- 著者
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倉石 一郎
- 出版者
- 一般社団法人日本教育学会
- 雑誌
- 教育学研究 (ISSN:03873161)
- 巻号頁・発行日
- vol.74, no.3, pp.360-369, 2007-09
高知県の「福祉教員」とは、戦後の新学制の発足直後の長欠・不就学問題対策のため配置され、その後同県の同和教育を担う人材を輩出した独特の教員制度である。本稿では、教育界の内と外の境界上に位置し、その開閉を通じて内外の調整をはかる存在という視点から福祉教員を位置づけ、その活動の軌跡の検討を通じて、長欠・不就学問題やその背後にある部落問題といった、教育実践の安定構造を脅かす危機(<社会>)に直面することによって教員の職分を画する境界にどのような変容が生じるかを考察した。分析から浮き彫りになったのは、境界を開いて問題状況を呈している子どもに、教育関係を媒介せずに直接的に働きかける側面と、その逆に自らが外部の盾になって遮断につとめ、かつての安定構造への回帰をもくろむ側面の両方であった。しかしこうした矛盾ともとれる両面性にもかかわらず、あるいはそれゆえに、福祉教員の足跡には多くの今日的示唆がある。