- 著者
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長野 基
- 出版者
- 跡見学園女子大学
- 雑誌
- 跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 (ISSN:13481118)
- 巻号頁・発行日
- vol.5, pp.117-136, 2007-03-15
本研究は日本の地方自治体における政策の選択と運営で重要な位置を占めるようになった「ローカル・マニフェスト」への,NPOが行なう第三者評価活動の事例分析を通じて,市民がマニフェストを適切に評価できるための方策と,それを支える社会的条件を考察するものである.参与観察を行った特定非営利活動法人自治創造コンソーシアム(CAC)による神奈川県知事マニフェスト評価の事例は政治・行政セクターが提供する政策情報や自己評価情報を利用しながら,公募による市民が中心となって評価を行ったものであった.これは政策評価研究において,住民自身が評価活動を行う中で自己決定への知識・技術を身につけ,自治体の政策や改革への「参画」を目指すために行なわれる「エンパワメント評価」と呼ばれる参加型評価を実践したものであり,従来,NPOが行うマニフェスト評価として論じられてきた「政策スペシャリスト」型評価とは異なるアプローチの可能性を示すものであった.加えて,この中でCACは政策評価での基本的なプロデュース機能を前提に参加者への知識・技術の教育を行う「エンパワメント機能」と,市民参加充実などの政策的主張を評価活動から行なう「アドボカシー機能」を果たしていた.こうした活動を行うNPOは「エンパワメント型マニフェスト評価」を支える「インフラストラクチャー型NPO」と呼ぶことが出来る.市民がマニフェストを読み解く知識・技術を高める方策に対して,分析から示されることは市民参加による「エンパワメント型マニフェスト評価」の可能性であり,それを支える「インフラストラクチャー型NPO」の重要性である.そして,政策情報の公開や自己評価結果のわかりやすい提供などを通じた行政・政治セクターによる社会的環境整備の必要性である.