- 著者
-
西條 八束
- 出版者
- 日本海洋学会
- 雑誌
- 海の研究 (ISSN:09168362)
- 巻号頁・発行日
- vol.16, no.5, pp.401-406, 2007-09-05
陸水学は,通常,湖沼を研究水域としている。そして,湖沼が海洋に比べて閉鎖性が強いことを除けば,とくに生態系の構造と機能,物質循環などにおいて共通の性状を示す場合が多い。さらに湖沼が閉鎖的であることは,そこに生息する生物の相互関係,あるいは生物と生活環境の相互作用などを把握しやすくさせている。特に小潮を研究水域とすれば,時間的,空間的に密な観測,あるいは長期にわたる観測も容易で,多額の経費もかけずに精密な研究ができる。湖沼は通常,深い湖と浅い湖に分けられ,その性状も異なり,貧栄養湖と富栄養湖に分類される。さらに特異な湖であるが,深層に海水など高密度の水が半永久的に停滞している湖(部分循環湖)では,塩分の境界層に厚いバクテリアプレートが形成され,そこに各種のバクテリアなどが密生し,新たな知見が数多く見出されており,海でも同様な現象発生の可能性がある。また近年は,水域の富栄養化が重大な環境問題となり,その分野の研究が盛んになっている。日本では,湖沼における生物生産と物質循環の研究が,海洋における同様な分野の発展の基礎となった。このような陸水学の研究成果が海洋学の発展に寄与した具体例を挙げて論説した。