- 著者
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山中 正樹
- 出版者
- 桜花学園大学
- 雑誌
- 桜花学園大学研究紀要 (ISSN:13447459)
- 巻号頁・発行日
- vol.3, pp.A23-A37, 2001-03-31
「千羽鶴」は、戦後川端文学の中でも特に高い評価を得た作品である。発表直後から、川端のいわゆる「古典回帰宣言」の文脈の中で、日本の古典や伝統美を描いた作品であると論じられて来た。確かに「千羽鶴」には「美しい」ものが描かれている。しかし同時に「醜い」ものも「美」と同様、あるいはそれ以上に描き出されている。いままでの<読み>では、「醜」は「美」をきわだたせるための相対的要素であるという視点からの論及が多かった。しかしそれは「醜い」ものを「美しいもの」に転化する、あるいはそう見せてしまう川端の戦略によるものである。「千羽鶴」の基底部には「ちか子のあざ」という「醜い」ものが厳然としてあり、それが菊治の意識を<呪縛>すると同時に、読者の<読み>すらも支配しているのである。本稿は、そうした「醜」というコードから「千羽鶴」を読み直す試みである。