- 著者
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山本 淳
- 出版者
- 山形県立米沢女子短期大学
- 雑誌
- 山形県立米沢女子短期大学紀要 (ISSN:02880725)
- 巻号頁・発行日
- vol.42, pp.101-121, 2007-01-31
近世期京都の戯作『井中水』には、九州侍・奥州侍が登場するが、その会話部に見られる俚言について、当世最大級の全国方言書『物類称呼』の記述に照らして検討した。その結果、『物類称呼』採録語からの転載がかなり認められた。正しく援用した例の外に、無批判に受け容れたために現地での実態にそぐわないもの、勝手な解釈を用いたために『物類称呼』の記述に逆らう例のあることが判明した。また、両人物の描き分けについては雑駁であり、両方言が同一人物の会話部に入り交じっている実態が明確になった。しかし一方で、『物類称呼』採録語ではない俚言もしくはその記述に相違する語形も存し、しかもそれが今日的な九州方言・東北方言に連続することも明らかになった。