著者
高岡 朋子 大信田 静子
出版者
北翔大学
雑誌
北海道女子大学短期大学部研究紀要 (ISSN:02890518)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.37-48, 1999

高齢化社会を迎えるにあたり,高齢者が健康的な日常生活をおくるための「装い」の問題は重要である。しかし高齢者の被服はその購買力の弱さから冷遇されており,快適な衣生活を送るのには不充分である。そこで高齢者の体型の変化や機能の変化に対応し,シルエットやデザインも考慮した被服すなわち「高齢者に優しい衣生活」を目指し,基礎的研究として60歳以上の高齢健常者を対象に,購入した服種,既製服に対する問題点と要望,および被服をどのように捉えているかの意識調査を行った。結果を以下に述べる。1)高齢者の被服を取り巻く環境としての基本属性の質問をする。被験者145名で男女別内訳は男性60名,女性85名,年齢は60歳以上で30名,70歳以上38名,80歳以上5名であった。家族構成は夫婦2人暮らしが73名で50.3%,高齢者の全国平均と比較して高い数値を示した。もともと北海道の一世帯人数が少ないこと,被験者が都市近郊に居住している健常者であったことなどが原因として考えられる。つぎに仕事の有無では無職が100名と多く,この人達は公的年金で生活していると考えられるが医療費は2万円以下,趣味にかける費用として5千円から1万5千円までが多く,被服費はおよそ1万5千円程度かけていると思われる。2)被服の購入時期は「目的はなく欲しいと思ったときに購入する」が38.5%で最も多く,男女差として「行事の時に購入」がわずかに女性が多かった。購入方法では,女性は「自分で購入」が多く,男性は「配偶者と購入」が多く,男女差が見られ被服の調達は主に女性が担っていることが分かった。3)ここ一年間で購入した服種は,男性は「ズボン」「ポロシャツ」,女性では「ブラウス」「ズボン」であった。男性にポロシャツが多いのは仕事をしていないから,よりカジュアルなスタイルを求めているためと思われる。一方女性のシャツは着安いが,下着感覚という発想からか高齢者はブラウスが多かった。4)サイズ的には普通体型が多いが,60歳以上の体型区分は定められていないため,男女共に周経項目,長経項目に対するサイズの不適合が多く,既製服に対する不満度は高かった。特に女性は周経項目がきついという高齢者が7割以上をしめていた。5)高齢者の被服行動では,「無難な色彩の洋服を着用」し「その場にふさわしい服装をこころがける」に高い評価が現れ,つぎに高い評価の「上下の組み合わせを考えて幾通りにも着用」「洋服の趣味ははっきりしている」などにより,高齢者は慣習性を重視しながらも,おしゃれで賢い被服行動をしていた。さらに高齢者の好みに合う洋服は少なく,年寄り扱いされることへの「抵抗感」もあることがわかった。男女差の特徴としては,女性のほうが被服の心理性に関する項目に高い評価があり,「装い」に対する意識が強いことが判明した。6)既製服に対しては「保温性,通気性があり,薄手で軽く体の動きに合う素材」のもので,かつ「扱いが簡単なもの」を要望している。高齢者は身体的特徴に適合した被服すなわち高齢者の身体に優しい被服を望んでいることが分かった。以上高齢者の被服環境の実態と意識を調査した結果,高齢者の被服環境は決して快適なものとは言えず,体型に合わない被服の着用を余儀なくされている。高齢になっても「おしゃれ」心は持続しており,今後高齢化社会を迎えるにあたり,「高齢者に優しい被服」を提供するのには,体型の変化や機能の衰えをカバー出来る柔らかい素材で,サイズ調節のしやすいデザインの既製服の量産が望まれるところである。

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