く周知すべきである。道路交通法では「重度の眠気の症状を呈する睡眠障害」は免許停止・取り消しの要件の一つで,免許試験の受験や更新申請の際,症状を申告しなければならない。しかし,「申告制度を知っている」と答えたのは,罹患の可能性がある人の22.2%であった。SAS に罹患した運転免許保有者が症状を自覚し治療することにより,安全な運転パフォーマンスを保持できるよう,これらの制度について広報啓発を行う必要があると思われた。