著者
門谷 茂
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.151-155, 2006-02-28

瀬戸内海では,他の人口集中沿岸海域と同様に1950年代以降,流入する河川の栄養塩濃度(とりわけ,リン・窒素)は,上昇を続けその結果として,海域の栄養塩濃度を急上昇させた.とりわけ,60年代後半から赤潮の発生が頻繁に起こるようになり,1976年には年間299回を数えるまでになった.富栄養化は基礎生産の増大をもたらすだけでなく,光合成によって作られた膨大な有機物の多くが水柱内で消費されることなく海底に沈積し,そこで微生物分解されることにより溶存酸素濃度を減少させ,貧酸素水塊を作り出すことにも繋がった.この間の瀬戸内海における富栄養化を進行させてきたのは,陸からもたらされた窒素やリンであることは種々の環境モニター結果から明らかである.瀬戸内海の生物過程において決定的な役割を演じているのは,やはり陸上からの栄養塩負荷であった.一方,近年重要視されてきた外洋起源と言われる窒素やリンが,瀬戸内海の生物生産にどのように寄与しているかについての答えを得ることは,今後の環境行政を考える上でも,沿岸域の生物生産構造を理解する上でも極めて重要である.今後は,溶存無機態の窒素やリンがどのようなタイミングでどこからどれだけ流入しているのかについて,詳細に明らかにする必要がある.
著者
小栗 一将
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.189-216, 2018-09-15 (Released:2018-09-05)
参考文献数
143

戦後間もない時代に中央気象台,続いて長崎海洋気象台に勤め,1960年に渡英した海洋学者,石黒鎮雄博士(1920-2007)は,2017年ノーベル文学賞を受賞した小説家,カズオ・イシグロ氏の父として紹介される機会が多い。しかし博士については,海洋の潮位や波高の研究に携わった研究者であったことと,人生の大半を英国で過ごしたこと以外,あまり知られていない。石黒博士は1940年代末から電子工学や物理学の知識を駆使し,波圧計をはじめとする様々な海洋観測機器を開発した。また,水理模型実験による潮流解析への画像解析技術の導入,電子回路モデルの開発とアナログコンピューティングによる長崎湾に発生する副振動の解析など,先進的な技術を用いて多くの成果を挙げた。1950年代末以降には,英国で,電子回路モデルを用いた潮位の解析装置を大規模なアナログコンピュータに発展させ,北海の高潮予測を可能にした。本総説では,博士の論文ならびに関連資料の調査によって明らかになった石黒鎮雄博士のユニークな研究と,その業績を詳しく紹介する。
著者
坂本 圭 辻野 博之 中野 英之 浦川 昇吾 山中 吾郎
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.175-188, 2018-09-15 (Released:2018-09-05)
参考文献数
15

著者らの海洋大循環モデル「気象研究所共用海洋モデル(MRI.COM)」は,開発が始まってから20 年近くが経過し,気象研究所と気象庁の様々な部門で利用されるようになるとともに,ソースコードの大規模化・複雑化が進んだ。このような状況の下でも,バグの混入や意図しない影響を抑えながらモデルを効率的に開発するため,現代的なソフトウェア開発で用いられるツールと手法を取り入れ,開発管理体制を一新した。まず,ソースコードの開発履歴(バージョン)を管理する「Git(ギット)」を導入した。このツールにより,複数の開発者が複数の課題に同時に取り組む並行開発が可能になった。また,プロジェクト管理システム「Redmine(レッドマイン)」を導入し,開発状況を開発者全員で共有した。このシステムによってデータベースに逐一記録された開発過程が,他の開発者や次世代の開発者にとって財産となることが期待される。これらのツールを用い,さらに開発手順を明確にすることで,開発チーム内の情報共有と相互チェックを日常的に行う開発体制に移行することが可能となったことは,コード品質の向上に大きく寄与している。現在,気象庁では,MRI.COMだけでなく,気象研究所と気象庁で開発しているほぼ全てのモデルをGit(またはSVN)とRedmineで一元的に管理するシステムを構築しており,モデルの開発管理及び共有化が大きく前進している。
著者
西村 三郎
出版者
日本海洋学会
雑誌
日本海洋学会誌 (ISSN:00298131)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.109-116, 1958-10-25 (Released:2011-06-17)
参考文献数
46
被引用文献数
1

1) 日本列島対馬暖流域におけるハリセンボンの移動=洞游,とくに本州および北九州の西岸において冬季顕著にみられる集団接岸現象, すなわち“寄り”の機構に関してひとつの仮説を提示した.2) 九州南方の低緯度海域で発生したハリセンボンの稚・幼魚は黒潮および対馬暖流によつてはこばれて日本海に流入する. その時期は6~11月ごるであろう. 対馬・九州近海でみられるハリセンボン出現の夏のピークはこの流入する北上群に由来するものであろうと考えられる.3) 日本海に入つた魚群は暖流主流軸に沿つてはるか沖合を北上するためにあまり眼につかないが, 暖流は本州北端において沿岸に収歛するので, 津軽海峡近海ではふたゝびこの北上群が認められるようになる. 魚群の一部は海峡を通過して太平洋に出, 一部は陸奥湾内に流入し, 一部は北海道西岸を北上する. この分派の割合は季節によつて異なるであろう.4) になつて,北西季節風が卓越するようになると,それによつてひきおこされた優勢な吹送流によつて,夏の間日本海の沖合部に滞留していた,あるいはそこを通過中のハリセンボン群は南~南西方向に押しながされて本州沿岸部に達し, シケのときには浜辺にうちあげられたり, 沿岸の定置網などにのつたりして, いわゆる“寄り”現象を呈するのであろう. この南下群の一部はさらに本州に沿つて押しながされて北九州の沿岸に達し, こゝにも“寄り”を生起せしめるのであると考えられる.
著者
長屋 裕 中村 清 佐伯 誠道
出版者
日本海洋学会
雑誌
日本海洋学会誌 (ISSN:00298131)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.20-26, 1971 (Released:2011-06-17)
参考文献数
14
被引用文献数
14

北太平洋および日本近海海水中のストロンチウム濃度を原子吸光光度法によって測定し, Sr/Cl比を算出した.ストロンチウムの平均濃度は8.08mg/kg, 平均Sr/Cl比は0.425mg/kg/‰ であった.Sr/Cl比の海域別, 深度別変動は5%以下であって, 分析誤差を考慮すればSr/Cl比はほとんど一定である. また, ミリポアフイルター (0.22μ) によって分離される粒子状Srは存在しないと考えられる.これ等の結果は大西洋についての最近の報告とは一致しない.
著者
越後 友利果 伊藤 海彦 磯田 豊
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4-5, pp.71-98, 2022-09-15 (Released:2022-09-15)
参考文献数
22

近慣性周期の内部波は,密度成層が弱くなるほど,地球回転ベクトルの水平成分Ω cos φ(φは緯度,Ωは自転角速度)の影響が無視できなくなる。特に,日本海深層の底層水(Bottom Water)のように,浮力振動数(N)がほぼ零となる均一流体内に存在できる波はGyro-scopic Wave(GsW)とも呼ばれる慣性波(inertio wave)に限られる。しかし,これまでGsW の存在を支持する観測的証拠は得られていない。そこで,本研究ではGsW を含む内部慣性重力波の線形理論解析を行った。その分散関係からは,南方へエネルギー伝播する近慣性周期のGsW が海底で反射する際,入射波の鉛直低波数から反射波の鉛直高波数へと非対称な伝播経路(Ray path)を示すことがわかった。Polarization relation からは,北半球の場合,反射波の水平流速楕円(真の流速楕円の水平面射影)がほぼ真円の時計回りであるのに対し,入射波の水平流速楕円は時計回りから反時計回りへ遷移する,という興味深い特性も明らかになった。これらの理論的知見と数値モデルを用いたGsW の再現実験を根拠として,我々は海底近傍に設置された係留系の流速記録が示す特徴の中に,GsW の海底反射を示唆する証拠をみつけることができた。
著者
河野 健 海洋研究開発機構地球環境変動領域海洋環境変動研究プログラム
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.127-137, 2010-03-15
参考文献数
23

2009年6月に開催されたIntergovernmental Oceanographic Commission(IOC)の第25回総会において,現在の海水の状態方程式(Practical Salinity Scale 1978 and International Equation of State of Seawater 1980:EOS-80)に代わる新しい海水の状態方程式(Thermodynamic Equation of Seawater 2010:TEOS-10)の採用が承認された。EOS-80は,その方程式の中で実用塩分スケール(Practical Salinity Scale 1978:PSS-78)で定義される実用塩分(Practical Salinity,S_P)を用いていたが,TEOS-10では,実用塩分ではなく,絶対塩分(Absolute Salinity,S_A)が用いられている。本報では新たな状態方程式(TEOS-10)に関して,関係する主要な論文を基に,特に塩分の定義を中心に紹介する。
著者
矢萩 拓也 Chen Chong 川口 慎介
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4-5-6, pp.97-125, 2019-12-25 (Released:2020-01-13)
参考文献数
194
被引用文献数
1 4

深海熱水噴出域を代表とする海底下流体湧出場には,深海底環境では「ありえない」規模の高密度で生息する動物群集がある。化学合成微生物を一次生産者とするこの動物群集が「深海底に飛び石状に分布する生息域間をどのように移動しているのか」という問いは,その発見以来40年にわたって研究者を魅了し続けてきた。最も一般的な学説は,底生動物が初期発生段階(卵・幼生期)に浮遊して移動する「幼生分散説」である。本説は,ある底生個体群から海洋環境へと移出した幼生が,ときに100 km以上におよぶ長距離を移動し,他の流体湧出場に移入するという分散過程を仮定している。しかし,幼生分散過程が包含する諸要因を定量的に評価した上で,同過程の成否を検証した例はない。そこで本稿では,熱水域固有動物の幼生分散過程を「移出」「移動」「移入」の各段階に分解し,幼生分散に関連する諸要因について生物学および海水動態の観点からレビューする。また,定量的な観測やシミュレーションモデルに基づく指標数値を用いて,沖縄海域における幼生分散過程の成否を試算した例を紹介する。まとめに,幼生分散研究における難点や調査・技術的制約を挙げ,現状を打破する実験手法や発展の見込み,海洋観測を基盤とする10年規模の将来展望を示す。
著者
中嶋 亮太 山下 麗
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.129-151, 2020-09-15 (Released:2021-12-22)
参考文献数
104
被引用文献数
1 7

海洋マイクロプラスチック汚染は,海洋が直面する地球規模課題の1つであり,近年,海洋マイクロプラスチック(MPs)に関する膨大な数の論文が出版されている。MPs をモニタリングする重要性が増す一方で,MPs の調査・計測手法は発展途上の段階にあり,多くの研究者が最適な手法を模索している。海洋MPs の主な調査・計測する手順は,(1)海水・堆積物・生物などの試料の採取,(2)夾雑物(有機物・無機物)を除去することでMPs を分離と精製,(3)検鏡と化学判別の組み合わせによるMPs の識別と同定からなる。それらの手法は多岐にわたり複雑である。本総説では海洋MPs の採取,前処理,同定,定量化の様々な手法について紹介するとともに,各手法の特徴と問題点を整理した。さらに今後のMPs 計測手法の方向性を述べる。
著者
小川 数也
出版者
日本海洋学会
雑誌
日本海洋学会誌 (ISSN:00298131)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.54-60, 1974-04-30 (Released:2011-06-17)
参考文献数
34
被引用文献数
4

Some experiments were carried out to explain the in situ phenomena that the number of coliform organisms decreased rapidly from estuaries to offshore, and also at deeper layer, and that the appearance of coliform types varied.In natural seawater, experimental results did not show that Escherichia coli was extinct by self-purification or anti-biosis action of seawater, but it showed that this organism decreased mainly because of their starvation caused by lack of nourishment. Although the decreasing rate of bacterial density was delayed in enriched seawater, addition ofnutrient even at the time of bacterial extinction promoted the appearance of variated form of this bacteria with floc formation.Flocculation of bacterial cells was influenced by quality and quantity of added nutrients. Temperature was shown to have an effect on the floc formation, but appearance of variated form in flocculated cells of E. coli was not affected by temperature. Flocculated particles of coliform bacteria were adsorbed on suspended particles in seawater and precipitated rapidly. This phenomenon seems to be a cause of the rapid disappearance of coliform bacteria in coastal waters.In bottom deposits the coliform bacteria probably survive longer as physiologically variated forms when suitable nutrients were supplied.
著者
古賀 文洋
出版者
日本海洋学会
雑誌
日本海洋学会誌 (ISSN:00298131)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.16-20, 1968-02-29 (Released:2011-06-17)
参考文献数
7
被引用文献数
10

橈脚類には他の甲殻類にみられるように産卵後, 卵塊や卵嚢を体の一部に付着させる種類と水中に浮遊性卵を産出するものとがある.本論では境脚類の浮遊性卵についてC. GROBBEN, J. SφMME, S. M. MARSHALL etc. によって記載されたCalanus 類, M. OBERGによるCentropages, M. W. JOHNSONによるTortanusの卵などに著者が観察した数種類の卵を記載し考察を加えた.浮遊性卵には特別な浮遊適応をしたものと, しないものがある. 浮遊適応をしない卵で典型的なものはCalanidaeの卵である. 浮遊適応をした卵には膠質状のケースの中にあるEucalanus, 刺やいぼ状の突起を持つCentropagesや赤道面が平板状になったケースを持つTortanusの卵などがある.
著者
堤 裕昭 岡村 絵美子 小川 満代 高橋 徹 山口 一岩 門谷 茂 小橋 乃子 安達 貴浩 小松 利光
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.291-305, 2003-05-05
参考文献数
33
被引用文献数
27

九州西岸の有明海奥部海域において,近年夏季に発生する底層水の貧酸素化現象および頻発する赤潮の発生メカニズムを解明するため,2001年8月より2002年2月まで毎月1回,水質調査を行った。本調査期間中,8月上旬に底層で貧酸素水塊が,11月に珪藻赤潮がいずれも大雨の後に発生し,その発生過程を次のようにまとめた。1.夏季の貧酸素水塊 梅雨期の大雨→河川からの大量の淡水の流入→表層の塩分低下による成層構造の発達・夏季の気温上昇に伴う水温の成層構造の発達→底層水の貧酸素化 2.秋季の珪藻赤潮 秋季の大雨→河川からの大量の淡水の流入・大量の栄養塩の供給→低塩分・高栄養塩濃度の表層水の形成→赤潮の発生 1998年以降,秋季の赤潮は大規模化する傾向が認められる。有明海奥部海域では,塩分や水温による成層構造が発達した時に,海水交換に大きな変化が生じ,海水が滞留しがちになることで赤潮が発生している可能性が指摘される。
著者
西 隆一郎
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.97-103, 2008-02-29

一般の海域利用者は,漂着物ゴミのない綺麗で健康的な海岸を良い海岸環境と評価しがちである.筆者も良好な海岸環境を求めて10年間以上海岸清掃を続け,その知見に基づいて海岸廃棄物の定性的な考察だけを行ったことがある(西ほか,1996).しかし,漂着物(ゴミ)の管理を行うには,定量的な解析法が必要である.そこで,本論文では沿岸域の漂着物に関する問題のうち,特に陸起源漂着物の定量的評価法について考察する.つまり,陸起源物質の移動経路である山地〜河川〜河口〜沿岸域に渡る水系でのゴミ移動を取り扱う手法を提案する.ただし,漂着物収集に携わる一般市民レベルでも使いやすい解析手法とするために,土木工学で用いられる流砂系・漂砂系での土砂収支と言われる巨視的なアプローチを適用する.なお,本数値解析手法は,山地,河川,沿岸領域で収集されたゴミデータに基づいて有効性が検証されるべきであるが,この点に関しては,実際に陸起源漂着物(ゴミ)を調査している研究者の応用に委ねることにする.
著者
植松 光夫 平 啓介 奥田 章順
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.12, no.5, pp.517-527, 2003-07-05 (Released:2008-04-14)
被引用文献数
2

我が国の独自技術で開発したUS-1A大型飛行艇(水陸両用)は,波高が3m以上の荒天下においても離着水が可能な世界一の性能を有している。飛行艇の最大の魅力は,航空機でありながら海上に着水でき,短時間で広範囲の海域の観測が可能な点にある。シンポジウムでは,海洋にかかわる各分野(海洋物理,海洋生物,海洋化学,水産海洋,衛星海洋)での飛行艇を利用した観測やそれに必要とされる観測装置の開発などについて議論し,飛行艇による大気・海洋観測の実現に向けての具体的な提案を行った。また,多くの研究者が船舶と同様に利用できるように飛行艇の性能や特徴を説明した。お互いの特徴を補完した船舶との同時観測や,飛行艇にしか出来ない観測などについての運用についてなども含め,本報告にまとめた。
著者
植松 光夫 平 啓介 奥田 章順
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.12, no.5, pp.517-527, 2003-07-05

我が国の独自技術で開発したUS-1A大型飛行艇(水陸両用)は,波高が3m以上の荒天下においても離着水が可能な世界一の性能を有している。飛行艇の最大の魅力は,航空機でありながら海上に着水でき,短時間で広範囲の海域の観測が可能な点にある。シンポジウムでは,海洋にかかわる各分野(海洋物理,海洋生物,海洋化学,水産海洋,衛星海洋)での飛行艇を利用した観測やそれに必要とされる観測装置の開発などについて議論し,飛行艇による大気・海洋観測の実現に向けての具体的な提案を行った。また,多くの研究者が船舶と同様に利用できるように飛行艇の性能や特徴を説明した。お互いの特徴を補完した船舶との同時観測や,飛行艇にしか出来ない観測などについての運用についてなども含め,本報告にまとめた。
著者
大塚 攻 西田 周平 Susumu Ohtsuka Shuhei Nishida 広島大学生物生産学部附属水産実験所 東京大学海洋研究所 Fisheries Laboratory Hiroshima University Ocean Research Institute University of Tokyo
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 = Umi no Kenkyu (Oceanography in Japan) (ISSN:21863105)
巻号頁・発行日
vol.6, no.5, pp.299-320, 1997-10-05
参考文献数
151
被引用文献数
9

The feeding ecology of marine pelagic copepods has been intensively studied since the 1910's. Recently, many new techniques, such as high-speed cinematography, deep-sea ROV, and SCUBA, have been introduced for direct observatios of their feeding behavior. These have clearly revealed that particle-feeders employ suspension feeding but not filter-feeding and that appendicularian houses are important food items for some pelagic calanoid, harpacticoid, and poecilostomatoid copepods. Particle-feeders commonly utilize microzooplankton such as ciliates and copepod nauplii and fecal pellets. Detritivory, strict selective predation, and gorging have been found exclusively in oceanic copepods. Five calanoid families Diaixidae, Parkiidae, Phaennidae, Scolecitrichidae, and Tharybidae with special sensory setae on the mouthparts and the poecilostomatoid Oncaea are considered to be adapted for feeding on detrital matter such as appendicularian houses. Some heterorhabdids probably inject a venom or anesthetic into prey animals to capture them. In the laboratory, predation on fish eggs and larvae by copepods, rejection of some dinoflagellates by calanoids, developmental inhibition of copepod eggs by feeding on some diatoms, and copepods' reactions to fecal pellets were demonstrated. Pelagic copepods constitute an assemblage of evolutionarily different groups. Among the 10 orders, calanoids supposedly first colonized the marine pelagic realm, and, at present, are most successfully adapted of any order to this environment by a wide variety of feeding mechanisms. They have developed a wide variety of feeding mechanisms. On the other hand, poecilostomatoids have secondarily become adapted to pelagic environments and are loosely associated with fish larvae and pelagic invertebrates, such as salps and appendicularians, for feeding. The calanoid family Heterorhabdidae consists of 2 particle-feeding, 3 carnivorous, and 2 intermediate genera. A phylogenetic analysis showed that the carnivores could have originated from the particle-feeders through the intermediate conditions, and that the mouthpart elements of the carnivores could be derived from those of the particle-feeders with modifications of the original elements and no addition of novel structures. Recent studies demonstrate that some copepods such as scolecitrichids and Oncaea can efficiently feed on nanoplankton trapped in appendicularian houses, and also suggest that suspension-feeders may transport diatom resting spores into the sea-bottom in the epipelagic zone and metals in the deep-sea bottoms through their feeding behavior, and that epipelagic carnivores may compete with fish larvae for copepod nauplii and dinoflagellates.
著者
関 文威 Claude E. ZOBELL
出版者
日本海洋学会
雑誌
日本海洋学会誌 (ISSN:00298131)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.182-188, 1967-08-31 (Released:2011-06-17)
参考文献数
18
被引用文献数
12 12

カルフォルニア大学研究船アルゴ号による日本海溝の海洋微生物調査 (Scripps' Zetes (Deepac X) Expedition) の一環として, 次のことが判明した.ラマポ海淵付近の深さ9,500m周辺の海底堆積物中に生存する微生物は, 表層堆積物1キログラム当たり, 1日ほぼ1.0μgCの炭酸暗固定を行なっている. また, 海底直上水中の微生物も, 海水1リットル当たり, 0.22から0.32μgCの固定を行なっている.
著者
川合 英夫
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.333-339, 2001-07-05

「朝鮮」を「解」と略した「東鮮暖流」「北鮮寒流」という海流名は, 民族差別と闘う連絡協議会によって1991年に「日本の植民地時代以来の差別的な表現」だと見なされ, 文部省 (1992)『学術用語集』から削除された。本報では約30編の文献を精査して「東鮮暖流」「北鮮寒流」は宇田 (1934) に,「西鮮海流」は野満 (1931) に,「北鮮暖流」は日高 (1943) に, 初記載があったことを突き止め, これら海流名の扱い方を考える。平 (2000) が提案した「東朝鮮暖流」「北朝鮮寒流」を取りあえず代替語とする。ただ「東朝鮮暖流」は今後よく使われそうなのに, 口頭では多音節で冗長だから,「東の鮮やかな暖流」の意味を併せもつ「東鮮暖流」という海流名が22世紀またはそれ以降, 朝鮮民族のご了承を得て復活することを希望する。野満 (1931, 1942a, b) が本文では「西朝鮮海流」を, 海流図では「西鮮海流」を用いていた事実は, 海流略称はもともと図面空間節約のため生じたもので, 差別意識とは無関係であった証しである。
著者
川合 英夫
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.341-349, 2001-07-05
参考文献数
42
被引用文献数
2

近年, 朝鮮半島の国々は国連地名標準化会議などの席上で,「日本海」の名は旧日本による植民地政策の遺産だという理由で, その改称を要求している。この問題に関連して調べた結果を報告する。まず, 日本海を含む総計11の縁海の命名法を分類し,「日本海」という名が, この海が縁海として存立するために不可欠な, 母大洋たる太平洋から縁海の日本海を隔離している主要列島弧の名に因んでいて地理学的にも妥当なことを指摘する。次に, 調べた日本語事典7編はすべてKrusensternをもって「日本海」の名の初記載者と誤認していた背景に触れる。最後に, 西洋製, 日本製いずれの地図でも「日本海」の名が1800年頃から慣用され, 明治維新頃に定着するに至った経過を, 地図一覧・地図資料 (青山, 1997) と古海流図 (1837〜1887) を併用し, 1/3世紀別の地図出現回数の変遷により確認する。日本による半島の植民地支配の罪過は重く大きいが,「日本海」の名の地図における慣用・定着はこれとは無関係のことである。