- 著者
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林 青樺
- 出版者
- 日本語学会
- 雑誌
- 日本語の研究 (ISSN:13495119)
- 巻号頁・発行日
- vol.3, no.2, pp.31-46, 2007-04-01
本論は,主体の意志性の有無及び事象のあり方と主体との関係に焦点を当て,無標の動詞文との比較を通して,実現可能文の意味機能を検討した。その結果,主体の意図的または期待する行為の実現を表わす構文として論じられてきた実現可能文は,「旅行中に思いがけず中田英寿選手に会えた」などのような,主体の意図の外での偶発的な行為の実現を表わす場合もあることを指摘した。そして,マイナス的な意味を表わす語句との共起が不可能であることと,成立の確率の高い事象を表わせないことから,実現可能文は< <事象が主体にとって好ましく,かつ得難い>というプラスの意味特徴を持ち,実現した行為をプラスの事象と捉えるか,ニュートラルな事象と捉えるかという点で無標の動詞文と対立することを明らかにした。また,実現可能文は,表わす事象の成立が不確かなため,「主体の行為がどうなったか」という事象の結果に焦点が当てられ,事象の《未成立》を表わせることが明らかとなった。