著者
坂本 圭 辻野 博之 中野 英之 浦川 昇吾 山中 吾郎
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.175-188, 2018-09-15 (Released:2018-09-05)
参考文献数
15

著者らの海洋大循環モデル「気象研究所共用海洋モデル(MRI.COM)」は,開発が始まってから20 年近くが経過し,気象研究所と気象庁の様々な部門で利用されるようになるとともに,ソースコードの大規模化・複雑化が進んだ。このような状況の下でも,バグの混入や意図しない影響を抑えながらモデルを効率的に開発するため,現代的なソフトウェア開発で用いられるツールと手法を取り入れ,開発管理体制を一新した。まず,ソースコードの開発履歴(バージョン)を管理する「Git(ギット)」を導入した。このツールにより,複数の開発者が複数の課題に同時に取り組む並行開発が可能になった。また,プロジェクト管理システム「Redmine(レッドマイン)」を導入し,開発状況を開発者全員で共有した。このシステムによってデータベースに逐一記録された開発過程が,他の開発者や次世代の開発者にとって財産となることが期待される。これらのツールを用い,さらに開発手順を明確にすることで,開発チーム内の情報共有と相互チェックを日常的に行う開発体制に移行することが可能となったことは,コード品質の向上に大きく寄与している。現在,気象庁では,MRI.COMだけでなく,気象研究所と気象庁で開発しているほぼ全てのモデルをGit(またはSVN)とRedmineで一元的に管理するシステムを構築しており,モデルの開発管理及び共有化が大きく前進している。
著者
小栗 一将
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.189-216, 2018-09-15 (Released:2018-09-05)
参考文献数
143

戦後間もない時代に中央気象台,続いて長崎海洋気象台に勤め,1960年に渡英した海洋学者,石黒鎮雄博士(1920-2007)は,2017年ノーベル文学賞を受賞した小説家,カズオ・イシグロ氏の父として紹介される機会が多い。しかし博士については,海洋の潮位や波高の研究に携わった研究者であったことと,人生の大半を英国で過ごしたこと以外,あまり知られていない。石黒博士は1940年代末から電子工学や物理学の知識を駆使し,波圧計をはじめとする様々な海洋観測機器を開発した。また,水理模型実験による潮流解析への画像解析技術の導入,電子回路モデルの開発とアナログコンピューティングによる長崎湾に発生する副振動の解析など,先進的な技術を用いて多くの成果を挙げた。1950年代末以降には,英国で,電子回路モデルを用いた潮位の解析装置を大規模なアナログコンピュータに発展させ,北海の高潮予測を可能にした。本総説では,博士の論文ならびに関連資料の調査によって明らかになった石黒鎮雄博士のユニークな研究と,その業績を詳しく紹介する。
著者
堤 裕昭 岡村 絵美子 小川 満代 高橋 徹 山口 一岩 門谷 茂 小橋 乃子 安達 貴浩 小松 利光
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.291-305, 2003-05-05
参考文献数
33
被引用文献数
27

九州西岸の有明海奥部海域において,近年夏季に発生する底層水の貧酸素化現象および頻発する赤潮の発生メカニズムを解明するため,2001年8月より2002年2月まで毎月1回,水質調査を行った。本調査期間中,8月上旬に底層で貧酸素水塊が,11月に珪藻赤潮がいずれも大雨の後に発生し,その発生過程を次のようにまとめた。1.夏季の貧酸素水塊 梅雨期の大雨→河川からの大量の淡水の流入→表層の塩分低下による成層構造の発達・夏季の気温上昇に伴う水温の成層構造の発達→底層水の貧酸素化 2.秋季の珪藻赤潮 秋季の大雨→河川からの大量の淡水の流入・大量の栄養塩の供給→低塩分・高栄養塩濃度の表層水の形成→赤潮の発生 1998年以降,秋季の赤潮は大規模化する傾向が認められる。有明海奥部海域では,塩分や水温による成層構造が発達した時に,海水交換に大きな変化が生じ,海水が滞留しがちになることで赤潮が発生している可能性が指摘される。
著者
植松 光夫 平 啓介 奥田 章順
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.12, no.5, pp.517-527, 2003-07-05

我が国の独自技術で開発したUS-1A大型飛行艇(水陸両用)は,波高が3m以上の荒天下においても離着水が可能な世界一の性能を有している。飛行艇の最大の魅力は,航空機でありながら海上に着水でき,短時間で広範囲の海域の観測が可能な点にある。シンポジウムでは,海洋にかかわる各分野(海洋物理,海洋生物,海洋化学,水産海洋,衛星海洋)での飛行艇を利用した観測やそれに必要とされる観測装置の開発などについて議論し,飛行艇による大気・海洋観測の実現に向けての具体的な提案を行った。また,多くの研究者が船舶と同様に利用できるように飛行艇の性能や特徴を説明した。お互いの特徴を補完した船舶との同時観測や,飛行艇にしか出来ない観測などについての運用についてなども含め,本報告にまとめた。
著者
河野 健
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.127-137, 2010-03-15

2009年6月に開催されたIntergovernmental Oceanographic Commission(IOC)の第25回総会において,現在の海水の状態方程式(Practical Salinity Scale 1978 and International Equation of State of Seawater 1980:EOS-80)に代わる新しい海水の状態方程式(Thermodynamic Equation of Seawater 2010:TEOS-10)の採用が承認された。EOS-80は,その方程式の中で実用塩分スケール(Practical Salinity Scale 1978:PSS-78)で定義される実用塩分(Practical Salinity,S_P)を用いていたが,TEOS-10では,実用塩分ではなく,絶対塩分(Absolute Salinity,S_A)が用いられている。本報では新たな状態方程式(TEOS-10)に関して,関係する主要な論文を基に,特に塩分の定義を中心に紹介する。
著者
川合 英夫
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.333-339, 2001-07-05

「朝鮮」を「解」と略した「東鮮暖流」「北鮮寒流」という海流名は, 民族差別と闘う連絡協議会によって1991年に「日本の植民地時代以来の差別的な表現」だと見なされ, 文部省 (1992)『学術用語集』から削除された。本報では約30編の文献を精査して「東鮮暖流」「北鮮寒流」は宇田 (1934) に,「西鮮海流」は野満 (1931) に,「北鮮暖流」は日高 (1943) に, 初記載があったことを突き止め, これら海流名の扱い方を考える。平 (2000) が提案した「東朝鮮暖流」「北朝鮮寒流」を取りあえず代替語とする。ただ「東朝鮮暖流」は今後よく使われそうなのに, 口頭では多音節で冗長だから,「東の鮮やかな暖流」の意味を併せもつ「東鮮暖流」という海流名が22世紀またはそれ以降, 朝鮮民族のご了承を得て復活することを希望する。野満 (1931, 1942a, b) が本文では「西朝鮮海流」を, 海流図では「西鮮海流」を用いていた事実は, 海流略称はもともと図面空間節約のため生じたもので, 差別意識とは無関係であった証しである。
著者
植松 光夫 平 啓介 奥田 章順
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.12, no.5, pp.517-527, 2003-07-05 (Released:2008-04-14)
被引用文献数
1

我が国の独自技術で開発したUS-1A大型飛行艇(水陸両用)は,波高が3m以上の荒天下においても離着水が可能な世界一の性能を有している。飛行艇の最大の魅力は,航空機でありながら海上に着水でき,短時間で広範囲の海域の観測が可能な点にある。シンポジウムでは,海洋にかかわる各分野(海洋物理,海洋生物,海洋化学,水産海洋,衛星海洋)での飛行艇を利用した観測やそれに必要とされる観測装置の開発などについて議論し,飛行艇による大気・海洋観測の実現に向けての具体的な提案を行った。また,多くの研究者が船舶と同様に利用できるように飛行艇の性能や特徴を説明した。お互いの特徴を補完した船舶との同時観測や,飛行艇にしか出来ない観測などについての運用についてなども含め,本報告にまとめた。
著者
川合 英夫
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.341-349, 2001-07-05
参考文献数
42
被引用文献数
2

近年, 朝鮮半島の国々は国連地名標準化会議などの席上で,「日本海」の名は旧日本による植民地政策の遺産だという理由で, その改称を要求している。この問題に関連して調べた結果を報告する。まず, 日本海を含む総計11の縁海の命名法を分類し,「日本海」という名が, この海が縁海として存立するために不可欠な, 母大洋たる太平洋から縁海の日本海を隔離している主要列島弧の名に因んでいて地理学的にも妥当なことを指摘する。次に, 調べた日本語事典7編はすべてKrusensternをもって「日本海」の名の初記載者と誤認していた背景に触れる。最後に, 西洋製, 日本製いずれの地図でも「日本海」の名が1800年頃から慣用され, 明治維新頃に定着するに至った経過を, 地図一覧・地図資料 (青山, 1997) と古海流図 (1837〜1887) を併用し, 1/3世紀別の地図出現回数の変遷により確認する。日本による半島の植民地支配の罪過は重く大きいが,「日本海」の名の地図における慣用・定着はこれとは無関係のことである。
著者
赤根 幸子 牧野 慎也 橋本 典親 八束 陽介 河井 裕 竹田 一彦 佐久川 弘
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.185-196, 2004-03-05
被引用文献数
2

陸起源の溶存有機物濃度の高い広島湾において2000年を除く1996年から2002年の春季(5月,6月),及び夏季(8月)に海水を採取し,蛍光法を用いて海水中道酸化水素濃度の測定を行った。道酸化水素濃度の日変化や鉛直分布を調べるとともに,船上での光照射実験及び分解実験から道酸化水素の生成速度及び半減期の見積り,また環境諸要因との相関関係などを調査研究した.その結果,道酸化水素濃度は昼間(143〜448 nmol L^<-1>)の値が,夜間(85〜259 nmol L^<-1>)よりも高く,また,表面水で高く水深が深くなるにつれて減少する傾向を示した。道酸化水素の生成速度は8.0〜16 nmol h^<-1>, 半減期は12〜14hであり,報告例がある他の海域と比べて表面海水中濃度は高く,生成速度,半減期ともに速いものであった。また,広島湾表面海水は閉鎖性の高い海域の特徴として,河川水の流人の影響を強く受けることから主に塩分,水温が道酸化水素濃度を左右する要因であること,他方,微生物による分解作用も強く受けていることが実験的に示された。
著者
Zhang Xiangdong Zhang Jing
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, 2002-03-05

北極海における熱力学効果は大気海洋相互作用に影響を与え,そこからの淡水流出は北大西洋の熱塩循環を変える可能性をもっているので,北極海の気候研究は需要である。観測データだけから熱・淡水収支を知るのは困難なので,海氷海洋モデルを大気データと河川からの淡水供給で駆動することによって,熱・淡水収支を調べた。モデルにはネプチューン効果とフラックス修正項が入っている。北極海への熱流入はフラム海峡からの46TW(T=10^<12>)が主である。バレンツ海には43TWが入るが,そのうちほとんどはバレンツ海で大気へ逃げ,北極海には2TWしか入らない。80,000km^3の北極海淡水は,ほぼカナダ海盆とユーラシア沿岸に溜まっている。淡水供給源は河川,降水,ベーリング海峡からの海水流入である。淡水流出は,海水としてカナダ多島海からの3,000km^3 yr^<-1>とフラム海峡からの1,000 km^3 yr^<-1>であり,海氷としてフラム海峡からの1,900 km^3 yr^<-1>である。
著者
関口 秀夫 石井 亮
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.21-36, 2003-01-05
被引用文献数
20

有明海は本邦全体の干潟面積の約20%に相当する広大な干潟をもち,その中で最大の干潟面積をもつ熊本県ではアサリ漁業が盛んである。本邦全体のアサリ漁獲量は1975〜1987年にかけて14万〜16万トンあったが,これ以降激減している。有明海全体のアサリ漁獲量を代表する熊本県の漁獲量は,1977年に約6万5千トンあったが,2000年にはその1%にまで激減している。アサリ漁獲統計資料の解析によれば,アサリ漁獲量の減少パターンは有明海固有のものであり,漁獲量激減に関与している要因は本邦全域に及ぶような要因ではない。また,有明海の二枚貝類各種の漁獲統計資料の解析によれば,有明海のアサリ漁獲量の減少パターンは他の二枚貝類と異なっており,アサリ漁獲量の激減に関与している要因はアサリに固有の要因である。有明海のアサリ資源の幼生加入過程に関する過去の研究成果を踏まえれば,アサリ浮遊幼生の生残率の低下が,さらに言えば,この生残率の低下を引き起こしている要因が,アサリ漁獲量の近年の激減に関与している可能性が高い。ここでは,この推測を検証するための,併せて着底稚貝以降の死亡が関与する可能性を検証するための,プロジェクト方式の研究計画についても,提案をおこなう。
著者
岸野 元彰 古谷 研 田口 哲 平譯 享 鈴木 光次 田中 昭彦
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.10, no.6, pp.537-559, 2001-11-01 (Released:2008-04-14)
参考文献数
28
被引用文献数
1

海水の光吸収係数は, 海洋の基礎生産や海色リモートセンシングの研究において重要なパラメータの1つである。今まで, その測定法について多くの提案がなされてきた。本稿は, まず吸収係数の定義を明確に定義し, その海洋学における意義を述べた。引き続き, オパールグラス法, グラスファイバー法, 光音響法, 積分球法の原理を述べると共に問題点を挙げた。また, 採水処理しなくて済む現場法についてその原理と問題点をまとめた。引き続き吸収係数の組成分離法について直接分離法と実測値から求めた半理論的分離法を紹介した。最後に人工衛星によるリモートセンシングによる推定法に言及した。
著者
角皆 静男
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.11, no.6, pp.651-653, 2002-11-05
被引用文献数
4 1

川口ら(2002)は,有明海における2000年のノリ不作の原因を珪藻が栄養塩を枯渇させてしまったせいと突きとめながら,溶存無機窒素(DIN)減少の理由を有明海内にだけ求めたため,説得力のある説明ができなかった。角皆(1979)のケイ素仮説を用いるとこれが簡単に説明できる。この年は高温・多雨だったので,雲仙普賢岳の噴火による火山灰から溶け出した効果も加わって,多量の溶存ケイ酸塩が海に流れ込み,珪藻が異常増殖し,ノリにいくべき栄養塩を使ってしまったとなる。

2 0 0 0 OA

著者
川口 弘一
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, 2002-03-05

本特集号は,東京大学海洋研究所所属研究船白鳳丸の共同利用航海(KH-97-2,1997年7月9日〜9月8日)の研究結果を総括したものである。航海名PSECSは,Pacific Subarctic Ecosystem Studyの略である。航海の目的は,北太平洋亜寒帯域およびベーリング海生態系における生物学的および生物地球化学的過程を,全国18の研究機関に所属する42名の研究者によって総合的に研究するというものである。主な研究項目は以下のとおりである:1)北太平洋亜寒帯域の東部と西部およびベーリング海の生物群集と生物生産過程の比較研究,2)表層と中層の食物網の構造とそれに関係する生物地球化学的過程の研究,3)表層生態系と中層生態系の相互作用の研究,4)海面を通しての温室効果ガスの出入の収支測定,5)沈降・懸濁・溶存態有機物の鉛直輸送の測定,6)エアロゾル構成物質および空中浮遊放射性物質の特定。
著者
前川 陽一 中村 亨 仲里 慧子 小池 隆 竹内 淳一 永田 豊
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.20, no.6, pp.167-177, 2011-11-15
被引用文献数
2

2009年4月と10月の2回にわたって,勢水丸を潮岬周辺に派遣して,詳細な海況の観測を実施した。串本・浦神の検潮所間の水位差は,しばしば黒潮流路が直進路をとっているか,蛇行路をとっているかの指標として用いられる。従来にない密な観測点を設けることによって,この水位差は串本・浦神の間で緩やかに起こっているのではなく,潮岬の沖,東西約6kmの幅で集中的に生じていること,また,その水位差のほとんどは,僅か150m深までのごく表層の海洋構造によって作り出されたものであることが示された。黒潮本流の流速場を支配している温度躍層以深の水温・塩分構造が直接関係するのではなく,振り分け潮のような現象によって黒潮表層水が紀伊半島南西岸にもたらされるかどうかによって水位差が生じていることをより詳細に示すことができた。
著者
三宅 裕志 山本 啓之 北田 貢 植田 育男 大越 健嗣 喜多村 稔 松山 和世 土田 真二
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.14, no.6, pp.645-651, 2005-11-05
被引用文献数
1 3

シロウリガイ類は深海から採集すると通常2, 3日しか生存せず, 飼育を試みた報告は皆無であった。本研究では, シロウリガイ類の飼育の試みとして, 良好な健康状態で採集し, かつシロウリガイ類の共生細菌のエネルギー源(泥中の硫化水素)を確保するために, 圧力以外の現場環境をできる限り維持した状態で採集する装置のMTコアを開発した。また, シロウリガイ類は高酸素濃度に弱いため, 溶存酸素濃度制御装置により低酸素濃度環境を維持する飼育システムを製作した。シロウリガイとエンセイシロウリガイをそれぞれ相模湾初島沖水深1,150m〜1,160mの地点, 石垣島沖の黒島海丘の643mの地点で採集した。採集したシロウリガイは約1週間で死亡したが, 黒島海丘のエンセイシロウリガイは17日間生存した。また, エンセイシロウリガイでは2回放卵が確認された。以上のことから, エンセイシロウリガイは飼育が容易な種と考えられた。
著者
野口(相田)真希 千葉 早苗 田所 和明
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.43-57, 2018-01-15 (Released:2018-03-13)
参考文献数
81

北太平洋における10数年規模の気候変動に関連した海洋生態系の変化について,これまで多くの研究が行われてきた。その代表的な事例として,1976/77年に発生した気候シフトに関する研究が挙げられる。これらの研究では,観測や数値モデルによって,1976/77年に発生した気候シフトがプランクトンから魚類に至る海洋生態系に大きな影響を与えたことが示されている。また,ここ約半世紀の間,北太平洋の広域で表層の栄養塩濃度の減少トレンドも示しており,動植物プランクトンの生産への影響を示唆している。このように,海洋環境の変動に関連する海洋生態系の変化について多くの知見が得られている。一方,生態系構造には未だ不明な点が多く,物理環境-栄養塩-生態系に至る一連の変動プロセスについて定量的に理解することができていない。そこで本総説では,観測と数値モデルから得られた北太平洋域の一次生産者と動物プランクトンの10年規模変動を概説し,海洋生態系の変動メカニズムの解明のために今後の研究展開を提示する。
著者
丹羽 淑博
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.175-188, 2017-09-15 (Released:2018-09-12)
参考文献数
63
被引用文献数
3

海洋中・深層の乱流混合は,深層大循環の強さやパターンをコントロールする重要な物理過程である。この乱流混合の基になるエネルギーは,潮汐流や地衡流が海底地形の上を通過したり,大気擾乱の移動に伴って風応力が変動したりすることによって励起される内部波のエネルギーが乱流スケールにまでカスケードすることによって供給される。本稿では特に内部波の励起過程に着目し,近年,理解が大きく進展した潮汐起源の内部潮汐波,大気擾乱起源の近慣性内部波,地衡流起源の風下内部波のグローバル分布に関する研を紹介する。さらに,中・深層の乱流混合のグローバル分布のパラメタリゼーションの実現に向け,残されている課題について議論する。
著者
久木 幸治
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.91-106, 2020

<p>短波海洋レーダによる波浪研究の現在までの進展について紹介する。短波海洋レーダが受信する波浪からの後方散乱電波のドップラースペクトルには,波浪を構成している全ての自由波成分が関与している。このため,ドップラースペクトルから波浪スペクトルを推定することが可能である。その推定手法には,半経験的な手法,パラメータ適合による手法,線形インバージョン法,非線形インバージョン法がある。この中で,半経験的な手法が最も広く使われている。半経験的な手法とは,ドップラースペクトルと波浪パラメータとの関係式において未知の係数を経験的に求めることによって波浪パラメータを求める手法である。パラメータ適合による手法は,広ビーム型短波海洋レーダで得られるドップラースペクトルの解析のために開発された。線形インバージョン法は,狭ビーム型短波海洋レーダで波浪スペクトルを求める手法として最もよく知られた手法であり,ドップラースペクトルと波浪スペクトルとの関係式を波浪スペクトルについて線形な式に近似してから,波浪スペクトルを求める手法である。非線形インバージョン法は,日本で最も精力的に開発が進められている手法であり,線形インバージョン法を高度化した手法である。短波海洋レーダによる波浪推定精度を高めるためには,推定手法の高精度化とともに,SN(信号対雑音)比の高いドップラースペクトルを選択する手法の開発が必要である。このことによって, 沿岸域における波浪の高い精度での予報が可能となることが期待される。</p>
著者
黒田 一紀
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.37-53, 2020-03-15 (Released:2020-03-27)
参考文献数
38

「海洋學談話會」は,農林省水産試験場の宇田道隆の発起により,海洋学に関する論著の紹介,試験研究成果の発表,および各職場の会員間の交流を目的として,1932年4月に開始された。東京・月島の水産試験場で月2 回木曜日の例会は1941年2月の172回まで続き,実講演者は80名,延べ話題提供数は506件に達した。この実績に伴う海洋学への情熱と連携の高まりによって提唱された日本海洋学会の創立は,海洋気象台(神戸)に既存していた「海洋学会」と話合いが行われたが,1937年前半に不調に帰した。その後,1939年末における標準海水準備委員会の立上げを切掛けとして,「海洋學談話會」と「海洋学会」との間に妥協が成立し,1941年1月28日に創立に至った。ここでは,「海洋學談話會」の発起,内容,切掛けおよび母体から日本海洋学会創立への紆余曲折の経緯を調べたので,関係科学者の役割も含めて報告する。キーワード:海洋 學談話會,海洋学会,日本海洋学会,宇田道隆,日高孝次