- 著者
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妹尾 剛光
- 出版者
- 関西大学
- 雑誌
- 関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
- 巻号頁・発行日
- vol.38, no.1, pp.129-135, 2006-10
小論は、ルソーにおけるコミュニケーションの主体の形成とそこにある基本的問題点、即ち、母の愛を知らずに育ったルソーの直接的コミュニケーション、「心の底からの親しい交わり」への強い欲求は、この欲求を核とする人間の本心を善、社会あるいは大人の悪を子どもの悪の原因とする人間観、及び、これと結びついた、汚れを知らない孤独の中の人間は、技術の発展とともに依存、服従関係でしかない社会に入らざるをえないという社会観をルソーに持たせ、人間がコミュニケーションの主体に成熟して作る社会を、『エミール』以前にはルソーに考えさせなかったということを、更には、それにもかかわらず、『社会契約論』、『エミール』においてルソーはロックやスミスと基本的なところでは同じ人間論、社会論に辿り着いたということを、彼の主要著作の検討を通して明らかにする。